寒さが厳しい時には、

ふるり、と肩が寒さに震え、微睡から覚醒する。
ゆったりと時間をかけて開いた視界に政宗が映るのはいつもの事。
声を上げるほどに驚愕したりはしないけれど…それでも、多少、心臓が逸るのは仕方ない。
二度寝を促すようなぬくもりから抜け出し、布団の近くに畳んでいた上着を羽織る。
吐き出した息の白さに驚き、誘われるように襖の向こうへと進んだ。
縁側の障子を開くと、そこには予想通りの光景が広がっていた。

「寒いと思ったら…」

もうそんな季節なのか、と納得する。
この間までは山が紅葉を始めたな、と思っていたはずなのに、次は雪だ。
北国と言う程ではないかもしれないけれど、日本の中で北に位置するこの場所の冬は早い。
まだ積もるほどではないにせよ、そうなるのも時間の問題だと感じる空模様。
寒さから逃げるように、上着の襟元を手繰り寄せた。

「…風邪を引くぞ」

気付いていた気配の主がそう言って、ぐいと背中側に引っ張られる。
傾くようにして背中から腕の中に飛び込んでしまえば、先ほどまで感じていたぬくもりが全身を包み込んだ。

「政宗様、あたたかいですね」
「そうか?今日はまだそんなに寒くねぇだろ」

不思議そうな表情で空を見上げる彼に、あぁ、と気付く。
この地で生まれ育った彼は、冬の寒さにも慣れているのだろう。

「いつか…慣れるんでしょうか」

一度包まれてしまえば、手放したくなくなってしまう優しいぬくもり。
それに縋るように、甘えるように。
少しだけ身体の向きを変え、彼の胸元に頬を預けた。

「慣れなくてもいいんじゃねぇか?」

―――このままでも。

何となく、喉元で笑った彼が、言葉にしなかった感情が伝わってくる。

「…そうかもしれませんね」

腕の中から見る外の景色は、やはり寒そうではあったけれど…不思議と、優しさのようなものを感じた。
草木が眠る冬の先には、生命が芽吹く春が待っているからだろうか。








「…いつも以上に厚着だな、姫さん」
「そう言うあなたは見た目から寒そうだわ」

上着を着て!と言いたくなるのも無理はない。
流石に肩を出していると言う事はないけれど、基本的に忍の服は布地が薄い。
その下には色々と忍ばせているから、決してそれ一枚と言う事はないだろうけれど、それでも見た目が寒い。

「まだ秋の終わりだって言うのに…冬本番になったらどうするんだ?」
「いいのよ。人間、どうにでもなるものなんだから」

大丈夫、と頷いては見るものの、着物の袖から手首が出ただけでも身体が委縮する。
今年の秋はあたたかい日が多かったから、寒さに馴染むのにも時間がかかってしまうのかもしれない。
氷景の苦笑が見え、小さく溜め息を吐いた。

「暖房器具がないのは辛いわ…」
「火鉢を用意させるか?」
「いいえ、大丈夫。今から火鉢に慣れてしまうと、本当に冬が越せなくなりそうだから…」

気力と上着で何とか頑張ろう。
そう意気込んで、思い出したように氷景を振り向いた。

「そう言えば、何か用があったんじゃなかったの?」
「あぁ…真田幸村が、国境近くまで来てるって伝えようと思って」
「ほぉー…お前が冷静だって事は、単身で乗り込んで来る気か」

背後から、声。
そこには、席を外していたはずの政宗が戻ってきていた。
その表情を見た途端、紅は思わず肩を竦める。

「午後の予定は中止ですね…」

嬉々とした様子で歩いていく政宗の背中を見つめ、そう呟いた。













政宗が行くと言えば、当然の事ながら小十郎が着いて行く。
本当ならば寒いので城を出たくはなかったのだが、政宗直々に誘われれば断れないのが彼女だ。

「寒いなら乗せて行ってやるから―――来いよ」

そう言って、馬上から手を差し出された。
出掛けるつもりはないのに、なんていう思考は一瞬のうちにどこかへ飛んでいく。
自分で馬を駆るようになってからは、彼に乗せてもらう事はなくなった。
久し振りの馬の上は狭く、けれどやはり、あたたかい。

「走らせるからな、これも巻いとけ」

そう言われ、首元にぐるりと襟巻が巻かれる。
長いそれに口元を埋めると、ふわりと政宗の残り香を感じた。

「政宗様は寒くないのですか?」
「お前ほどはな。そんなに縮むなよ、疲れるだろ」

前に乗せた彼女が随分と縮こまっている事に気付き、思わず笑う。
寒さから逃げる様子が、何だか小動物を思わせた。
彼女がそれ以上小さくならずに済むようにと、強く抱きしめ、馬を走らせる。

「…楽しそうですね、政宗様。本当に…幸村殿には、少し妬けます」

下手をすると鼻歌でも聞こえてきそうなほどに上機嫌な様子に、小さく息を吐く。

「真田幸村との一戦は楽しみだが―――今の機嫌は、お前のお蔭だな」
「え?」
「今のお前、動物みたいでかなり可愛いぜ?」

後ろから耳元に吹き込まれた言葉に、一瞬で首元まで赤らめる紅。
言葉を失って、少し逃げるように身を捩った彼女を、落としてしまわないように抱き直す。

「暫く寒さに慣れるなよ」
「…慣れようと思っても、無理です」

拗ねたような口調も、笑いを誘った。










「ええい、動きにくい!!」

戦いがいくらか白熱してきたところで、幸村が羽織っていた外套を脱ぎ捨てた。
見慣れた服装に、思わず眉を寄せる紅。

「寒い!」

どう考えても寒い。
どうしてあれで平気なのか。

「あー…気にしちゃ駄目だよ、紅さん。旦那はあれが普通だから」
「何だか、あなたの格好を見ると落ち着くわ」

露出している所を探す方が困難な格好の佐助は、彼女の言葉に苦笑した。
いつも以上に着込んでいて、政宗の前に乗せられてきた彼女。
その状況だけで、彼女がこの寒さに困っているのだと言う事はよくわかった。
幸村の格好に文句の一つも出てしまうも、無理はないだろう。

「そんなに寒いなら、甲斐に来る?旦那も喜ぶ―――」

言葉半ばで、隣にいた佐助が消えた。
いや、正確に言うならば、避けたのだ。
後ろから飛んできた苦無を。

「勝手に連れ出そうとするな」
「何だよ、氷景。何なら、お前も一緒に来ればいいって!」
「俺はお前の許しがなくてもどこだって着いて行くけどな。姫さんが望まない事はしない」

淡々と言い終えると、氷景は紅に、ほら、と竹筒を渡した。
受け取ったそれは、ほんのりとあたたかい。
佐助に紅を任せた後、水を沸かして用意してくれたのだろう。

「城の方がマシだって言うのに…そんな顔みたら、帰るかとは聞けないな」
「うん?」
「心底、惚れ直してるって顔」

え、そうなの?

赤くなる頬を自覚しつつ、逃げるように二人の忍から顔を背けた。

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11.11.27