真夏の一枚

夏祭り―――その多くは8月に開催され、特にお盆辺りに行われるそれには送り火としての花火が添えられる。
各地のどこかでは雷雨や台風などで夏祭りが中止になることだってある。
そう言えば、今年の夏祭りは中止になったんだよな―――そんなことを考えて、手元にある携帯で一枚の写真を見下ろす、8月最後の土曜日。
写真の中では、明らかに日本人ではない美男美女一人ずつ、中央で微笑みあっている。
その向こうでは並盛の夏祭りを象徴する黒い学ランの姿もあり、思わず乾いた笑みが零れた。











「あ」

その一組は、夏祭りの喧騒の中でも、決して埋もれることなく存在感を放っていた。

「何かありましたか、10代目」
「いや、ディーノさんとコウさんだなって」

ツナの呟きを拾い上げた獄寺に、前方に見える一組を指さす。
その先にいたのは、彼が口にした通りの人物たちである。
獄寺はそれに気付くと、あぁ、と納得したようにうなずいた。

「日本の夏祭りを体験させてやりたかったらしいです」
「ディーノさんが?」
「っつーより、浴衣姿が見たかったらしいッス」

補足の情報に、思わず納得する。
遠目に見えるコウは藍色のグラデーションを地とした花のあしらわれた浴衣に身を包んでいた。
残念ながら花には詳しくないので、それが何の花で何かの意味を持っているのかはわからないけれど。

一目で日本人ではないとわかる二人の存在は、この人ごみの中でも十分に人目を惹く。
それは決して悪目立ちというわけではなく、あえて言うならば美男美女のカップルに対する羨望の眼差しだ。
恐らくは高級ブランドの店内で出会ったとしても違和感のない二人が、不思議と日本の夏祭りに溶け込んでいる光景。
それはきっと、二人のどこか少年少女のような屈託のない笑顔のお蔭なのだろう。
ツナはちらり、と隣の獄寺に視線を向けた。

「………楽しそうだね」
「…ッスね」

二人の関係を手放しに歓迎しているわけではない。
けれど、あんな風にコウを笑顔にさせられるのは、きっとディーノだけなのだろう。
悔しいけれど、納得しているところもある。
そんな表情の獄寺に、ツナは小さく笑った。

「挨拶でも、と思ったけど、やめておこうか」
「そーだな。邪魔しちゃ悪いしな」
「明日には向こうから顔を出してきますよ、10代目」

そうして、獄寺と山本に続き、二人に背を向けようとしたところで、二人に近付く不穏な影が三つ。
明らかに酒に酔っていると思われる若い男が三人、彼らに近付いた。
ディーノが何かを買うためにコウの元を離れた隙に、というわけでもなく堂々と二人に絡む男達。
若干、彼らを遠巻きにしつつも、野次馬根性で視線を向けている群衆に、何となく溜め息が零れた。
獄寺くん、と呼ぶと、即座に反応する彼。
ツナを見て、それから二人を見て、状況を理解する。
けれど、彼は動かなかった。

「…跳ね馬は見た目優男ッスからね」

よくあることなんス。
多少、口を尖らせつつもそう話す彼。

「行かなくて大丈夫?」
「アレでもキャバッローネのボスッスから。それに―――」

性質が悪く絡んでいる三人の背後から近づく複数の黒、黒、黒。
あぁ、そっか。そうだよなぁ。あの二人が完全に二人きりなわけないか―――どこか、他人事のように納得する。
引き潮のように黒が立ち去ったその場には、先ほどと変わらない二人がいる。
何となく黒から逃れるように道が開いていたお蔭で、ツナたちの所まで人混みが割れた。
それにより、二人もこちらに気付いたらしい。
気遣いも無駄になったなぁ、と思いながら、二人に手を振った。

「こんばんは」
「よぉ、ツナ」
「こんばんは。…大丈夫でした?」

何が、とは言わなかったけれど、二人は小さく頷く。

「ロマーリオが恭弥に預けるって連れてったからな」
「雲雀先輩に…」

それは何ともご愁傷様だ。
それにしても、この祭りの取り締まりが風紀委員であることを理解しているあたり、流石である。

「恭弥くんはすごいですね。あの若さでこの祭りと取り締まっているなんて」

どこか誇らしげにそう語るコウの様子に、そうですね、と乾いた笑みをこぼす。
学ランを着た中学生が町の夏祭りを取り締まっているあたりをすんなりと受け入れている彼女。
やっぱり感覚は普通じゃないんだなぁ、と思ったツナは、まだ一般常識を忘れていなかった。

「じゃあ、また明日にでも改めて挨拶に伺いますね」

手首に巻いた華奢な時計を一瞥したコウが、ディーノの腕に手を絡めてそう微笑む。
獄寺を可愛がる彼女のことだから、一緒に、と声がかかるかもしれないと思っていたツナは少しばかり驚いた。
コウが獄寺と山本にも話しかけている間に、ちらりとディーノを見る。
ツナの心境に気付いたのか、ディーノが笑う。

「悪いな。可愛い嫁さんとのデートなんだ」
「…ご馳走様です」
「おう、また明日な!」

ツナの頭をくしゃりと一撫でするあたり、彼にとっての自分は弟のような存在なのだろう。
連れ立って歩いていく二つの背中は、時折顔を見合わせて笑い合う横顔が見える。
祭りの喧騒を取り戻した背景と、二人の姿。
何となく構えた携帯で写真に収めたその光景は、日本の夏を象徴する一枚に仕上がっていた。
携帯を操作してメールで写真を添付する。

「何してんだ?」
「ディーノさんに送っておこうと思って」
「すみません、10代目のお手を煩わせて…!」
「いいよ。コウさんが喜びそうだから」
「…ありがとうございます」
「いい写真だな。俺ももらっていいか?」
「うん。ディーノさんに聞いてから送るね。獄寺くんも要る?」
「…お願いします」

小さく笑う声をかき消すように、か細い音の後に大きな音を轟かせ、夜空に花火が咲いた。

Request [ 八周年企画|庚ユノ さん|獄寺くんのお姉さんで甘い雰囲気の夏祭りの話 ]
20.09.06