The winner is ...
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「…何やってんですか、あんたらは…」
たとえ現在進行形で尊敬している人がその輪の中に居ようとも、そう言わずにはいられない。
仮にも選抜チーム練習の為に集まっている面子が、何故グラウンドに丸く輪をなして座り込んでいるのか。
とりあえず、全員が参加しているわけではないらしく…不参加者の苦笑を見て溜め息を零す。
「いいじゃない。偶には休息も必要でしょう?」
「いや、休息なんてとってる場合じゃないでしょ。何のために集まってんだか…」
「紅、こっちにいらっしゃい?」
「……………はい」
結局その笑顔には逆らえないんだけど。
「8番がスクワット50回」
その声を切欠に皆が一斉に自分の手元の割り箸を見つめる。
先っぽに書かれた数字に安堵の息を漏らす者数名、顔を顰める者一名。
「…王様ゲーム?」
「そうよ。このグラウンド内で出来る事に限定して、おふざけが過ぎない程度の命令でね」
「……で、結果として筋トレが定着しつつある、と」
紅が納得したように呟けば、その通りと玲は微笑む。
恐らく彼女がその巧みな話術でそうなるように仕向けたのだろう。
そして乗せられやすい彼らは案の定それに乗り、結果現時点で三名が脱落…というところか。
疲労に全身をやられて地面に倒れこんでいる彼らは必要以上の悪運の持ち主だったらしい。
「…ねぇ、真田は何やらされたの?」
「………腕立て計150にスクワット50、腹筋背筋各…100。それからグラウンド20周…」
「………何か、普通に練習量を凌駕してるね。お疲れ様…」
「おう…てか、死ぬ…」
パタパタと何故か鞄に入っていたうちわで彼を扇ぐ。
流石にそれだけやらされればゲームなどしている場合ではないだろう。
途中から見ているだけの紅は何とも気の毒に思えてならない。
中学生らしく白熱してきているのはわかるが…その中に玲が交じっているのはどうなのだろう。
そんな事を考えながら、紅はいつもの如くドリンクの準備を始めた。
遊んでいるのだから必要ないようにも思えるが、これだけ厳しいならばそうも言ってはいられない。
脱水症状を起こされても困るので、準備の手を急がせた。
「手伝おうか?」
「別にいいよー…って、杉原は不参加?」
「うん。だって、監督の誘いに乗るとろくな事がないしね」
「それが正しい選択だと思うよ」
紅はそう言って本日何度目かの溜め息を零すと、今しがた用意し終えたドリンクをベンチに置いた。
ふとゲームに賑わう一団の方を見て、彼女は肩を竦める。
先程スクワット50を言い渡されていた彼が今度はリフティングを行っているではないか。
逆効果にならなければいいけど…と考えていた矢先、その彼はもう駄目だとばかりに地面に伏した。
「はいはい、お疲れ様ー」
そう言って彼の元にドリンクとタオルを片手に歩いていく。
彼女の仕事といえば、本来のマネージャー業と何も変わらなかった。
「U-14メンバーは二人脱落ね」
「あー…雪耶じゃん。いつの間に~?」
「ついさっき。若菜、微妙に呂律が回ってないよ」
「うあー…膝ガクガク…」
「会話も微妙に成り立ってないし」
苦笑を浮かべるとそれ以上会話を成り立たせようと言う努力を見せず、紅は若菜の頭にタオルをかぶせた。
寝転がる頭の脇にドリンクのボトルを置き、再びタオルが積んである場所へと戻る。
そんな彼女の耳に、次なる王様の命令が届く。
「5番がマネージャー抱えてグラウンド5周」
「…は?」
白熱してきているゲームとは裏腹に酷く冷静な声がそういった。
思わず自分の耳を疑うように輪のほうへと視線を向ければ、赤いしるしの付いた割り箸片手に微笑む郭の姿。
「………変な遊びに巻き込まないでよ」
「俺も巻き込まれたんだから…自分だけ逃げようなんて甘いよ?」
「…極悪人!!」
遠巻きに文句を言っている紅の言い分など綺麗さっぱり流され、皆自分の手元の割り箸に視線を落とす。
そんな中で藤代が元気よく手をあげた。
「やり!俺5番!!」
「うっわ!お前運いいのなー…雪耶抱えて5周なら楽勝ジャン」
「にしてもよ、5周って少なくねぇ?」
喜ぶ者に羨む者、そして数は少ないが嫌がる者。
嫌がっているのは紅一人ではなかったが。
「ちょっと、紅まで巻き込むなよ」
「残念だな、椎名。王様の命令は絶対だぜ!」
ポンと肩を叩かれ不服そうな表情を見せる翼。
彼もすでに命令の被害を受けているらしく、その額には汗が見られた。
尤も、他のメンバーも似たり寄ったりといった様子だが。
そんな周囲からの声に、郭は冷静さを崩さずに答えた。
「抱えられるのって恥ずかしいだろうから、彼女への心ばかりの気配り」
「……微妙な親切ありがとう」
どうせなら巻き込まないでくれと言いたかったが、口に出せば倍になりそうだったので黙っておく。
軽く屈伸を繰り返していた藤代が紅の元まで駆けてきた。
「…ホントにするの?」
「王様の命令は絶対!って事でー…」
不愉快そうに眉を寄せる紅の声で止まってくれる筈も無く、躊躇い無くひょいと横抱きにされた。
人一人を抱えているというのに、さほど重さを感じさせない彼の腕力に少しだけ感心する紅。
あとから『彼』に怒られる覚悟と共に、彼女は抵抗を諦めた。
いや、怒るよりは呆れるか…。
「雪耶、不安定じゃない?」
「…流石に首に抱きつけって言うのは聞けないよ。私も命は惜しい」
「………ま、いっか。んじゃ適当に掴まってればすぐ終わるから!」
裏表を感じさせない笑顔を浮かべると彼は速度を上げる。
だが、紅は数分後に自身の諦めの早さを後悔することになる。
「王様ゲームって命令中暇だよな」
「あー…確かに」
「次の王様決めとく?」
「流石にそれはやばいだろ」
それぞれ休息とばかりに寛いだ様子でグラウンドを走る藤代に視線を向けていた。
武蔵森のエースは殆どペースを乱す事無く3周目へと突入する。
そんな時、眉間の皺と共に二人を見ていた翼が勢いよく立ち上がる。
「翼…?」
柾輝の声など聞こえていない様子で彼は走り出した。
その背中を「耐えかねた」や「ゲームくらい我慢しろよー」などと笑いの声が追う。
トラックを走る藤代に追いついた翼は口を開く。
「藤代!紅を下ろせ!!」
「椎名、流石にそれは大人気な……」
「馬鹿か!紅が酔ってる!」
「え!?」
彼の声に慌てて速度を落とし、藤代は腕の中の紅へと視線を落とす。
だがじっくりと見つめる前に彼女の身体は翼によって奪われた。
無論、負担を最小限に抑えた動きで。
「大丈夫か?」
「つ、ばさ~………目が回る…」
「目、閉じてろ。…歩け―――…ないよな」
彼女の様子では聞くだけ無駄だろう。
言葉の途中でそれを理解した彼は溜め息と共に、一時は地面に下ろした彼女を抱き上げた。
「ごめん!俺調子に乗って…」
「全くだよ。人抱えて全力疾走するほど馬鹿だったとはね」
「ホントごめんって!」
「……プラス10周」
「え…」
「走るよね?」
にっこりと笑顔を浮かべる翼。
走らせていただきます、という返事以外は許されていなかった。
「さて…賞品が倒れちゃったらゲームの意味は無いわね…」
ベンチに横たえられた紅を見ながら玲はそう言った。
先程まで熱中していた彼らも彼女の身を案じて周りに集う。
「ほら、練習を始めるわよ。各自アップに入ってちょうだい」
パンパンと手を叩く音に誘われて、メンバーが重い腰を持ち上げる。
集合してから思ったよりも時間が経っていた事に驚きつつ、各自身体を解し始めた。
紅は目の上に冷やしたタオルを乗せている所為でその様子は見られないが、音からそれを悟る。
「…翼、居る?」
「何?」
すぐ傍から間髪容れずに返ってきた声に、紅は口元を緩めた。
「大人しく休んでなよ」
「だいぶマシになったから大丈夫。それより、賞品って何」
未だベンチに横たわったままのところを見ると、まだ回復には至っていないらしい。
翼は練習に行かなくていいのか?と言う疑問を抱きつつも何とか回復傾向にある脳を動かした。
「王様ゲームで最後まで残った奴への賞品」
「…だからあんな肉体を酷使した命令ばっかりだったんだ?」
「そう言う事。ちなみに決着が付いてたら来週の休みに一日借り出されてたよ」
「……玲姉さんも勝手だね、まったく…。それに何で皆も乗ってるんだか…」
最早溜め息しか出てこないと言うものだ。
当事者を差し置いて進みすぎていた話に紅は苦笑する。
歪んだ口元を眺めつつ、翼は溜め息を吐き出した。
「ま、勝負もそのまま流れたし…一応、結果オーライだね」
「何でそんな話になったのかが理解不能だけど」
「それは紅の責任。あいつらがやる気出ないって文句言ったんだよ」
その所為、と彼は答えた。
それで自分を賞品にされると言うのも、何とも迷惑な話だ。
しかしながら、それをやってのけるのが彼女だろう。
「あー…大分治ったかな」
目の上からタオルを外して上半身を起こす紅。
強い日差しが、閉じていた目には少し眩しい。
「しかし、中々貴重な経験だね。お姫様抱っこって酔うんだ…」
「…暢気な奴」
呆れたようにそう言い落とすと、翼は軽く屈伸の要領で足を曲げ伸ばしする。
紅がダウンしていた間に彼の方はアップを終えていたらしく、首からかけていたタオルをベンチに置いた。
「暫くはまだ休んでろよ。俺、練習に交ざるから」
「了解ー。あ、翼」
駆け出した背中を呼び止めれば、彼は嫌な顔せずに振り向いた。
すぐにでも足はグラウンドに駆け出しそうではあったが。
「気づいてくれてありがとう」
笑顔と共に告げた言葉に「当然だろ」と得意げな笑みが返って来る。
走り出す背中を見送ると、口元に笑みを浮かべる。
彼らしくて、心が温かくなるそれを瞼に焼き付けるように、紅はそっと目を閉じた。
「相変わらずお熱い奴ら」
「だよなー…どの道俺らの入る隙無しって感じだし。あー!俺も可愛い彼女欲しい!」
「お前の所為だよ、馬鹿野郎!」
「一日デート権も結局流れちまったしなぁ」
「あれは惜しかったな。結果として半数ダウンしたからかなりいい所までいけてたのに」
「………てか、半数ダウンしてんのに今日の練習って無理だろ…」
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06.04.05