If -もしあなたが-

『もし』なんて言う仮定の話はしたくない。
でも、それでも考える事は決して少なくはないわ。
ねぇ…もしあなたが生きていたなら…今この場にはあなたも一緒に笑ってるのかな。









「クロロ…私、一体どこに連れて行かれるの?」

彼の後に続くようにして歩を進める事数時間。
疲れていると言うわけではないけど、さすがにそろそろ目的地くらいは教えて欲しい。
いつもの如く私の肩を占領していたスノウは、今はクロロの肩の上。
スノウを乗せて歩いている姿は、世間を震撼させていた幻影旅団のリーダーとは思えない。

「もうすぐだ」

もうすぐ…ね。
さっきその言葉を聞いたのは一時間前の事だけど…自覚あるのかしら?
もっとも、彼は一度決めた事を遣り通す。
つまり、私があれこれ口を割らせようと頑張った所で全て水の泡ってこと。
なら無駄な努力はしない方がいいでしょう?
自分の中で結論を出すと、私はそれ以上何も話さずにクロロに並ぶよう足を速める。











「ここだ」

そう言ってクロロが足を止めたのは、彼が最後にもうすぐだと言ってから数分後。
あの「もうすぐだ」だけは正しかったようね。
クロロの言葉に反応して首を上げると、そこにはまぁ……。
主はあるのかと言うような酷い有様の廃屋。
思わず言葉を失った私の腕を引いて、クロロは中へと進んでいく。
所々の床が歩く度に悲鳴を上げた。

「………崩れない?」
「大丈夫だろう」

私とクロロの肩に乗っているスノウはいいとして、ルシアが心配になった。
足の裏に木のとげでも刺さったら可哀相だ。
私はブーツをはいているから直接的な被害は免れているわけだが。
まぁ、そんな心配は杞憂だったみたいね。

「さすがだな」

ヒョイヒョイと痛んでいない部分を歩いていくルシアにクロロが感嘆の声を漏らす。
ルシア、クロロそして私と言う順番で暗い廊下を進んでいく。
何度目かの角を曲がった時、前方の扉から外の明かりが漏れているのが見えた。
すでにルシアはその扉の前で腰を降ろして私達の到着を待っている。
耳を澄ませば………澄まさなくてもだけど、部屋の中から声が聞こえてくる。
聞いている限りではよく知った声ばかりのようだった。

「皆?」
「そうだ。あまり待たせるのもよくないな…行くぞ」

再び歩き出したクロロを追って私も扉へと近づいていく。
どうやらその扉は中庭へと繋がるらしい。
















「あ、団長ご苦労様~」
「随分遅かったね」
「待ちくたびれて先に始めちまったぜ?」
「ったく!ウボーは飲みすぎ!!」

私達に気づいた面々からこんな会話がされる。
どうやら皆で酒を呷っていたようだが…一見パーティのように見えるそれに、私は首を傾げる。

「何?何か上手くいったの?」
「…本気で言ってるのか?」

隣にいたクロロに聞いたら呆れた風な声が返って来た。
…失礼な。

「コウはこっち!」
「え?ちょっと、シズク?」
「今日の主役が端っこで立っててどうすんの」
「そうよ。コウはここね」
「マチとパクノダまで…一体何なの?」

シズクに腕を引かれて真ん中まで連れて行かれたかと思えば、そこに座らされる。
両側にやってきたマチとパクノダの手には酒。
ますますワケがわからない。

「コウがそんな顔するなんて…貴重な体験だね。…本当にわからないの?」

クスクスと笑いながらシャルナークが私に問う。
そんなに変な顔してた?

「わからないも何も…私が主役ってどう言う事?」
「コウ、今日は何月何日だ?」
「………クロロ、私だってそれくらい…は………」

クロロの問いかけに日にちくらいはわかっていると返そうとした。
だが、一瞬思い浮かべた日付でようやく気づく。

「誕生日…?」

呟いた言葉は思った以上に小さかった。
けれど、その場に居た全員に届いたらしい。
先ほどから飲みまくっていたウボーでさえこっちを向いて笑っている。

「おめでとう」

クロロがにっこりと微笑んでそう言ってくれた。
私がそれに返事を返す前に、皆がそれぞれに声を上げる。

「団長抜け駆け!!」
「「「「おめでとう!コウ、ザキ!!」」」」
「え?」
賑やか担当と言うか…とにかくノリのいい者たちが声を揃えてそう言った。
それに続けるように素気なく「おめでとう」と告げる者も。
そんな事よりも、私は言葉の中に入っていた名前が気にかかる。

「何でザキの事を…」
「あぁ、俺が教えた」

口から滑り落ちた言葉に返事が返って来る。
驚いて顔を上げれば、缶に口をつけているクロロが目に入った。

「問題あったか?」
「や、ないけど…。ちょっと驚いただけ」

そう、驚いただけだ。
自分の片割れの存在を忘れる事なく、私達が生れ落ちたこの日にそう言ってくれた事に。

「コウ」
「!」

呼ばれて、落としていた視線を上げると、行き成り二つの箱が飛んできた。
質素な作りのそれら。

「皆からのプレゼントだそうだ。グレーの方がザキに。開けてみろ」

言われるままに箱を開ける。
その中にあったのは銃弾だった。

「これ…ザキがよく使ってた奴…」
「コウがいつもそれを使っていたからな。シャルが調べて取り寄せた」
「そっか」
銃弾を持ち上げて微笑む。
その表情が儚げだったと、後からクロロに教えられた。
私は慣れた手つきで足から銃を外すと、シリンダーをずらして銃弾を込める。
一時は騒がしかった皆も私の行動に目を向けていた。
ガシャンッとシリンダーを戻すと、皆に向かって言う。

「ありがとう」

腕を真っ直ぐに空へと伸ばし、引き金を引いた。

銃声が空へと響く。
その音が彼の元へと届くように。





―――もし、あなたが生きていたなら…一緒に笑っていたと思う。
それはもう叶わない事だけど。
だからこそ、私があなたの代わりに笑っているわ。

彼らと共に。

05.04.07