Freedom to this hand

毎日がお祭り騒ぎだけど。
例えば年末って言うだけでどこか特別。
そんな日くらいは時間も忘れて羽目を外すのも悪くないかな。





「うわー…皆すっかり出来上がっちゃってるわね」

仕事のために遅れてアジトへやってきたコウ。
すでに皆かなり飲んだらしく、空になったビール缶やらビンやらがあちこちに転がっていた。

「遅かったな」
「!?」

急に後ろから声をかけられ、ビクリとその肩を震わせる。

「…変に絶で近づかないでくれる?」
「した覚えはなかったんだが…」
「あー、もう。酔ってるでしょ」

呆れたように額を押さえ、コウがそう言った。
クロロの手には二つの酒が持たれている。
差し出された一つを受け取って、コウは溜め息を吐いた。
賑やかな中心には加わらず、部屋の端に腰を降ろす。
擦り寄るルシアの毛皮で、寒いはずのアジトもどこか暖かかった。
隣に座るクロロも、騒ぎの中心を見ながら口元に酒を運んでいた。

「行かないの?」
「その言葉、そっくりそのまま返す」
「……………」











今日は一年の最後の日。
珍しく団長が召集をかけたのだった。
とは言っても、今回は暇な奴に限ってはいたが。
連絡を受けたコウはと言うと、こんな日でも仕事はあった。
簡単な仕事だったためにそう遅くはならないだろうと踏んで、途中参加と言う形でここにいる。
缶の蓋を開け、それを口に通す。
かなり強い酒と言う事が一口でわかった。

「………これ、ドラゴンでも一口で酔わせるってのが売りの奴じゃ…」
「そうだが?」

それがどうかしたか、とでも言いたげな視線をコウに返してくる。
どこから手に入れたのか、など色々あったが、美味い事に変わりはないので黙ることにした。

「やっぱり美味しー」

表情を緩めて液体を喉に通す。
そんなコウを、クロロも楽しげに見ていた。
すぐに一本空けてしまい、コウは二本目に差し掛かっていた。
その様子に、クロロも目を見開く。
そんな視線に気づいたのか、コウが缶から口を離してクロロの方を向いた。

「何?」
「そんな勢いで飲んで大丈夫なのか?」

強すぎるアルコールは、当然の事ながら人体に影響を及ぼす。
そんな酒を用意するなと言う所だが、それはクロロのする事と目を瞑るしかないだろう。
コウはきょとんと首を傾げる。

「平気よ?だって…私全然酔わないから」

そう言いながら、一口喉に流した。
クロロの方はというと、一口飲んで……忘れた頃にもう一口。
と言うくらいのペースで飲んでいる。
しかも、これが一本目。

「酔う酔わないの問題じゃないだろ…」
「そう?だって…小さい頃から飲んでたし…」

何気に凄い発言。
だが、コウも屈指の殺し屋一家で育ったのである。

「殺し屋が酔わされてたら話にならないからね。小さい頃から毒と同じように飲まされてたわよ」

今では便利だけどね、と笑いながら語るコウ。
頬は僅かに朱がさしているものの、本人の言うように全く酔っていないようだ。

「クロロは酔うでしょ。これだけキツイと当然だけど」

集まったメンバーの多くが酔っている。
酔っていないように見えても、おそらく顔に出ていないだけの奴もいるだろう。

「これはキツイだけに美味しいから止められないのよね」

すでに三本目に突入しているコウに、クロロは溜め息しか出なかった。

「その辺にしておけ」
「何で?」
「初日の出、見るんだろう?そろそろ時間だ」

クロロが腰を上げると、コウは思い出したように手を打った。

「ルシア、あなたはここにいなさいね」

そう言うと、出口へと歩き出すクロロを追う。
アジト内にいたメンバーの誰一人として、二人が出て行ったことに気づかなかった。














「寒い!」

外に出れば風を遮断するものは何もない。
容赦なく熱を奪うそれに、コウは身体を振るわせた。

「これでも着てろ」

そう言って、クロロが着ていたコートをコウの肩にかける。

「ありがと」

そう答えて、ある事を思い出した。

「あのさ、今日中々いいコート見つけたの」

言いながら念でそのコートを取り出す。
黒いコートで、襟と袖に白いファーが付いているもの。
今日の仕事の途中に偶々見つけたものである。

「格好いいんだけど…私には似合わないからクロロに」

そう微笑んで、コートを差し出す。
それを受け取って、クロロも同じく口に笑みを携えた。

「ありがとう」
「どういたしまして。クロロが着ててくれたら私も見て楽しめるし」

よほど気に入ったらしい。
誂えたようによく似合うそれに、コウが感嘆の声を漏らす。

「何も返す物を用意していないな…」
「別にいいよ。お土産程度に思っておいて」

ある程度高さのある場所まで移動してきて、そこに腰を降ろした。
白み始めた空が、徐々にその時を迎えようとしている。

「コウ」

名前を呼ばれて、コウが視線をそれから外してクロロの方を見る。
不意に左手を取られ、その行動に首を傾げる。
そんなコウにお構いなしに、クロロはその薬指にキスを落とした。
一瞬のうちにコウの頬に朱が走る。

「な、何するのっ…」
「これのお返しにここを予約しておこうかと思って」
「しなくていい。お返しは何もいらないから」

勢いよく首を横に振るコウに、クロロは苦笑を浮かべる。

「でも、俺がしたいんだ」

それ以上クロロを見ていることが出来なくなって、コウは朝日の昇ろうとしている方へ視線を向ける。
濃くなってゆく影、そして、顔を出した太陽。
そんな風景から目を逸らさず、コウは小さく呟いた。

「…自由を手にしたら、考えてあげる」

その言葉がクロロに届いたかどうかは、クロロの微笑からわかるだろう。