陽の下の会合

四国を治める元親と一緒にいるのだから、いずれ会うこともあるのだろうなと、その程度に考えていた。
そんな悠希の元に、その知らせは突然やってきた。

「この先で毛利軍が交戦中との報せあり!」
「毛利が?こっちまで来んのは珍しいな。相手はどこだ」
「ただの海賊らしいッス!」
「おいおい、その海賊ってーのは…」
「俺たちの獲物ッス!」

今回の航海は、長曾我部の海域で悪さをしている海賊の噂を聞いてのものだ。
そこに毛利軍が絡んでいるとなると、さて、どうなるのか。
悠希は盛り上がる元親たちの様子を少し離れた位置から眺めていた。
彼女は元々、戦国BASARAの大ファンである。
それだけに、今まで出会っていなかった毛利との会合には多少なりとも興奮するはずであった。
だが、現在身重の彼女には、多少なりとも自重の心が芽生えつつある。
そうなるまでにどれほどに周囲が苦労を重ねたかは、また別の話である。

「(毛利って今回はどっちなのかしら…普通のときなら話くらいはしてみたいんだけどなぁ)」

ちなみに、戦国BASARAにおいて、毛利元就は二面性を持つキャラクターである。
ザビー教入信後の彼を初めて見たときには、「こいつ冷酷キャラじゃなかったのか」と驚かされたものだ。

「(サンデー毛利だっけ…あっちは扱いやすそうだけど、それはそれで面倒でもありそう)」

普段であれば絡めるだけ絡んでおきたいところではある。
が、流石にそれなりに重くなった腹を抱えた現状では、悪ふざけはできないだろう。

「(そうなると、できれば産んでから自由なときに会いたかったなぁ…)」
「おい、悠希」
「うん?予定は決まった?」
「おう。このまま突き進むぞ!」

まぁ、そうだろうな。と納得する。
ここまで船を進めてきた元親が、毛利が来ているからと引き返すとは思えなかったから。

「それより、どうしたんだ?」
「何が?」
「随分と大人しいじゃねぇか」

具合でも悪いか?と顎を持ち上げ、上を向かされる。
今日の天気は雨ではないが曇り空で、眩しいと言うことはない。

「うーん…海賊相手であれば大したことないと思ってたんだけど。毛利軍相手となると、動かずにいられるかなーって」
「何だ、そんなことかよ。おめーはこの船に残れよ。俺は向こうに移って行ってくるからよ」

向こう、というのは並走している船のことだ。
今回の航海は二隻の船で出航しており、元々その予定だったのだという。

「えー。多少は動きたいと思ってきたんだけど」
「連れてきてやっただけで納得しろ」
「………仕方ない、かぁ」

船の上となれば、万が一のことがあっても物資が少ない。
ここでわがままを通すことのリスクは、悠希とてよく理解していた。







交戦中の一行が見えたあたりで、元親は隣の船に乗り移った。
彼は腕利きの部下を数名残し、「絶対に連れてくるな、何かあればすぐに戻れ」と言い聞かせて行った。

「心配性よねぇ」

手を振りながら船を見送る 悠希の言葉には、苦笑いが返ってきた。
最近こそ大人しいけれど、悠希の行動力は長曾我部軍の全員が知る所である。
ふと、元親の乗る船がそこに到着したのを見届けたあたりで、悠希の乗る船に日が差した。

「………」
「………」
「………ねぇ、今日って一日曇りじゃなかったっけ」
「…航海士はそう言ってたッスね」
「…めっちゃ晴れてきたんだけど、これって―――」
「も、毛利元就!?」

悠希の声を遮るようにしてそんな声が聞こえて、思わずこめかみを押さえた。






いつの間にか船の後ろに立派な一隻の船が寄せられていた。
どうやら、元親の見送りのために全員が甲板の前方に集まっていたらしい。
船なのだから、突然接近するなどという芸当は不可能であり、ここまで近付かれるまで気付かない方が問題だ。
まったくもって、迂闊すぎる。

「長曾我部を出せ」
「アニキはここにはいねぇ!」

そんな声が聞こえる後方へと向かう。
姐さん、駄目っす!と引き止める部下を押しのけ、その場に立った。

「毛利軍と一戦交えに、向こうに行きましたよ」
「其方は?」
「長曾我部の嫁です。ここで暴れないでくださいね。あなたの相手をすると、夫に怒られるので」

肩を竦めてそう言うと、毛利の鋭い視線が 悠希の腹を一瞥した。
女子供とて容赦しないであろう彼であるが、今回は交戦の意思はないらしい。

「あなたはてっきりあちらにいるものと思っていました。夫も意気揚々と向かいましたよ」
「我が出るまでもない小物よ」
「なるほど」
「………」
「………」

太陽の日差しの中におりる、沈黙。
燦燦と降り注ぐ太陽、というよりは、長閑な春の陽気を思わせるあたたかい日差し。
先ほどまでは曇り空ばかりを見ていただけに、この日差しには優しさすら感じられる。

「今日は一日曇り空だって聞いていたんですが」
「我は日輪の申し子であるぞ」
「日輪の…。うん、でもこの日差しは優しいなぁ…日輪信仰もいいものですね」

少し感じていた肌寒さも消えた。
ぽかぽかとした日差しを見上げて微笑む悠希に、毛利は「ほぅ」と感嘆する。

「長曾我部にしては、話の分かる者を妻女に選んだものだ」
「太陽は万物の源ですからね。夫だって、太陽は嫌いじゃないですよ」
「彼奴に日輪への理解など求めてはおらぬわ」
「…確かに、理解し合うのは難しいかも」

毛利と元親が酒を飲み交わして理解を深め合う光景は、なかなか想像するのも難しい。
政宗さんのようにはいかないよなぁ、などと苦笑していた悠希の前で、毛利がくるりと踵を返した。

「あら、お帰りで?」
「長曾我部が来る。顔を合わせるのは本意ではない」
「(それなら何で長曾我部を出せって来たんだろう、この人…)…お気をつけて」

そう言って、彼は部下に指示を出してから船の中へと消えて行った。
それを見送って振り向くと、元親の船がこちらに向かってきているのが見えた。
毛利の船に気付いたのか、あちらの戦が終わったのか。
この位置からではそのどちらなのかはわからない。
進みだした毛利の船は瞬く間に距離を開けて遠のいていった。

「何だって毛利の前に出てくるんスか!!アニキに怒られちまう!!」
「大丈夫だったんだから気にしない気にしない。結構話の分かりそうな人だったねぇ」
「姐さん!」
「はいはい、次は気を付けます。さーて、元親を出迎えるわよー」

Request [ 八周年企画|瑞樹さん|親友ヒロインと元親が毛利と遭遇する話 ]
18.04.07