もしもシリーズ
『ヒロインが双子だったら?』

※双子(兄)の名前は変換のBにご入力ください。

「ティル、それとって」
「ん。代わりにそっちのサインよろしく」
「はいよ。これってどうするんだっけ?」
「あぁ、それはこれをこうしてここを…」

容姿が瓜二つの二人がせっせと書類に向かっている。
執務室の一角ではこんな面白い光景が見られた。




いつもと変わらぬ朝を迎えた東方司令部。

「「終わり!」」

執務室内からそんな声が響く。
そう、朝を迎えたばかりなのに。
仕事が始まって二時間経ったか経っていないかと言う時間。
二つの声は綺麗に揃っていて、一度聞いただけでは二人から発せられる声だとはわからない。
丁度扉を開いたレイが二人の声に珍しく目を見開いた。

「…もう終わったのですか?」
「あ、ルシェリ中尉。終わったぜ?」
「うん。って事で俺らの仕事終わりなんだけど…どうしようか?」

瓜二つ、と言っても過言ではない二人の容姿。
違うところと言えば、髪の長さ。
片方はすっきりとしたショートヘア。
もう片方は肩甲骨の辺りまで伸ばしてある。
どちらも髪質や顔のつくりは同じで長さが違わなければ区別つかないだろう。
もちろん、それはレイにも言える事であった。

「スフィリア大佐…この件ですけれど…」
「ちょっと待った」
「俺ら両方スフィリアだからわかんねーよ?」

お互いに顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。
補足しておくならば、髪が長い方がコウで短い方がティル。
二人は二卵性の双子だった。
ちなみに双子の兄であるティルは男。

「…では、コウ大佐」
「はいよ。何?」

椅子を引くと、レイの方へと歩み寄って軽く書類に目を通す。
適当な指示を出すとすぐに椅子へと戻ってきた。
寛いでいたティルがコウと言葉を交わす。

「スフィリア大…コウ大佐、ティル大佐。今日の分の仕事は片付いているようです。
この後は急な仕事が入った場合に備えて司令部内で待機していてください」
「「了ー解」」

その言葉を待っていましたと、二人は同時に立ち上がった。
扉の方へと向かう二人に、レイは溜め息混じりに声をかける。

「マスタング大佐いじめも程ほどにしてくださいね」

それに答えるように背中を向けたまま手を上げると、二人は執務室を出て行った。
















「んじゃ、俺はロイの所に行って来るわ」
「んー。暇つぶしも大概にしろよ?リザさんが困るから」
「そうなれば俺が代わりにホークアイ中尉のために仕事して助けてくるって」
「はいはい」

廊下を進み、コウとティルは別れた。
ティルはロイの執務室へと足を運び、コウはいつものように屋外へと足を伸ばす。

「昨日は中庭だったからー…今日は屋上か…」

そう呟いて屋上への唯一の扉へと向かう。

「ティル大佐!!」

背中にそう声をかけられた。
この場に片割れがいればコウが振り向くまでもなかったのだが、生憎先ほど別れたばかり。
声の主が自分とティルを間違えている事はまず間違いなかった。
髪の長さが違うと言っても、やはりわからない人にはわからないらしい。

「おはよ。悪いけどティルの方は今マスタング大佐の部屋で暇潰してるよ」
「え?あ…コウ大佐でしたか!?す、すみませんっ!」
「別にいいよ。気にすんなって」

顔を真っ赤にして涙を溜め始めた女性に、コウは笑顔でそう答える。
落ち着くようにと自分よりも身長の低い彼女の頭を優しく撫でると、思い出したように口を開いた。

「ティルに何か用だった?言付けなら預かっておくけど…」
「いいえ!あの…自分で行きます」
「そ?んじゃ、そう言う事にしておきますか。あぁ、ティルなら1時に一旦執務室に戻ると思うよ。昼からの予定もあるからね」

それを伝えると、女性が笑顔でお礼を言って走り去って行った。
司令部とは言え普段は普通の勤め先。
こういう色事も日常茶飯事ではあった。

「今日はかなり可愛い子だったな…」

そんな事を言いながら足を動かす。

「…でも、ティルが落ちるには今一…かな?妹にしたいタイプだけど」
















「んー…気持ちいー…」

あの後数回呼び止められ、ようやく屋上についたのはそれから半時間もした後。
設置されているベンチに腰をかけて腕を伸ばす。

「やっと見つけた」

背もたれにもたれかかったまま目を閉じていたコウの顔に影が掛かる。
眩しかった太陽光線が遮られると、コウはゆっくりとその目を開いた。

「エンヴィー…どうした?」
「どうしたって…探してたんだけど。いつもは中庭なのになんで今日は屋上?」
「あぁ、悪い。気紛れ」

大して悪びれた様子も見せずに、コウは口角を持ち上げた。
それも慣れたことだとエンヴィーが彼女の隣に腰を下ろす。

「ティルは?」
「いつもの如くロイの所」
「ロイ…ああ、焔の大佐だっけ。仕事は…って聞くまでもないか」
「おう。バッチリですから。このまま緊急が入らなければ一日オフ同然」
「はいはい。ま、俺らとしてはしっかり動いてくれてるから助かるよ」

ありがとうね、と言いながらコウの髪を掬う。

「さっきの女ってコウに用だったの?」
「ん?あれはティルの方だよ」
「ふーん…泣かされるね、あの女」

面白そうに口の端をあげながらエンヴィーがコウに言う。
コウの方もわかっているらしく、苦笑を浮かべるだけだった。

「まぁ、三人いたけど…唯一泣かされないのは初めの子かな…。あの子ならティルも酷くは扱わないだろうし」
「コウが妹にしたがるタイプ?」
「よくお分かりで」
「大概そうだからね。他のはいかにも女の武器を知ってる奴ばっかりだったでしょ」
「そうそう。明らかに俺にまで嫉妬してますって感じの」
「ティルはそう言うの嫌いだよね。まぁ、俺もそう言う女は容赦なく殺すけど」
「アイツもかなり酷いぜ?死んだ方が楽かもな」
「おいおい…物騒な事言うなよ、コウ」

後ろから声が掛かった。
振り向くまでもないが、振り向かないわけにも行かない。
そこにはニヒルに笑むティルがいた。

「そこまで酷い事してねえし」
「ふーん…今日は何人泣かせた?」
「二人」
「赤毛の子以外だろ?」
「よくわかってんじゃん」

ティルは二人のところまで歩み寄ると、エンヴィーとは反対側のコウの隣に腰を降ろした。
優に5人は座れるベンチだから狭くはない。

「エンヴィー…今日は何の用だ?」
「んー?ちょっとね。ティルに用があって」
「そうなのか?じゃあ、俺向こうに行ってる」

二人の間に座っていたコウが立ち上がると、二人の間に微妙な空間が出来た。
コウは振り返らずにベンチの反対側の手すりのあたりまで歩いていく。

「何の用だよ?」
「いい加減にコウ離れしたら?」
「…はぁ?」
「手酷く泣かせる女達って皆コウに関して何か言った奴でしょ?」
「…………………」
「コウは知らないみたいだけどね」
「話すなよ」
「その辺は大丈夫。ただ……コウは貰うから」
「…やらねぇよ。コウが本心からお前に靡くなら……俺は引くけどな」
「ふーん…」
「今はまだイイお友達だろ?この場所を譲るつもりはねぇ。アイツは俺が守るんだからな」




守るよ。
強く見せることで自分を守っているお前を。
せめて、お前の隣を明け渡せる相手が現れるまでは…な。

05.02.25