集いの時間
60万Hit感謝企画

日も傾き始めた頃、紅は悠希に借りた本を読んでいた。
自室には邪魔にならない程度の音量でクラシックのCDが流れている。
紙の刷れる音が定期的に空間を支配していた。


「紅、そろそろ出掛けるわよ」
「…はーい」

階下からの母親の声を聞き、紅は目を通していた行だけを読み終えて栞を挟む。
それをベッドの上に置いておくと、用意してあったバッグを持ち上げ部屋を出た。
リビングではすでに家族が揃っていて、彼女の姿を見るなり弟と妹が腰に纏わり付く。
二人を纏わり付けながら部屋を横切る姿はさながらコアラの親子のようだ。

「結人、結菜。いい子だから手を放して。腰がおかしくなりそうだわ」
「「は~い」」

二人は声を揃えて紅の傍を離れる。
いつまで今年小学校二年になったばかりの二人は自他共に認める姉っ子だ。
紅の日頃の苦労が垣間見える、と言うものである。

「そろそろ出るぞ」

父親の声に家族が揃って玄関へと歩き出した。











「お久しぶりです、彩菜伯母さん」

結人と結菜を脇に従えて手塚家の玄関をくぐる。
雪耶家を優しく迎えてくれたのは国光の母親である彩菜だった。

「いらっしゃい。あら、紅ちゃん。また綺麗になったんじゃない?」
「はは。ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです」

誤魔化すようにそう答え、紅は先に上がりこんだ妹達を追った。
廊下を進んでいると階段の上から声を掛けられる。

「紅?」
「あ、国光二日ぶり」

部活の時とは違ってラフな格好をした国光が階段を降りて来る。
彼女の言葉に彼も頷いた。
夏休みが始まってから殆ど毎日部活がある。
当然の如く顔を合わせている二人だが、二日前からお盆と言う事で部活も休みになっていた。
だからこうして親戚の家に寄ったりしているのだ。

「おじいちゃんご無沙汰です」

リビングに入れば新聞を広げている祖父の姿があった。
彼の両脇はすでに紅の妹達が陣取っている。
紅は久しぶりに会う彼に挨拶を交わした。
厳格な祖父を見れば、確かに国光との血縁関係も頷けると言うものである。
口数が多いわけではない彼は紅の言葉に「うむ」と頷くだけだった。

「あ、国光。数学の宿題終わった?」

思い出したように紅は後ろに立っていた国光を振り返る。
少し悩んだ後、彼は頷いた。
それを見てほっとした表情を浮かべ、紅はバッグの中からノートを取り出す。

「教えてくれない?」
「…どこだ?」

傍からは面倒そうにダイニングテーブルの椅子を引いたように見えるだろう。
しかし、幼い頃より彼を見てきた紅にとっては違う。
むしろ「予測済みだ」と言う感じだ。
紅は嬉しそうに笑って彼の向かいの椅子に腰を降ろした。
ペラペラとノートを捲って目当てのページを探す。

「ここなんだけどさ…」
「…公式がおかしいな。これはこっちの…」

そう言って彼はノートの脇においてあった教科書に手を伸ばす。
二人が勉強を始める傍らで、紅の家族と国光の両親、そして祖父による久々の家族の団欒が始まっていた。











日が沈みきった頃、手塚家では賑やかな夕食をとっていた。
従兄弟とは言え、普段は中々生活時間も合わない家族だ。
こうして会う機会と言えば二ヶ月に一度取れるか取れないかである。

「そう言えば、紅ちゃん」
「はい?」

彩菜に呼ばれ、紅は一時的に箸を止めて彼女を見やる。
彼女はにっこりと微笑んだ。

「彼氏はいるの?」

笑顔に首を傾げた紅だが、続けられた言葉に思わず静止してしまう。
僅かに頬を赤らめる彼女を見ればその答えなどわからないはずもない。
返答に困っている紅を押し退けて、結人が声を上げた。

「いるよ!すっごくテニスが上手いお兄ちゃんなんだよ!!な、結菜!」
「うん!背が高くてね、メガネかけてて…喋り方が面白いの!」
「ほぉ。どこの学校だ?」

問いかけたのは祖父だった。
やはり孫の恋仲は気になるのだろう。
気にしてもらわなくても…と思いながらも、紅は苦笑を浮かべて答える。

「氷帝学園の三年生です」
「へぇ!氷帝と言うと今年も関東大会に出場が決定した学校だね」

感心したように国晴が声を上げる。
紅は嬉しそうに笑って頷いた。

「一度連れて来なさい」
「あら、お父さんが心配するような子じゃないですよ。凄くいい青年ですから」
「そうですよ。紅が選んだなら問題はないでしょう」

兄妹である紅の母と国晴が彼と言葉を交し合うのを、他の家族は苦笑交じりに見守る。
紅は隣に座る国光に小さく声をかけた。

「ねぇ、連れて来なきゃ駄目だと思う?」
「…さぁな。別にいいんじゃないか?いずれは会う事になる」

予想通りに彼は冷静だった。
兄妹が止めるも、祖父は断固として譲りそうにない。
いつの間にか話題は国光の恋仲にまで発展していた。
暫くこの手の話が続く事は避けられないようだ。
紅と国光は顔を見合わせた後、静かに溜め息を漏らすのだった。


「ごめんね」
『何の事や?』
「いやー…今のうちに謝っておかないと駄目かなぁと」
『…何や、わけわからんやっちゃなぁ』
「うん。ま、そのうちわかると思うよ。……多分」
『さよか。ほな、覚悟して待っとるわ。…で、明日の事やけど――― 』




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05.08.16