語られた衝撃の事実は、

「あ、紅さん」

ツナと獄寺と山本が肩を並べていた帰り道。
並中をまっすぐ歩いた先に、覚えのある背中を見つけて声を上げたのは山本だった。
「紅?」と首を傾げる残り二人に、説明しようと口を開いたその時。
前を歩いていた彼女が、少し足早になった。

「恭弥!」

―――恭弥。

ツナたちが知る中でその名前を持つ人間は一人。
しかし、こんな風に親しみを込めて彼の名を呼べる人を、知らない。
驚きを露わに彼女を見れば、走る先には彼らの想像した通りの人物、雲雀恭弥がいた。
意外な事に、彼はトンファーをちらつかせる様子もなく、足を止めて彼女を待っている。

「もう、学校で待っていてって言ったわよね。どこに行くつもり?」
「駅前で面倒が起ったらしいから、片付けてくるよ。応接室で待ってて」
「学校まで戻るのは、それこそ面倒だわ。着いて行ってもいいんでしょう?」
「…別にいいけど」

そんな言葉を交わしながら歩いていく二人があまりにも自然体で。
自分たちの知る雲雀恭弥とはまるでかけ離れていて、別人のような錯覚すら抱いた。

「あれ…誰?」
「雲雀の女か?」

群れる事を嫌う雲雀が同行を許可するほど、気を許している女性。
獄寺の考えも無理はないよな、とどこか納得気味に頷く山本。
改めて説明を、と口を開くも、唐突に前の二人が振り向いた事により、思わずその口を噤んだ。
彼女は三人の姿を見て、にこりと微笑む。

「こんにちは、山本くん」
「こんにちは」

ぺこりと頭を下げると、彼女は満足そうに頷いた。
そして、ツナや獄寺にもこんにちは、と挨拶をする。
その人懐こい表情に、隣にいる雲雀の存在を忘れて呑気に挨拶を返してしまった。

「えっと…?」
「あぁ、私は紅。並盛高校なの」

冗談めかして、こう見えても年上なのよ?と笑う彼女は、どう見ても年上にしか見えない。
高校生だと言う事に納得し、ならば「何故雲雀さんと?」と新たな疑問が浮かぶ。
その視線に気付いたのか、今まで沈黙していた雲雀が冷めた目でツナを見た。

「沢田綱吉」
「は、はい!」
「彼女を君の面倒に巻き込んだら―――許さないよ」

雲雀は、並盛の秩序と言われるだけの事はあり、状況を的確に把握していた。
この所、並盛で起こる様々な案件の殆どが、ツナを中心に起こっている出来事なのだと。
肉食獣の威嚇のような冷たい牽制に、獄寺が臨戦態勢を取るのも無理はなかった。

「恭弥」

諌める様な彼女の声に、雲雀の視線がツナから外れる。
興味を失ったような彼を見て、ツナはほっと肩を下ろした。

「あの、雲雀さんとは…」

どういう関係なんですか、と尋ねようとして、その必要があるのだろうかと思い悩む。
この反応を見れば、答えは明白のような気がしたのだ。

「ツナ、この人はな―――」
「彼女は僕の最愛の人だよ」

山本の言葉を遮るようにして告げられた内容に、事情を知らない二人が顔を赤くする。

―――最愛とか、最愛とか…!

そんな中学生の初心な一面に触れ、紅は小さく笑った。

「迂闊な覚悟で手を出す輩は…咬み殺すよ」

そう言った雲雀の目が山本を見ていたのは、本人たちだけが知る事実だろう。
雲雀は言う事だけを言うと、用はないとばかりに歩き出す。

「じゃあ、またね」

ひらりと手を振って、紅は雲雀と共に歩いて行った。














残された三人…と言うより、二人はまるで嵐が過ぎ去ったようにぽかんと放心していた。

「雲雀さんって年上が好きだったんだ…納得できるけど」
「つーか、雲雀ってああ言う奴だったか…?」

そんな二人の反応に、小さく噴き出した山本。
二人からの視線を受け、彼は「悪い悪い」と苦笑した。
そして、種明かし。

「あの人な、雲雀紅さん」
「雲雀、紅………雲雀?」
「っつーことは」
「そ。雲雀恭弥の姉さんらしーぜ。俺も部の奴から聞いて知ったんだけどなー」

その事実が衝撃過ぎて、未だに現実に戻って来られない二人。

「…獄寺くん」
「何スか、10代目」
「ビアンキに最愛のとか―――」
「絶対無理ッス。10代目の頼みでも無理ッス」

言えない、言えるはずがない。
半分しか血が繋がっていない自分でも言えないのに、実の姉を、しかも本人の目の前で「最愛」と言ったのか、奴は。
同じく姉がいる獄寺にとって、雲雀と言う人物が人間の枠組みから飛び出した。
すっげーシスコンだよな!なんて笑えるのは山本だけだ。
とても大切にしていると言う事はよくわかった。
無視して行ける所をあえて立ち止まり、ツナに警告した時点で、それは明らかだ。
それにしても―――普段の雲雀とは180度違う一面を見せられた脳は、情報の整理に忙しい。

「そ、それにしても…山本は結構…普通だったね」
「俺は何回か会ってるからなー。応接室の窓を割っちまったのに、あの人のお蔭でお咎めなしだぜ」

何でもない事のように笑いながら言うけれど、とてもすごい事だ。
少なくとも、並中生であれば、誰だって目を剥く事実。
怪我一つなく帰って来た山本を、部員たちは「奇跡の生還者」と呼んだほどだ。
「次はないって言われたけどな」なんて笑っていた彼を見る目は、未知の生き物を見ているようだった。

「紅さんって話してると結構面白いぜ。雲雀とは全然違う感じで」

ゆっくりしたペースで歩き出し、ふとそう語った山本。
その時の事を語り、彼女を「紅さん」と呼ぶ彼の横顔に、ツナの超直感が働いた。
「もしかして」とその可能性に気付き、同時に、雲雀の様子を思い出す。

―――迂闊な覚悟で手を出す輩は…咬み殺すよ。

あの言葉は、もしかして山本に向けられた言葉だったんだろうか。
その考えは、間違っていない気がした。

―――前途多難だと思うけど、頑張れ!

まだ確証はないので、心の中で精一杯のエールを送った。

Request [ 七周年企画|志乃さん|雲雀くんのお姉さんでほのぼの姉弟と並盛ボーイズの話 ]
11.10.23