現在を生きる僕らの過去に、
「え」
「あ」
「お」
「…」
ばっちり視線が絡み合う四つ角。
別の方向から歩いてきた人間がその角で出会い、その全員が知り合いだと言う確率は如何程だろうか。
そんな偶然が重なり、懐かしい面子が顔を揃える。
まるで、その場が―――いや、彼らだけが、古い時へと逆戻りしたかのような時間。
連中の存在に気付きながら、何もなかったかのように歩こうとする高杉。
「…いいの?」
「他人だ」
今更、会って交わす言葉もない。
そう言いたげに歩き出す高杉だが、そんな事で見逃してくれるような連中ではない。
「昔の好との再会だ、そんな邪険にしなくてもいいだろ?」
「そうだぞ、高杉。こんな偶然はそうあるものじゃない」
声を上げたのは銀時と桂だった。
あの一件以来、二人との道は完全に分かたれたと思っていたが…違ったのだろうか。
ふとそんな事を考えるも、二人の手の位置に気付き、あぁ、と納得する。
高杉も同じものを見ていたのか、挑発するように口角を持ち上げた。
「こんな街中じゃ、刀は抜けねぇよな、てめーらは」
だが、高杉は違う。
必要があれば、この場で刀を抜く事に何ら抵抗はないだろう。
紅は小さく溜め息を吐き出した。
「それより暁斗、お前さん…」
いつの間にか隣に来ていたらしい坂本が、紅を上から下まで眺める。
そして、納得するように、ふむ、と頷いた。
「女装がよう似合っとるのー」
「……………」
ハトが豆鉄砲を食らったような顔と言うのは、こう言う事だろう。
ぽかんとした表情を浮かべたのは、彼女だけではなかった。
「……………」
「……………」
「……………」
高杉と緊張状態にあったはずの銀時と桂が、思わず坂本を見る。
高杉ですら、あり得ないものを見るような表情だ。
―――そう言えば、こいつは知らなかったのか…。
四人の視線が口ほどに物語る。
「…似合ってる?」
「おう!その格好で迫られたらどんな男もイチコロぜよ!」
「………じゃあ、試してみましょうか?」
そう言った紅が艶やかに微笑み、スッと腕を上げた。
そうして坂本の首元へとその腕を絡め、距離を縮めていく。
「考え直せ、紅!!」
「てめーも鼻の下を伸ばすな!死ぬぞ!」
縮めた距離は一瞬のうちに広がってしまった。
必死の様子で引き離した銀時と桂の脳裏には、かつての同胞が受けた酷い仕打ちが甦る。
目の前の女は、それはもう魅力的な存在だが、気軽に手を出せばただでは済まない猛毒だ。
彼女自身もそうだが、何より―――
「紅」
「ふざけただけよ」
低い声に、紅は肩を竦めて歩き出す。
自分がいかに危険な状況だったのかを坂本に訴えかける二人を横目に、フッと笑みを浮かべた。
「行きましょうか」
「ああ」
人ごみの中に溶け込むようにして消える二人。
三人がそれに気付くのは、それから半時間後の事だった。
「それにしても…驚いたわ。坂本、気付いてなかったのね」
ふと、歩いていた紅がそんな事を呟く。
薄々そうかもしれないとは思っていたけれど…いくらなんでも、今まで自分が男だと思っているとは。
銀時は初めから気付いていたようだし、桂には事情で知られていた。
だから、二人の口から聞いているものと思い込んでいたのだ。
「わざわざ話すもんでもねぇだろ」
「…それもそうね。茶飲み友達と言うわけでもないし」
かつての同胞達は、既にそれぞれの道を歩き出している。
特に、坂本はあの戦の後、宇宙に出たと聞いた。
そんな彼が桂や銀時から情報を得る事は難しかったのだろう。
尤も、男である事を疑っていなかったのだから、彼にとっては必要のない情報だったのかもしれない。
「本当に…変わっていないわ」
ああしてこの五人が一堂に会したのは、何年振りだろう。
容姿に多少の変化はあれど、まるでかつての日に戻ったような錯覚すら抱いた。
懐かしさに目を細めた紅の空気に気付き、高杉の視線が彼女を見る。
戻りたい―――そう感じている眼差しではない。
紅の目は微塵も、今の自分を後悔しているようには見えなかった。
だからだろうか。
「…懐かしいね」
「…あぁ、そうだな」
紅の言葉に、素直に同意できた。
今の生き方を悔やんだ事はない。
けれど、昔の日々に楽しさを感じた日があった事もまた、変わらない事実なのだ。
決して消える事はない過去の日々。
ほんの少しくらい、かつての時間に想いを馳せる日があってもいいのかもしれない。
「晋助、どこに行くの?」
高杉の足が目的地への道を外れた。
不思議そうにしながらも、大人しく着いてくる紅。
「発つのは明日にする」
「…そう」
何の変化だろう、と思った。
けれど、見上げた高杉の横顔に過去の彼の横顔が重なって―――何となく、言葉の意味を知る。
「温泉のある宿が良いわ」
「好きにしろ」
そっと絡めた腕は、振りほどかれなかった。
Request [ 七周年企画|睡煉さん|銀時桂坂本の三人と偶然遭遇する話 ]
11.10.22