対する者
60万Hit感謝企画

闇に身を深く沈め、光とはかけ離れた存在。
万人に降り注ぐはずの太陽がどこか遠くに感じた。
それでもこの手を赤く染めると決めたのは、きっと君が居たから。




眩しいほどの日差しを降り注ぐ太陽を見上げ、コウは目を細めた。

「何か久々だね…こんな昼間に仕事なんて」

まるで夜行性の動物の如く、彼女は目を刺すそれに不愉快を露にした。
隣の彼がクスクスと喉で笑う。

「眩しいなら見上げるの止めれば?」
「…確かに」

そう言ってコウは自らの手で作り上げた影で目を覆った後、顔を俯ける。
閉じた瞼にしっかりと焼きついた残像が恨めしい。

「とりあえず、この家ももう要らないね」

バシンッと彼は姿を変えた。
反動に伴って流れる黒髪が、開いたコウの視界に舞い込む。

「じゃ、さっさと始末して帰ろうか。頼んでいい?」
「もちろん」

彼、エンヴィーの言葉にコウは頷く。
そしてナイフで家の壁に錬成陣を刻み込んだ。
彼女は錬成陣を必要としない。
この行動はあくまでそれのきっかけを起こす為のものに過ぎなかった。

「離れてて」

コウはエンヴィーに向かってそう言う。
彼が背後で動くのを気配で読み取りながら、コウは錬成陣に手をついた。
たちまち錬成反応が起こり、家の壁に大きく亀裂が入る。
それは瞬く間に蜘蛛の巣のように広がった。

「この家が人里離れた場所に建っててよかったね」

轟音とも呼べる音を立て、内部を押し潰すように家は崩れ落ちる。
それを見届け、二人は静かにその場に背を向けた。











「寄り道して帰ろうか」

ぼんやりと流れ行く風景を見つめていたコウに、エンヴィーがそう言った。
適当な汽車に乗り込んだ二人。
規則的な揺れにも慣れてきた頃だった。

「寄り道?どこに?」

窓の外に向けていた視線を彼に向ける。
さすがにあの服装では目立つので、エンヴィーはいつもとは違った着衣に身を包んでいた。
酷く違和感を受ける物ではあったが、こればかりは言っても仕方がない。

「どこでもいいよ。ただ、コウが行きたそうだったから」

彼の言葉はコウを驚かせる。

「行きたそうだったって…わかるの?」
「何となくね」

彼は笑う。
その笑顔にコウも釣られるように微笑んだ。

「うん。寄り道…してもいい?」
「OK。じゃあ、次の駅で降りよっか」

その時、見計らったように車上アナウンスが彼らの耳に届いた。












日頃の行いがいいとは、お世辞にも言えない。
しかし、これはあんまりだろうとコウは思っていた。
目の前の光景に思わず現実逃避したくなるのは仕方がないだろう。

「何でこんな所に…てめぇが居るんだよっ!!」
「うるさいなぁ…こっちだっておチビさんが居るってわかってればこんな辺鄙な村に来たりしなかったよ」

鎧の彼が押さえ込んでいなければ今にもエンヴィーに飛びつきそうな少年、エドワード・エルリック。
弟のアルフォンスに何とか宥められているものの、さながら警戒心むき出しの野生動物だ。

「コウ!いつまでコイツと一緒に居るんだよ!?コイツが何やってるのか知ってるのか!?」
「…人殺しね」
「知ってるなら―――「私だって」」

エドの言葉に重ねるようにコウは言った。
その眼差しに帯びるのは真剣そのもの。

「私だって同じよ。この手はすでに赤く染まってる。もう戻れない程にね」

コウの言葉に驚いたのはエドとアルだけではなかった。
彼女の隣にいたエンヴィーも、同じく目を見開く。

「コウ…?」
「行こう」

クルリと踵を返すコウ。
遅れる事数秒、エンヴィーも彼女の後を追う。

「コウ!」

そんなコウの背中にエドからの声がかかった。
肩越しに振り向く彼女の眼に彼が映りこむ。

「それでもいいんだ!」
「に、兄さん!?何言ってるの!?」
「アルは黙ってろ。コウ、まだ戻れる」

アルに強くそう言った後、エドは真剣な眼でそう告げた。
彼の言葉にコウは口角を僅かに持ち上げる。

「君がその心を忘れないから、僕は君を嫌いにはなれないんだろうね」

それ以上コウが何かを言う事はなかった。
再び彼らに背中を向けて、二人は歩き出す。











「いつの間にかおチビさんと仲良くなってたんだね」
「仲良く?まさか」

鼻で笑うようにそう言ったコウだったが、エンヴィーは肩を竦める。

「“敵”、でしょ?」

コウは横を歩く彼の方を向いて問う。
彼は苦笑気味に頷いた。

「でも…どうだろうね?お父様の望みのためには…。………まぁ、道具って所かな」
「それもそうだね。

あーあ。変なところでおチビさんと会っちゃった所為で全然デートにならなかった」
「デートねぇ…」

コウの発言にエンヴィーが何か含んだようにそう言った。
それを読み取ったのか、コウが振り向く。

「今からまたデートする?」
「…駄目だよ。もうお父様の所に帰らないと」

少しだけ悩んだ後、コウは残念そうにそう言った。
数歩後ろを歩いていたエンヴィーの隣に駆け寄ると、彼の腕に自らのそれを絡める。

「別にいいんだ。君と居られれば」
「…嬉しい事言ってくれるね」
「もっと言おうか?」
「帰ってからでいいよ」

そう言って笑うと彼は彼女の額に軽く唇を落す。
嬉しそうな表情を見せるコウに再び微笑み、二人は歩き出した。

「……………俺にとっては“敵”だよ。アイツがコウを望む限りはね」

小さく小さく紡がれた言葉は、彼の隣を歩くコウにすら届かなかった。




Thank you 600,000 hits!!

Request [ 600,000hits Project|華胥様 ]

05.08.13