あなたと同じ…
「なぁ、そのピアス何か思い入れがあるのか?」
「ん?別にないよ。ただ穴が塞がるからつけてるだけ」
「ふーん…。お!島が見えたぞ!」
「!…久々の陸地ね!」
歓喜の声を上げて、コウは甲板を蹴った。
誰よりも早く船着場…ではない岩場へと足を下ろす。
その表情は嬉しそうで、仲間達はそれを優しげな目で見ていた。
「おいおい、先に行くなっていつも言ってんだろうが」
麦わら帽を深く被りなおして、シャンクスが船から降りてくる。
シャンクスに続くように仲間達も一斉に船を降り出した。
もちろん、一握りの船番を残して。
「ねぇ、ここって町があるんだよね?行くんでしょ?」
「当ったり前!町に行かずにどこで飲み明かすっつーんだ?」
「そうそう!別嬪な姉ちゃんも見つけねぇとな!!」
陽気な声を上げて町の方へと歩き出す仲間達に笑顔を浮かべながら、コウもその後に続いた。
「シャンクスはどうするの?」
コウは隣を歩いていたシャンクスに問いかけた。
答えはいつものように「酒場!」と返って来るのだと思い込んで。
「ん?あぁ、適当に町をうろつく」
「え!?酒場に行かないの!?」
思っていた答えと違ったために、コウが驚愕の表情を見せる。
後ろをついて来ていたベックマンが、そんな彼女の反応に喉で笑っていた。
「…病気?」
「んなわけねーだろ!ま、俺もたまには町を歩いてみたくなるって事だ!」
「うわっ!!髪がぐしゃぐしゃになるって!!」
ガシガシと頭を撫でられて、コウは思わず声を上げる。
漸く手が離れていくと、不機嫌そうに髪を手櫛で整えていた。
「コウは頼んだからな」
「おう。さっさと済ませて戻って来いよ、お頭」
二人の会話を、コウは聞いていなかった。
ふとコウが視線を上げた時には、すでに町中へと消えようとしている麦わら帽子だけが見える。
「あ、シャンクス!!」
「やめとけって。今から追いかけても見失うだけだぞ」
「……まったく。まぁいいや。ベック、酒場に行くでしょう?」
女ならばもう少ししつこくてもよさそうなものだが、生憎コウは諦めが早い。
それが彼女のイイ所とも言えるのだが。
にっこりと笑ってくるコウに頷くだけで返事を返すベックマン。
彼のタバコが終わったのをきっかけに、二人は酒場へと足を向けた。
幼い頃から赤髪海賊団の仲間となったコウ。
そのおかげで、コウは滅法酒に強かった。
まぁ、体質的なモノもあるのだろうが。
とにかく、コウが酔った所は誰も見たことがないと言うくらいに強い。
そんな赤髪海賊団の姫君は不機嫌極まりなかった。
「……………」
「どうしたんだ?」
「つまみやろうか?」
「もっと酒飲むか?」
皆が控えめに色々と尋ねてくるが、コウはそれら全てを断った。
返事を返すわけではなく、ただ首を横に振るだけで。
コウの意思が固いと言うのはすでに嫌と言うほど理解している皆。
自然と矛先はベックマンの方へと向いていった。
何故彼かと言うと―――何気に一番コウをよく理解している為である。
「副船長!何でコウあんなに機嫌悪いんっすか!?」
「おかしいって!いつも笑ってるコウだぜ!?」
勢いはあるモノの声自体はかなり小音量。
そんな彼らに苦笑いを浮かべながら、ベックマンはコウへと視線を向けた。
ただ窓の外に見える町の通りに目を向けて酒を飲んでいる。
「ま、お頭の所為だろ」
詰め寄ってきていた野郎共を押し退けると、ベックマンはコウの隣の席へと腰を降ろす。
コウの手の中の空になったジョッキに新たな酒を注ぐ。
「いい加減に機嫌を直したらどうだ?」
「…機嫌悪くなんかないわよ?」
「それのどこが機嫌いいんだ」
「ホントだってば。ただ…何か物足りない気がするだけ」
肩を竦めながら答えるコウ。
うつむき加減で考え事をしていたために、機嫌が悪そうに見えただけならしい。
もっとも、今のコウはどこか元気がないことは確かだが。
「そりゃ、お前…。足りないのはお頭だろ」
「……シャンクス?」
「お前今まで一人酒場で酒飲んでた事があったか?」
「あー…ないわね。いつもシャンクスが居たから」
記憶の中を探った所で、こうしてシャンクス抜きで酒を飲んでいた場面は見つからなかった。
なるほど、と納得して頷く。
「だから変な感じがするのねー…ようやく謎が解けたわ。恩に着るわ、副船長」
「お安い御用だ、船長補佐」
お互いにジョッキを持ち上げると、それをカチンッと当てた。
「よぉ!すっかり出来上がってるなぁ!!」
数時間後、シャンクスが酒場へとやってきた。
古株達は多少酒に免疫があるために、酔っているのはまだ新人の奴らばかり。
そんな仲間を一瞥すると、シャンクスは迷わずコウとベックマンが座っているテーブルへと歩いてきた。
四人掛けのテーブルである為に、まだ二つ席が空いている。
コウの向かいに位置する椅子に座ると、テーブルの上にあった酒ビンから直接酒を飲む。
「シャンクス、それは邪道」
「俺に言わせればジョッキでちまちま飲むほうが邪道だな」
「あ、そ。随分遅かったけど…何してたの?」
ちなみにこのテーブル。
異様に酒の減りが早い為にかなりの本数の未開封なビンが置いてある。
ベックマンとコウだけですでに数十本ビンを空けてしまっていた。
「ああ、これ買いに行ってた」
そう言って、シャンクスが小さな箱を弾く。
それはテーブルの上を滑ってコウの前へと落ち着いた。
「…私に?」
「他に誰がいるんだよ。開けてみろ」
促がされるままに、コウはその箱に手をかける。
綺麗にリボンでラッピングされているそれを解いて蓋を開くと―――
「シャンクスと同じ…」
目に入ってきたのは『赤』。
コウの中でそれを示すモノと言えばシャンクスの持つ赤髪。
そう呟いた後に、コウはそれがピアスであることに気づいた。
「ピアス?」
「…お前なー…普通逆だろ、それ」
苦笑交じりに言うシャンクス。
けれどもその様子からして満更でもなさそうだった。
「潮風で変色してるだろ?お前の。特別なモンでもねぇみたいだしな。代わりだ」
「ありがとう…でも何で?」
「……………お前、自分の誕生日忘れてんのかよ…」
「…あ」
呆れたように溜め息を吐くシャンクスを前にして、コウは苦笑を浮かべる。
自分の誕生日など、頭の片隅にさえ残っていなかった。
「何だぁ!?コウ誕生日なのか!!」
「お前らも知らなかったのかよ!!まぁいい!今晩はコウの誕生祝いだ!!飲み明かせよ!!」
「「「「「おお!!!」」」」」
「ちなみにな!その宝石は潮風でも変色しないらしいぜ!!高いんだからありがたく思えよ!」
「そうなの?ありがとう」
「おう!」
「それにしても……シャンクスも酒以外にお金使うんだね」
「…微妙に失礼だぞ、お前」
05.04.05