繋がった絆の証
「あ、イチゴ発見!」
子ども独特の高い声が聞こえ、ぎくりと肩を強張らせる一護。
振り向いた先には、想像に違わない姿があり、思わず眉間のしわが増えた。
「暁斗、またテメーか!」
「人を指差しちゃ駄目だよ、イチゴ。ついでに…不審者」
フッと口角を持ち上げるその表情に、楽しみ以外の色はない。
血縁関係はないはずなのに、影響力が大きすぎるのか何なのか―――その表情が、ルキアによく似ている。
不審者、と言われて、ハッと周囲を見回す。
散歩中の男性が一人、一護から離れようと足を速めているのが見えた。
何もない場所に向かって急に怒鳴る男子生徒。
しかも、鮮やかなオレンジ色の髪で、目つきはお世辞にも良いとは言えず。
こんないかにも、と言う風貌の生徒がいれば、普通の人なら避けて通る。
「ね?」
ニコリ、と笑う少年。
浮かんだ笑顔には、母親の面影を感じた。
「白哉様、あの…」
慌てた様子で部屋にやってきた紅に、またか…と思う。
普段は落ち着いた彼女が慌てているだけで、何が起こったのかが容易に想像できてしまうのだ。
「ルキアはどうした?今日は任せていたはずだが…」
「…現世に、向かったらしく」
「………連れて行ったか」
渋い顔の白哉に、紅は困ったように頷く。
ルキアの事だから、あまり心配はしていない。
けれど、彼はまだ、子どもだ。
何があってもおかしくないからこそ、不安が拭い切れない。
「先ほど連絡が入ったのですが、現世で発見された虚の討伐に、ルキアが当たっていると…」
ルキアが連れて行っているのに、そのルキアが虚の討伐に出向いているとしたら、彼はどうなる?
少しの沈黙、そして溜め息。
「…迎えに行ってきます」
「…すまぬ。任せる」
「いいえ。でも…今日は忙しいようですけれど、私がいなくても大丈夫でしょうか…」
護廷十三隊の関係ではなく、朽木家の当主としての仕事が山積している。
本来であれば紅の手を借りた方が良い状況ではあるが、現世の二人を放置するわけにもいかない。
「構わぬ」
「では、出来るだけ早く戻ります」
言葉通りに、早く戻れるようにと脳内で段取りを決める。
部屋を去ろうと踵を返したところで、背中を呼び止められた。
「気をつけろ」
「…はい。行ってきます」
「ああ」
些細な会話が、向けられる眼差しの優しさが。
どうしようもなく嬉しくて、愛しくて―――気を抜くと、縋りついてしまいそうになる。
けれど、今なすべき事は、白哉の大事な彼を迎えに行く事。
連れ帰ろうと思っていなくても、少年、暁斗は一護と共に黒崎家にやってきた。
―――死神に茶を出す必要はあんのか?
制服から私服へと着替えながら、ルキアには考えなかった事を思う。
少し悩んでから階下へと降りた彼は、程なくして缶のお茶を2本と、お菓子を手に部屋に戻ってきた。
「ほらよ」
放り投げた缶が綺麗に弧を描き、暁斗の手元へと向かう。
年齢の割には危なげなくそれを受け止めた彼は、不思議そうに缶を見つめた。
その様子を見て、あぁ、と気付く。
「向こうにはそんなのはねぇよな」
そう苦笑して、暁斗の隣に腰をおろし、その手から缶を抜き取ってプルタブを起こした。
プシュッと空気の抜ける音を聞いて、缶を小さな手に返す。
「ありがとう、イチゴ」
「おう。つーか、一護な。“一護”」
「子どもには細かい発音は煩雑なんだよ」
「煩雑とか言える奴は子どもじゃねぇよ」
溜め息交じりの言葉を無視し、お茶を飲んだ暁斗はじっと缶を見つめる。
「…父さんが淹れた方がまだ美味しいね」
「大量生産だか、ら………って、白哉が淹れんのか!?」
「あんまり淹れないから上手くないよ。母さんは天才的に上手。美味しい」
「あー…そりゃあな…」
白哉に茶を淹れる紅を想像し、納得する。
彼女は白哉の為ならば、どんな事だって出来るようになってみせるだろう。
「ところで、お前…一人で来たのか?」
「ううん。ルキア姉さんと一緒に」
「で、そのルキアはどうした?」
「急に虚が現れたからって応援に。そろそろ帰って―――来る前に、お迎えが来ちゃった」
「…迎え?」
ふと視線を動かす暁斗に倣い、振り向いた一護が、あ、と呟く。
窓からごめんなさい、と申し訳なさそうに告げると、彼女はそのまま部屋の中に入ってきた。
「こんにちは、一護くん」
「紅さん」
「暁斗、迷惑をかけなかった?」
「はい、母様」
「(“母様”…!)」
ルキアが可愛がっている所為なのか、暁斗は猫かぶりが上手い。
根本的な部分を偽っているわけではないけれど、白哉と紅の前での彼はまるで別人だ。
もちろん、二人は気付いているけれど「出る所に出ればちゃんと出来るなら問題ない」と黙認している。
「ルキアと一緒だって聞いたけれど…虚が出たみたいね」
「はい。姉様はお急ぎのようでしたから、一護さんを頼って学校に行きました」
「そう。何もなくて良かったけれど…こちらに来る時は言いなさいねと言っていたわよね…?」
穏やかな笑顔が冷気を帯びた。
暁斗はその場で正座しているし、無関係なはずの一護まで、背筋を伸ばしている。
烈火の如く怒る人ではないと予想していたけれど…これは、中々の迫力だ。
「白哉様も心配していたから…帰ってから、ゆっくり話をしましょうね」
「………はい」
その返事を聞くと、紅は伝令神機でルキアと連絡を取る。
そんな彼女を横目に、一護が暁斗に近付いた。
「…災難だったな」
「…うん。仕方ないけど…母様、怒ると父様より怖いんだよ…」
「ああ…そんな感じだ」
「怒られるんだよね、やっぱり………嫌だけど、仕方ないし…嫌だけど」
大袈裟なほどに肩を落としている暁斗の背中をポンと撫で、励ます。
二人の子どもが出来たと聞いた時は、どんなに厳格に育てられるのだろうと心配したものだ。
しかし、生まれた暁斗はあまり家のしがらみを受けず、のびのびと育っている。
学ぶべき事はきちんと教えられているようだが、こう言う自由が許されている辺りが、その証拠だ。
紅と白哉の紆余曲折を知っている一護は、暁斗の存在に安堵する。
「さて…じゃあ、帰りましょうか。一護くん、このお礼はまた今度させていただくわ」
「そんなの気にしなくていいって。白哉によろしくな」
「ありがとう。ほら、挨拶をして」
「ありがとうございました」
「おう。また来いよ。今度は、ちゃんと言ってからな」
片手を上げて二人を見送る。
暫くして、前触れもなくルキアが部屋にやってきた。
「すまなかったな、一護。私が色々と案内するつもりだったんだが…」
「ああ、急な虚だってな。お疲れさん」
「まったく…迷惑な話だ」
「それより、謝罪は暁斗にしてやれよ。無断で来たって怒られてたぜ」
「………あ」
「…テメーも忘れてたのかよ!」
「暁斗、とても楽しかったようです。生き生きと話してくれました」
「そうか」
「一護さんへのお礼はお菓子でいいでしょうか?」
「…そうだな。暁斗に持たせるといい」
「ええ、そうですね。きっと、喜びます」
「ルキアと言い、暁斗と言い…一護には世話になる」
「本当ですね。とても良い方です」
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12.01.21