共に歩める未来に微笑む
40万Hit感謝企画
「コウ、用意できたか?」
部屋の扉を薄く開き、クロロがその顔を覗かせる。
声に反応するようにしてコウの膝を飛び降りた少女が彼の元へと駆けた。
「っと。危ないだろう?」
飛びついてきた少女を危なげなく受け止めると、クロロは苦笑を浮かべる。
「パパが受け止めてくれるから平気!」
そう言って、少女はにっこりと微笑んだ。
「こら、リオウ。髪が途中よ」
クスクスと笑い、クロロの腕から少女を抱き上げる。
リオウと呼ばれた少女は、素直にコウの腕へと移った。
自分で調子のいいように体勢を変えて彼女の首に短い腕を回す。
「クロロ、もう少しだけ待っててくれる?リオウの髪を結わえたら終わりだから」
「ああ。ティルが待ってるから早くな。リオウ、いい子にしてろよ?」
「は~い」
リオウを抱いたまま鏡台の前に戻るコウの背中に声をかけ、クロロは部屋を出て行った。
少女を膝の上に乗せると、コウはその漆黒の髪に櫛を通す。
自分によく似た髪質のそれは、大した抵抗も見せずに櫛を通しきる。
肩ほどの髪を頭の両側で結わえると櫛を置いた。
「はい、出来たわよ」
「ありがとう!」
「じゃあ、行きましょうか。ティル達が待ちくたびれてるわ」
リオウを膝から下ろすと、コウはベッドの上に用意してあった鞄を持ち上げる。
先にドアのところで待っていたリオウはやってきたコウの手を掴みながら見上げた。
「ねぇ、今日はどこに行くの?」
「今日はね…私達の仲間の所よ」
ヨークシンシティから少しだけ離れた所に佇む廃屋。
クロロが片腕に抱くリオウは、その不気味さに彼の着衣を握る指に力をこめる。
そんな彼女の様子を優しく見つめながら、クロロは足を進めた。
不意に、きゅ…と掴まれる感覚にコウは視線を落す。
「ティルも怖い?」
「こ、怖くなんかないよっ!」
ふいっと視線を逸らしながらも、コウの上着の裾を掴む手は放さない。
そんなティルの手を取るコウ。
「私が繋ぎたいから…ね?」
「………母さんが繋ぎたいならしょうがないから繋いであげる…っ!」
耳まで赤くして、半ば怒鳴るようにそう言ったティル。
彼は照れ隠しのようにセカセカと歩き出した。
クロロの横を通り過ぎるとき、彼がコウの方を向く。
そんな彼に微笑みかけると、コウはティルが手を引くままに歩いた。
「やっと着いたんだ?」
女性の声が耳に届いた。
肩をビクつかせるティルに苦笑を浮かべながら、コウは声をした方を向く。
廊下の薄暗さに慣れてきた目が女性を捉える。
「久しぶりね、マチ。元気だった?」
「そこそこに。その子が?」
マチは、コウの背後に隠れて顔だけを出しているティルを指して問うた。
コウは頷くことでそれに答える。
「髪の色以外は団長そっくりだね。名前は?」
「ティルよ。ほら、お化けじゃないから前に出なさい」
優しく諭すようにそう声をかけて、コウはティルを前に出す。
躊躇いながらも、ティルはそれに従った。
彼女らの前に居たマチと彼の視線が合う。
「初めまして…ティルです」
「マチだよ。ふーん…可愛いね」
「ありがとう」
漸くティルの緊張も解けた頃、マチが思い出したように言った。
「ところで団長は?」
「そろそろ来るんじゃないかしら。ティルが随分急がせてくれたからね」
「ご、ごめんなさい…」
微笑みを浮かべたままのコウの言葉に、ティルが頬を赤らめて謝った。
優しいそれを浮かべたまま、彼女はティルの頭を撫でる。
「別に構わないわよ」
途端に嬉しそうに笑顔を見せるティル。
マチが感心したように頷いた。
「すっかり母親になったね、コウも」
「そう?」
「まぁ、当然だな。二児の母で母親らしくないのは困るだろ?」
女性とは違った低い声が響く。
三人が声の方を振り向いた。
同時にコウの足に軽い衝撃が走る。
視線を落せば、彼と同じ黒髪を揺らしながらリオウが笑顔を浮かべていた。
「団長、久しぶり」
「あぁ」
「…その子も?」
「双子なの」
リオウを抱き上げてコウが微笑む。
髪の色こそ違うものの、確かにコウとの血の繋がりが見て取れた。
「こっちはコウ似ね」
「ティルはクロロ似でしょ?」
「うん。そっくり。皆ビックリするだろうね」
話がわからないのかリオウが首を傾げる。
そんな仕草は愛らしい以外の何物でもなかった。
「それより、皆集まってるのか?」
「もちろん。もうすっかり出来上がってるよ」
「あら、そうなの?じゃあ、良い物を持ってきても仕方なかったかな」
そう言いながら荷物の中に入っていたワインを持ち上げるコウ。
見るからに高そうな銘柄のそれを見てクロロが驚く。
「そんなのを用意してたのか」
「ん?用意してたんじゃなくて、家から拝借してきたの」
何でもない事のように答えるコウに、クロロだけでなくマチも溜め息を落す。
双子がきょとんとした表情で大人たちを見ていた。
「何年もの?」
「んー…書いてないわね。確か、百年単位の所に置いてあったような気がするんだけど…」
「ひゃく…」
答えを聞いたマチが口角を引きつらせる。
「いいのよ、別に。どうせ置いていたって誰も飲まないし…当主は私よ?」
これ以上有無は言わせない、と言う風な笑顔を浮かべてコウが唇を動かした。
「団長だ!ミニ団長が居るっ!!」
涙を溜めつつフィンクスが笑う。
久々に集った旅団一同。
男性陣がティルを囲んで盛り上がっていた。
「似てないっ!!」
ティルが頬を膨らませて怒鳴る。
頬を膨らませるあたりに子供らしさを感じるが…それを言うとティルが怒ることは間違いない。
いつもとは違った様子で楽しんでいる(?)息子の姿に、コウは目を細めた。
「あそこまで似た親子も珍しいよね」
シズクの言葉に、男性陣の様子を見守っていた女性陣が頷く。
「まぁ、コウとリオウもよく似ているわよ」
「そう?自分ではわからないんだけど…そんなに似てるかしら?」
パクノダの言葉にコウは隣に座るリオウを見つめる。
リオウもコウに目を合わせるように見上げた。
「ママ…?」
「まぁ、似てるって言われるのは嬉しいわよ」
そう言って微笑むと、コウはリオウを膝の上に乗せた。
楽しそうに笑うリオウを見てパクノダたちも思わず笑みを零す。
「それにしても…面白いくらいに二人の血を受け継いだのね」
顔はコウ似で髪はクロロ譲りのリオウ。
クロロそっくりでコウと同じ色の髪のティル。
二人を足して2で割った子供と言っても決して過言ではない。
「ねぇ、コウ…」
「何?」
マチの声に、コウが顔を上げる。
彼女の指差す方向を見れば、すでにボロ雑巾一歩手前なフィンクスが居た。
「…あー…ひょっとしてティル?」
「うん。さすが団長の子だね」
「あの子凄いわね」
子供ならではの体力にプラスして、両親譲りの運動能力。
これほど素晴らしい能力を兼ね備えた子供が他に居るだろうか。
「あれ?ティルって念は使えないの?」
今度はウボーと戯れだしたティルを見て、シズクがコウに聞いた。
コウは頷く。
「まだ基礎の基礎。念ならリオウの方が得意よね?」
「うん!」
膝の上のリオウにそう言うと、彼女は自慢げに頷いた。
「……って言うか、念使わずにアレなんだ…?」
視線の先では、二人目のボロ雑巾が出来上がっていた。
仮にも仲間がボロボロにされているのだが、クロロはコウの隣で平然と読書に勤しんでいる。
これにはコウも苦笑いを浮かべた。
「ティル!あんまり無茶な事しちゃ駄目よ」
「平気ー!!」
楽しげに笑いながら、ティルは次なる獲物に飛びついていた。
「いや…平気じゃないのは相手の方なんだけど…」
「お兄ちゃん止める?」
今一意味が通じていない事に、コウは肩を竦めた。
そんな彼女を見上げながらリオウが問う。
コウは黙って首を横に振った。
そして、隣で活字に視線を落としていたクロロの方を向く。
「ティル」
コウが口を開くとほぼ同時に、クロロが静かにその名を呼んだ。
途端にピタリとシャルナークの髪を引っ張るのをやめるティル。
「少しは手加減してやってくれ」
涙目で自分の髪を押さえるシャルナークに、クロロは苦笑交じりにそう告げた。
どうせなら止めてくれ。
クロロを除く男性陣全員の声だった。
「遊びたい盛りだからクロロが相手をするのが大変なのよね」
「コウは相手してないの?」
「クロロがしてくれるから。私が教えるのは念の方ね」
「確かにその方が効率はいいでしょうね。コウは教えるのが上手いし…」
「……にしてもさ?手加減してアレなんだ?」
「………クロロ、止めた方がよくない?」
「…………………子供にやられるのはどうかと思うぞ…」
「って言っても屍累々って状況なんだけど…」
「…はぁ…ティル、その辺にしておけ」
「は~いっ!!父さん!!あの人たち凄く強いね!!面白かったっ!」
「さて…私は皆の治療に当たろうかしら」
「おじちゃん達!!」
「「「「((((おじちゃんっ!?))))」」」」
「また遊んでね!!バイバイ!!」
身体の傷は癒えても、心に深く刻まれたティルの運動能力はそう消えるものではない。
出来ればもう二度とお相手願いたくない。
小さな背中を見送りながら、旅団の次期リーダーは彼かもしれないと思う一同だった。
05.05.24