それぞれの新年  ハートの海賊団ver.

「ローさん」

駆け寄ったコウに気付き、ローが振り向いた。
少し待て、と目線で促すと、彼はそのまま仲間との会話を続ける。
そして、一段落した所で、漸く彼女を振り向いた。

「行くか?」
「うん!」

何も言わなくても、わかってくれている。
コウは笑顔で頷いた。
船が島に到着する前、新たな島への期待に、胸を膨らませていたコウ。

「次の島には研ぎ師がいるらしいな」
「研ぎ師…」
「興味があるのか?」

ピンと立った耳がなくとも、その表情から彼女の心中が十分にわかる。
彼女はそれを隠すわけでもなく、二度・三度と頷いた。

「じゃあ、船が着いたら…一緒に行くか?」

コウの返事は決まっていた。










コウは猫の姿にはならず、人の姿のまま、きょろきょろと周囲を見回していた。
歩く足取りは軽やかで、彼女の楽しげな心のように、少しばかり弾んでいる。

「何だかみんな賑やか。何かお祭りかな?」
「あぁ…新年だからだろ」
「…新年って、祭りなの?」

きょとんとした様子の彼女。
生まれた島が違えば、風習が変わる。
新年を喜ぶ習慣はあれど、祭りごとのように賑わった経験はなかった。

「この島独特の風習だな。神社とやらに参るらしい」
「じんじゃ…」
「要は、自分たちの信じる神に新年の挨拶に行くんだろ」

言葉の意味は分からないけれど、ローの説明により島の住民たちが向かう先に何があるのかを知った。
ふぅん、と山に沿う長い階段を見つめる。

「ローさん、詳しいね」
「いや、聞いただけだ。行きたいか?」

階段の上を見上げるコウに気付き、問いかける。
彼女は少しだけ悩む様子を見せた。
けれど、そのまま頭を横に振る。

「私には信じる神様はいないから」

行こう、とローの隣に並び、鍛冶屋へと向かう。













「………うん、仕方ないよね」

運が悪かった。
コウは扉の張り紙を前に、そう呟く。
その言葉は彼女自身を納得させるためのものではない。
隣で睨むようにその張り紙を見つめるローのためのものだ。

「仕方ないよ、ローさん」
「……………」
「この島では客商売以外、新年は働かないみたいだから…うん、仕方ない」

穏便に宥めようとするも、何だか彼の纏う空気が不穏なものになってきている。
ピリピリと肌を刺激するそれに、背筋が粟立った。
鍛冶屋は、新年のため休業中だったのだ。

「…開けさせる」
「え!?」
「明日にはログが溜まるってのに三日も待てるか」

そう言って、張り紙の付いた扉に手をかけようとするローを見て、コウは慌てた。
勢いよく彼の腕に飛びつき、ぶんぶんと首を振る。

「駄目だよ、ローさん!折角の祝い事なのに!」
「こっちは海賊だ。向こうの事情なんか知るか」

確かに。
今までを思い出し、海賊と言うものの本質を思い出し―――納得しかけてしまう。
しかしハッと我に返り、やはり駄目だと首を振った。

「駄、目!」
「コウ、離せ―――」

漸く視線を合わせたローが、ぴたりと動きを止める。
見上げるコウの目に涙。
零れてはいないけれど、何かのきっかけでポロリと落ちそうなほどだ。

「…何でお前が泣くんだ」
「だって…皆、あんな良い笑顔で楽しそうだったのに、駄目だよ」

ギュッとローの腕を抱いて唇を噛む彼女。
暫くその様子を見つめていた彼は、溜め息と共に腕を下ろした。

「………ったく…仕方ねぇ」
「ローさん?」

自由な方の手が、コウの目元の涙を拭う。

「今回は見逃してやる」

そう言うと、ローは彼女の腕から自身のそれを抜き取り、くるりと踵を返す。
一瞬ぽかんとそれを見送った彼女だが、慌てて彼の背を追った。

「ローさん、ありがとう」
「お前に礼を言われる事じゃない」
「うん。でも、気持ちだから」

行きと変わらぬ笑顔を浮かべる彼女を見て、ローもまた、小さく笑みを浮かべた。



「ローさん、屋台発見」
「あぁ、そうだな」
「…綿飴って…何だろう、あれ…」
「………」
「………」
「………一つでいいのか?」
「うん!」

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あけましておめでとうございます。
いつも『Hora fugit』へのご来訪ありがとうございます。
申込みの際のコメントから、もう何年と言うお付き合いの方もいらっしゃるようです。
顔も知らないお付き合いではありますが、こうして共有できる―――ネット世界の素晴らしい所だなと思います。
今年もサイト共々よろしくお願いいたします。

2011年が皆様にとって良い年でありますように。

Hora fugit 雪耶 紅

11.01.01