Owner of good luck
初日の出が昇ってから数時間後。
紅と成樹はコタツでぬくぬくとビデオ鑑賞に勤しんでいた。
そんなほのぼのとした一時。
成樹が口を開くまでは。
「なぁ、初詣行かへん?」
「初詣…?」
紅がテレビ画面から成樹へと顔を向ける。
リビングでは父母妹が年賀状を振り分けている最中だ。
「別にいいけど……………何でそんなに嬉しそうな…って言うか気色悪い笑顔を浮かべんな」
眉を中心に集め、紅がそう言う。
気色悪い笑顔と言うのは、何か企んでいる時の笑顔だとよくわかっているのだが……。
わかっているからこそ、あえて無視するのが紅である。
さっさとテレビに視線を戻すと、思考すらもそちらへ向ける。
――ピンッ――
「―――でっ!!」
後頭部に小さな…けれども硬い衝撃を受けて、思わず声を上げる。
原因を拾い上げて確かめると、それは500円玉だった。
そんなモノが勝手に飛んでくる筈もなく、犯人を睨みつける紅。
角が当たったらしく、片手で後頭部をさすっている。
「何のつもりだ」
いつもより低い声で言う。
「まぁまぁ、そないに怒らんと。話だけでも聞いたってや」
「…………………」
恨めしそうに視線を送り500円玉を指で弾いては、片手で受ける動作を繰り返す。
だが、視線は成樹を向いたままでとりあえず聞く姿勢だけは持ってくれるようだ。
「勝負で負けたら着物で初詣行こうや」
「却下」
ピンッと硬貨を弾くと、寸分狂わず成樹の額にヒットする。
「痛……。自信ないん?」
口の端をあげてそう問いかける。
「その手には乗らない」
「俺、これで勝負に負けた事あらへんねん」
「へぇー…すりゃすげーな。生憎、私はコインでは負けた事ないよ」
同じく口の端に笑みを携え、紅が言う。
お互いにしばし沈黙を保つ。
先に口を割ったのは紅の方だった。
「勝負、受けてやるよ」
「さすが!ほな、俺が投げるから」
そう言って硬貨を真上に弾く。
クルクルと回る硬貨を片手で受け、もう片方の手の甲に押さえつける。
「どっちや?」
「裏」
迷わずそう答える紅。
ゆっくりと、その硬貨が露になっていく。
翌日、二人の青年が初詣に訪れていた。
周りの女性が頬を染めたり隣の連れと何やら話し合ったり。
少なく見積もって十数人の女性がその二人組みに目を奪われていた。
「成樹、男前が台無しだぜ?」
銀髪を揺らして、片方がそう言う。
一方、金髪の男こと成樹は不服そうな表情。
「コインに頼りすぎだって。ま、俺の運の方が強かったってことだな!」
銀髪の男こと暁斗、非常に嬉しそうである。
成樹の無敗記録を打ち破った所為である事は言うまでもない。
勝負に勝った紅は、初詣は男装して行くといった。
別に紅のままで行ってもさして問題ないようにも思われるが、大いに問題ありだ。
なんせ、紅はその容姿が非常に目立つ。
派手なわけではないが、いい意味で目立つのだ。
「ご機嫌やなぁ、暁斗」
「そりゃもう」
ここまで来るのに一体何人の女性を虜にしたのかわからないほどだ。
声をかけられるたびに、暁斗は律儀にそれに答えては、女性を落としていく。
ホストの様な科白を吐くが、本人にその意図はない。
所謂、天然ホストと言う奴である。
「何が悲しゅうて初詣でこんなナンパされやなあかんねん」
「んー……じゃあ、適当にナンパするか?」
「あほか!」
「だろうなぁ」
ケタケタと笑いながら賽銭箱の前まで歩く。
声をかけられない間は周りの女性達が固まるために非常に進みやすい。
存外に簡単に正面まで辿り着くと、賽銭を放って箱の中へ納める。
周りが込んでいるために、願い事も早々にその場を立ち去った。
「何願ったん?」
「ん?一生健康でいられますように」
「…普通、一年ちゃうか?」
「そんな小さく願ってどうするんだよ」
暁斗らしいといえばそれまでだが…。
何とも自分勝手な願いである。
ふと、歩く成樹の目におみくじと言う看板が留まった。
「暁斗、おみくじしてくか?」
「……や、俺はいいよ。成樹が引くなら引いて来いよ」
「何でええん?あ、信じてへんのか」
「違う違う」
一人で納得してしまいそうな成樹に、暁斗は首を横に振った。
「俺、何回引いても大吉しか引けねぇから」
きっぱりとそう告げる暁斗に、成樹が絶句する。
金魚のように口を開いては閉じて。
それを数回繰り返して、ようやく言葉を搾り出した。
「…ホンマに?」
「ホンマに」
確認するように見つめてくる成樹に、今度もはっきりと答えた。
「めちゃめちゃ運ええんちゃうん?」
「…だろうなぁ。福引とかはあんまやらねぇけど…外れた事ねぇし」
商店街などでよくある福引では向こうが「帰ってください」と言うほどなのである。
「暁斗!宝くじ買おうや!!」
「年末の奴は終わったって。それに…興味ないし」
簡単にそう告げる暁斗に、成樹の方が脱力した。
「なんちゅー無欲な奴…」
「や、そうでもないぜ。欲しいモンがあったら割とするから」
「欲しいもん?」
「俺の部屋にあるテレビにDVDあと、MDコンポはしたし」
「アレ全部そうなんか…」
すでに成樹にはおみくじを引く気などこれっぽっちも残っていなかった。
すごすごと出口へ歩を進める成樹の後を追う暁斗。
「自分も大概運ええと思っとったけど…上には上がおるんやなぁ…」
「だな」
それからと言うもの、成樹は欲しい物があると暁斗を頼るようになった。
「暁斗!これ当ててや!」
「…何度も言うけどさー…俺は自分が欲しいと思ったもんしか当たらないんだって」
「それでもええから!俺より暁斗の方が当たりそうやん。名前貸したって」
「俺の名前でよければどうぞお好きに」
その後、その商品が当たったかどうかは二人しか知らないことである。