複雑な想いを抱えて

雑誌を読んでいたコウは、ヒソカの言葉に「そうねぇ…」と呟いた。

「いつも年末は今年のうちに掃除しておこうって人間の依頼で忙しくなるわ。
年始も新しい年を祝うめでたい連中を片付けようって人間の依頼で忙しくなる。毎年そんな感じよ」
「今年も同じ?」
「家族で捌けなかった分が回って来るかもしれないけれど、基本的には自由じゃないかしら」

家出した身だしと呟く彼女。
確かに家を出ている彼女だが、別にゾルディックを捨てたわけではないし、家族もまた、そう思っていない。
普通に里帰りもしているし、連絡を受けて仕事の手伝いをする事もある。
年末年始もいつもと変わらないかと思いきや…どうやら、彼女にそのつもりはないらしい。

「帰らないの?」
「帰れとは言われてないわ」

別にいいんじゃない?と他人事のように話す彼女。
再び雑誌に落とされた彼女の視線が欲しくて、伸ばした手の指先が彼女の黒髪を掠め取る。
指先に絡めて遊んでから、その手がスッと彼女の項の方へと流れた。
放置しようとしていた彼女も、それ以上大胆に動かれては堪らないと、面倒そうに視線を上げる。

「ヒソカ。あなたが壊したナイフの代わりを探してるのよ。少しじっとしていてくれない?」
「柔なナイフだったね」
「3億するのよ、あのナイフ」

ヒソカの手に掛かれば、どんな高価なものであろうと紙くずのようなものだ。
尤も、それはコウや家族にも言えることだが、彼らはちゃんと力加減を覚えている。
出来るのにやらないヒソカとは、根本的に違うのだ。

「ナイフならよく知ってる人がいるから、僕に任せてよ」
「それ、旅団の人でしょ」
「★」

根っからの拷問好きで、そう言う武器に色々と詳しい彼のことだ、間違いない。
彼の助言を貰えば、間違いなく曰くつきのナイフを選ばれてしまう。
コウは任せられるか、とばかりに視線を雑誌に向けた。








キルアから連絡を受けたのは、新年一日目…元旦の朝の事。
お決まりの挨拶の後に続いたのは予想通りの礼で、その次は会いたいという要求だった。
自由な足を持つコウとは違い、少年の行動範囲は高が知れている。
もし近くに居るなら、と言う彼の現在地との距離は、実は車で1時間にも満たない。
二つ返事でOKを出せば、彼は電話の向こうで嬉しそうにゴンに報告していた。
相変わらず仲良くやっているらしい。

「また後でね」

そう言って電話を切ってから、もう一人一緒に行く事になると伝えるのを忘れていたと思い出す。
少し悩んでから、まぁ改めて電話して伝えるほどのことでもあるまいと思う。
コウがヒソカと行動している事は、認めていないにしても知っていることだ。
どちらにせよ嫌がるなら、伝えなくても変わらない。
感情を露に怒る姿も可愛いから、と言ったら盛大に表情を歪めてくれるだろうけれど。

「ヒソカ、出かけるわ」
「聞いていたよ。キルアだね」
「ええ。一緒に来てもいいけど…新年早々あなたの殺気を浴びるような可哀想な事はしたくないの」

わかってくれるわよね?と言う確認…いや、念押しの言葉に、ヒソカは「もちろん」と頷いた。
ここで欠片でも否定する素振りを見せれば、縛り付けてでも置いていくだろう。

「何のためにキルアのところに?」
「毎年お年玉をあげてるから、そのお礼が言いたいのよ。可愛いでしょ?」

自分から会いに来られる距離だと知っていたならば、間違いなくキルアの方から訪ねてきただろう。
嬉しそうに語るコウの表情は好ましいが、彼女をそうさせているのがキルアだというのは喜べない。
微妙な心中を笑顔の裏に隠し、用意を忘れているコウにそれを促した。
すぐに動き出す彼女を見て、やれやれと肩を竦める。




ホテルのドアを開き、電話口で交わしたであろう新年の挨拶を交わすキルア。
続いて彼の視線がコウの後ろを辿り―――げ、と表情が歪んだ。

「…ヒソカ」
「やぁ、キルア」
「相変わらず胡散臭い笑顔だな」
「君も相変わらず生意気だね。コウの弟じゃなかったら殺ってしまいたいよ」

危ない事を呟いた彼に、キルアがヒソカを振り向いていたコウの背後に逃げる。
念を学んだ今、彼の恐ろしさを肌で感じるようになった。
冗談は言え一瞬向けられた殺気はキルアを震わせるには十分なものだ。
キルアの様子に、コウが、もう、と声を上げる。

「ヒソカ。話したでしょう?」

先に帰る?と問われ、ヒソカはキルアに向けるものとは違う種の笑顔をコウに向けた。
ごめんごめん、と形ばかりの謝罪を口にして、詫びるように彼女の髪に触れ、そして。

「姉貴!ゴンもいるんだ!」

ヒソカの唇がコウを掠める前に、後ろから腕を引いて彼女を攫うキルア。
中に入り、リビングへと向かう途中、キルアが首だけを振り向かせてヒソカに向かって舌を出す。
12歳にしては大人びていると思っていたが、彼はまだまだ子供らしい。
置き去りにされる前に歩き出したヒソカは、楽しげに笑った。










「まったく…あなた達、顔を合わせたら喧嘩ばっかりね」

帰り道、ヒソカの運転する車の中で、コウはそう言った。

「喧嘩のつもりはないなぁ」

クスクスと笑うヒソカには余裕が溢れている。
確かに、喧嘩ではない。
どちらかと言うとキルアのほうが猫のように威嚇していて、ヒソカは欠伸しながらそれを流しているだけ。
時々相手をしているけれど、火に油を注ぐような対応しかしないのはわざとだ。

「コウがもう少しキルア離れできてたらいいんだけどね」
「あら、私が原因?あの子が幼い頃から親の代わりに可愛がってきたんだから、仕方ないじゃない」
「まぁ、必死に噛み付くキルアも悪くないね」

そう言って笑ったヒソカの表情を見たコウは、盛大に溜め息を吐き出した。
弟の身の危険…というほどではないけれど、何となくそれに似た感覚。
それに、一応ヒソカの恋人と言う位置に居る彼女としては、複雑な部分も無きにしも非ず。
感情を誤魔化すように遊んでいるヒソカの片手に自身の手を重ねる。
始めは手の甲だったのに、くるりと反転したそれがコウの手を包み込んだ。
きっと、人の考えを読むことに長ける彼は、コウの考えなどお見通しなのだろう。
あえてその“複雑な部分”を実感させるために、キルアの相手をしているような気がする。

「嫌な人に捕まったわね、私も」
「酷いなぁ。こんなに大事にしてるのに」

喉で笑うヒソカを横目に、確かに、と言う肯定的な言葉は喉の奥に飲み込んでおいた。





「ヒソカって最近化粧が薄くなったよね。ピエロみたいじゃなくなった」
「今日はたまたまだって」
「してる時も前よりは自然だよ。やっぱり、コウが嫌がるからかなぁ」
「…あ゛ー!!むかつく!!そりゃ、ゴリラみたいな奴とは一緒にはなってほしくないけどさ!
よりによってヒソカ!?何であんな危ない奴を選ぶんだよ!!」
「クロロの方が良かった?」
「どっちも嫌だっての!!」
「大事にされてるならヒソカでもいいと思うけどなぁ」
「ヒソカを兄貴って呼ぶなんて死んでも嫌だ!!」
「………まぁ、気持ちはわかる…かな」

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2010年が皆様にとって良い年でありますように。

Hora fugit 雪耶 紅

10.01.01