子どもだからって、
「誰だ!!紅様に刀を持たせたのは!!」
現状を見た小十郎の肩が震え、限界点を越えてその怒号が響き渡る。
城中に聞こえんばかりの声を聞いた政宗が、城のどこかで小さく口元に笑みを浮かべた。
「お前がいるってわかってて持たせる奴がいるとすりゃ…それは、アイツ自身だろうよ、小十郎」
呟く声は、聞こえるべき本人には届かない。
バッサリと真っ二つになった藁巻きが並ぶ。
見るも無残な姿を作り出したのが、年端も行かぬ少女だと言うのだから、驚愕だ。
とは言え、その現場を目の当たりにした人間は少なくはなく、現実を否定できそうにない。
「紅~…今度は何をやったのよ」
短い腕に小太刀を抱き、首を傾げる少女。
彼女の前に膝をついた悠希は、苦笑を浮かべて小太刀を彼女の手から預かった。
「だめ?」
「駄目じゃないんだけど…これ以上は、小十郎の血管がブチ切れそうだからね」
やめとこうか、と宥めるように言うも、言葉の内容は子ども向けではない。
反対側へと首を傾けた少女…もとい、幼い紅は、その興味を失ったように、別の何かを探して視線を動かす。
その動きに何かを察したのか、どこからともなく姿を見せる氷景。
それを見るなり、紅の目がパッと輝きを帯びた。
「ひかげ!」
「…また、豪快にやったな、姫さん…。この歳でアレか」
「紅の家はお父さんもおじいさんも厳しい人だったからねー…子どもにも容赦ない」
説明するようにそう言った悠希の言葉が、全てを物語っている。
聞いた野次馬の兵たちが、軽く蒼褪めた。
政宗といい勝負ができる時点で強いと言う認識はあった。
安心できる強さがあったから、その背中に着いて行くと決めたのだ。
しかし…その強さの基礎が、この歳で既に出来上がっていた物だったとは。
信じられない、けれど、目の前のこれが現実だ。
スッパリと切り裂かれた藁巻きの断面は、驚くほどに滑らかで、否応なしに腕の良さを理解させる。
「ひかげ、どろんする!」
「じゃあ、筆頭の所までな」
そう言うと、氷景は面倒がる素振りもなく、紅を片腕に抱き上げた。
そして、瞬く間にその場から消える。
残った悠希は、深々と溜め息を吐いた。
「何、氷景ってロリコン?」
「ろり…?」
「あぁ、えっと…幼女好きなの?」
疑問を返した小十郎が、持ち上げていた藁巻きのなれの果てを足元に取り落とした。
「小十郎の声がここまで聞こえてたぜ?」
何をしたんだ?と問いかけながら、片手で紅に向かって手招きをする。
氷景の腕を下りた紅が、トタトタと足音をさせながら政宗の元へと向かった。
近くに来た紅をひょいと抱き、膝の上に乗せる彼。
「ちょきんしたらおこられた?」
大人の腕よりも太い藁巻き数本をぶった切ったのだから、ちょきん、なんて可愛らしい代物ではない。
断じて違う、と言う人間は、この場にはいない。
「楽しかったか?」
「うん!すごくきれいなかたなで、きれあじばつぐん!」
「そりゃあ、お前が手入れを怠らないからな」
刀は自分の命だ。
真剣で訓練した後だけでなく、長く鞘に納めていた時も、その手入れは忘れない。
そうして常に最良の状態を保っている紅を知っている。
政宗は口角を持ち上げて笑みを浮かべながら、紅の頭を撫でた。
いつもとは違い、その手の平で包み込んでしまえそうな小さな頭。
髪は…この頃の方が、少し細く感じる。
けれど、根本的な質感は変わらず、彼女が紅本人である事を明確に伝えていた。
「ねぇ、まさむね」
政宗様、と少し甘みを帯びた声とは違い、舌足らずな声で呼ばれる名前は新鮮だ。
「どうした?」
「まさむねはつよい?みんながつよいって」
「…まぁな。お前よりも強いぞ?」
いい勝負をするのだが、単純な勝ち負けならば政宗の勝ちだ。
その勝敗を決するのは、男女の差だと言っても過言ではない。
政宗の答えに、紅は嬉しそうに笑って彼の腕を引っ張る。
「じゃあ、けいこしよ?たたかうの!」
「俺とか?」
「おじいちゃんが、つよいひととたたかえって!」
わざをぬすむんだって。
子どもが笑顔で語るには、違和感を覚える会話だ。
―――確か、こいつの生まれた時代は平和…なんだったよな?
思わず確認してしまいたくなる。
どんな家だ、と思うけれど、その教育が今の彼女を作っているのだと思えば感謝すべきもの。
「じゃあ、行くか!」
膝の乗せていた彼女を片腕に抱き上げる。
きゃー、と楽しげな声を上げて首にしがみつく彼女は、どこまでも子どもだった。
「ひかげもいっしょー」
「あぁ、わかった」
珍しく姿を消さなかった氷景が頷くと、紅はにこにこと笑顔を浮かべる。
何の対応も変わらない氷景に、政宗は心中で笑う。
小さかろうが大きかろうが、氷景にとっては関係ないらしい。
その時、彼女にとって必要な事をするだけなのだろう。
「政宗様!何を考えて!?こんな幼子に!!」
「落ち着けって、小十郎。相手は紅なんだし、本人がやるっつってんだから構わないだろうが」
「そう言う問題ではありません!せめて真剣ではなく木刀に―――」
鍛練場に戻り、事の由を聞くなり小十郎が声を荒らげた。
そんな彼の言い分をさらりと聞き流す政宗。
二人の横を走り抜ける紅。
「こだちー!」
「はいはい、どうぞ」
悠希が預かったままだった小太刀をあっさりと紅に返す。
受け取ったそれを構え、抜刀する姿は子どもとは思えないほどに様になっていた。
「まさむねー。よういできたよ!」
「おう。どっからでもかかって来い」
「はーい」
間延びした返事とは裏腹に、勢いよく床を蹴る。
その一撃は体重の軽さに比例するものの、鋭さは大人の紅の剣筋を思い出させた。
ヒュゥ、と口笛を吹き、楽しげに目を細める政宗。
「しっかり盗めよ?」
「うん!」
楽しげな二人を横目に小十郎が深々と溜め息を吐いた。
Request [ 七周年企画|凛麗さん|小さくなったヒロインと親友・伊達のドタバタな一日の話 ]
11.10.11