ゲーム

「何とかして下さい。お願いします」

レイに頭を下げられた。
いやー…私に言われても無理っつーか、私の所為じゃないっつーか。
眼前の机の上には今にも零れ落ちそうなモノの山。
そのモノって言うのが、綺麗にラッピングされたプレゼントで…。
ま、こればっかりは仕方ねぇと思うんだけどね。今日は私の誕生日だし。











「…これは私にもどうしようもない」
「まだ仕事が始まって一時間なんですけど…すでに部屋の半分が埋まっています。このまま行くと…」
「あー、わかったわかった!」

部屋が埋まるまでの時間を正確に出してくれそうだったレイの声を遮る。
正確な時間なんて聞きたくねー…。
ただでさえこれをどうやって持って帰ろうか悩んでるっつーのに。

「そこで、上からこんな伝言を頼まれました」
「伝言?しかも上からって…誰?」
「大総統です。今朝将軍の方に相談に行った時に」
「…大総統からの伝言…ね。何?」
「“本日はゆっくり休みたまえ。君はいつも頑張りすぎだ。”だそうです」
「……それは出勤する前に言って欲しかったよ」

大総統直々の休暇を言いつけられてしまった。
これって有給使われんのかなぁ。
そんな事を考えながら、仕事をしていた手を止める。
大総統がそう言ったからには私はすでに欠勤扱いになっているのだろう。
と言う事は、今から仕事した分はただ働きと言う事になる。

「じゃあ、ゆっくりさせてもらいましょ…う…か……」

椅子を回した時に肘掛が机に軽く当たってしまった。
…当たったのは本当に軽~くなんだぜ?
それなのに、上に乗っていたプレゼント類は一気に崩れ落ちた。

「「…………………」」

はい、すいません。
今のは誰が見ても私の所為っすね。
レイの静かな視線が痛い…。

「とにかく…この部屋はこのまま置いておいてくれ。徐々に片付けるから」
「わかりました。そう言えば、ルシアはどうしたんですか?」
「あぁ、中にお菓子類も交ざってるからな…鼻がおかしくなるらしくて早々に避難した」
「なるほど。では、本日の仕事は全て明日以降に回しておきます」
「よろしく。じゃ……」

丁度時計の針が休憩時間を指した。
机の上に残っていたプレゼントがカタカタと揺れるような振動が近づいてくる。
まぁ、言うまでもなくこのプレゼントを増やしてくれる人波なんだろう。
とりあえず―――

「……逃げる!」
「ご武運を」

レイの声を背中に聞きながら、私は窓から飛び降りた。
初めて仕事場が二階だった事に感謝する。
さすがに三階から飛び降りるのは…な。
追ってくる私のファン?らしき集団を撒いて、屋上へと足を運んでいた。
ちなみに先に避難していたルシアをそこで発見。
自分だけ楽してるのにムカついたから、とりあえず一発だけ軽く殴っておいたけど。

「なぁ、面白い事を耳にしたぜ」
「何だ?」
「“スフィリア大佐を捕まえた奴が勝ち。景品は本人を今日一日貸しきり”だってさ」
「………………………あぁ?」
「血眼になって探してるぜ。精々捕まらねぇように頑張れよ」
「ちょっと待て。誰が「ここか!」」

ルシアを問い詰めようとした時、丁度屋上の扉が派手に開かれた。
まぁ、派手にと言うのが小規模な爆発を伴ったもので…。
原因とも言える犯人はコツコツと屋上へと歩を進めてくる。

「ふん、やはりここに居たな、コウ」
「おや、どうしました?雨の日には無能な大佐さん?」

勝ち誇ったように笑みを深めたロイに、とりあえずそう返しておく。
彼が暗い空気を背負った隙に出口へと近づいた。

「で、何やってんだ?」
「君は知らんのかね?」
「あぁ、私が景品…って奴か?」
「そうだ。一日犬に出来ると言うではないか」
「ちょっと待て。何が悲しくて誕生日っつーだけで追い掛け回される上に犬になってやらねばならんのだ」
「それは私の知ったことではないな」

復活したらしいロイが胸を張ってそう答える。
あぁ、お前が知ってくれるとは微塵も思ってねーよ。
むしろ敵だ。

「誰が犬になるか!」

一気に扉の成れの果ての所まで走ってくると、両手を合わせて扉へとぶつけるように当てる。
扉はすぐに復活した……ドアノブ無しの扉として。

「な!ここを開けろ!コウ!!」
「無理。自分で錬成しなおせよ。んじゃ、お先失礼~」

見えていないロイへと手を振って屋上からの階段を降りていく。
















「何でお前らまで参戦してるかなー…」

溜め息が漏れるのも無理はないと思う。
目の前にはよく知った兄弟。
方ややる気満々で、方やそんな兄を見てオロオロとしている。
鎧なのに表情がわかりそうなのが不思議だよな。

「一日連れ回し自由だって聞いたからな!色々と奢ってもらおうと思って!」
「お前も国家錬金術師だから金くらい持ってんだろうが…。っつーか、連れ回し自由って何」
「人の金ほど使わせたくなるんだって!」
「すみません、コウさん!兄さん聞いてくれなくて…っ!」

どうやらあちらこちらで噂に尾ひれが付いているらしい。

「コウさん、大佐を見ませんでした?」

不意に後ろから声をかけられる。
どうやら声の主はリザさんのようだ。
しかも彼女に私を捕まえるつもりはないらしい。
いい人だっ!

「ロイなら屋上に閉じ込めてきた。出してやるならそこの錬金術師を連れて行った方がいいよ」
「あら、エドワードくんまでいたのね」
「あ、どうも。って!何で俺が大佐を助けて………アル!!コウはどこ行った!?」
「兄さんがホークアイ中尉の方を向いた瞬間に走って行ったよ」

三十六系逃げるに如かず。
















「で、結局こうなるわけか…」
「ちょっと。俺を見るなり溜め息つくの止めてくれない?一目で見破られるのだけでも結構傷つくのに」
「いやー…もう条件反射って事で勘弁してくれ」

漸く司令部を出られたと思ったら、行き成りばったりエンヴィーに出くわした。
まぁ、用心のためか別人の姿を借りてたけど。

「もう普通に帰らせてくれ。鬼ごっこは散々だ」
「はぁ?何言ってんの?」

人気のない所まで来た時点でエンヴィーが元の姿に戻る。
何言ってんだ?と言う表情を前面に出してエンヴィーが私の方を向いた。

「……景品目当ての鬼ごっこに便乗してるんじゃないのか?」
「何それ?」
「それの所為で半日散々振り回された。折角ラースがくれた休日…」

そう言えば、エンヴィーは何かを納得したように何度か頷いてみせる。

「あぁ、それでラストが迎えに行けって言ったんだ」
「ラストが?」
「何でも、“コウが大変な事になってるから迎えに行け”って言われたんだよね。欠勤扱いになってるからって」

………今日一番感謝したのはラストかもしれない。
さすが、頼れる姉さんって感じだよな!

「…変にトリップしてないで…さっさと帰るよ」
「了解」

これで漸く家に無事帰れそうだ。
プレゼントの片づけを考えると明日が怖い気もするけど、な。

05.04.03