隠して、隠されて、
目の前に差し出された計画書に、XANXUSの赤い目が鋭く光る。
「何だこれは」
手にした何かが飛ばないのは、それを差し出したのが一人息子であるティルだからだろう。
俺相手なら椅子が飛ぶ、間違いねェ。
ティルを連れてきて部屋の入り口で待機していたスクアーロは、心中でそう思う。
「計画書」
「見ればわかる。訓練はどうした」
「今日、明日、明後日のノルマは全部終わらせたよ」
文句を言わせる余地を残さない行動は、コウの血筋だろうか。
真剣な表情で自分を見つめる息子に、XANXUSは改めてそれに視線を落とす。
「却下だ。どこにそんな暇が―――」
「父さん」
XANXUSの言葉を遮るような、ある種の暴挙に出られるのはティルかコウくらいだろう。
「母さんがあなたを大切に思ってるのは知ってる。その姿を、生まれた時から見てきたから。
でも、俺はあなたが母さんをどう思っているのか、わからない。だから、母さんが大切なら―――」
これを、許可して。
交換条件と取れる言葉に、沈黙が室内を支配する。
両者が、見つめ合うと言うよりは睨み合っている状況に、スクアーロが小さく喉を鳴らした。
それはこっち、あれはあっち。
忙しく指示を出すルッスーリアと、指示通りに動く部下たち。
その中には、ヴァリアーではないボンゴレの人間も含まれていた。
「あら、お帰りなさい。ティル。どうだった?」
やってきたティルに気付いたルッスーリアが問う。
ティルは胸を張り、口角を持ち上げて自らの手でVサインを作った。
「許可、取って来たよ!」
「流石ね!ボスはすぐに頷いてくれた?」
「却下されたけど、母さんを出したら許可された」
ティルの返事に、やっぱり、と頷くメンバーたち。
ティルを向かわせたのは正解だったと、満面の笑顔で彼を撫でるルッスーリア。
頭がもげるかと思った…後程、首を押さえてそう呟いたティルがいたのは、スクアーロだけが知る事だ。
「さて、と!許可が下りたなら、あとは準備に専念するだけね!やるわよー!!」
会場のあちらこちらから、おー!と言う声。
普段のノリが悪いとは言わないけれど、ヴァリアーなのだから目立ってノリが良いと言うわけではない。
そんな彼らが準備に盛り上がっている理由は一つ。
「ティルの次の役目は、上手くコウを休ませる事よ?」
「それは大丈夫。ほら」
そう言って取り出したのは、死炎印の付いた紙。
滅多にお目にかかる事のないそれに、彼らが瞬きをする。
そんな彼らを前に、ティルがニッと口角を持ち上げた。
「じいちゃんに一筆書いてもらったから。母さん、父さんの次にじいちゃんに忠実だからさ」
これを見たらNOとは言わないよ。
楽しげに笑うティルを見て、これは誰の影響だ?―――誰かが、そう呟いた。
予定した仕事がキャンセルになり、別の仕事が舞い込んできた。
きっちり盛装してほしいと、9代目直々の手紙を貰ったからには、手を抜くわけにはいかない。
「…何を企んでいるのかしらね」
息子を含め、幹部が秘密裏に動いている事は気付いている。
けれど、XANXUSや仕事に迷惑がかかるものでなければ構わないと、探るような事はしなかった。
9代目も一枚噛んでいるらしいと知り、首を傾げる。
上から下まで、要望通りにきっちりとドレスアップしたコウは、仕上げのネックレスを首の後ろで留めた。
ドレスと揃いの手套を取り、少しだけ悩んでからそれをテーブルに置く。
理由は単純―――付けてしまったら、指輪が見えなくなってしまうから。
「母さん、準備できた?」
「ええ。ティル、襟が曲がってるわ」
隣の部屋から出てきたティルもまた、盛装した姿だ。
少しだけ折れた襟を整えてやり、拙いエスコートで部屋を出る。
「今日はどうしたの?」
「秘密!大丈夫だよ、すぐにわかるから!」
「それはそうだけれど…私はどの顔をしていればいいのかしら」
コウにはいくつもの顔がある。
ヴァリアーの総隊長としての顔、XANXUSの妻としての顔、11代目候補の母の顔。
「すぐにわかるよ。母さんは、父さんと一緒にいてくれればいいから」
「とにかく、最後まで隠すつもりなのね」
まぁ、いいわ、と諦めたように笑うコウ。
そうして、二人は会場へと向かった。
コウが会場にやって来た時には、多くの人で賑わっていた。
記憶を手繰り寄せ、集まっている顔ぶれが皆、ボンゴレの関係者である事を悟る。
「コウ」
一体、どんな隠し事だったのだろう。
そんな事を考えていた所で、エスコートしていたティルの手が離れた。
同時に、横から声をかけられ、無防備に振り向く。
そこにいたのは声の主、XANXUS。
服装が黒である事に変化はないが、盛装と呼ぶに相応しい上等なスーツ姿だ。
全体的に後ろに流した髪がいつもとは違う印象を与え、無意識のうちに目を奪われる。
僅かに頬を赤くしたコウに気付き、XANXUSが小さく口角を持ち上げた。
言葉なく差し出された手に、半ば反射的に自身の手を重ねる彼女。
そして、何も説明されないままにエスコートされる。
行ってらっしゃい―――ティルの小さな声に見送られた。
結婚おめでとう。
9代目からそう言われたのは、これが初めてではない。
けれど、今この場で、マイク越しに告げられた言葉により、コウはこの集まりの意味を知った。
驚いた様子で隣のXANXUSに視線を向ける。
「―――ティルが言い出した」
9代目からマイクを受け取った進行役が話を進める中、声を小さくしてそう説明する彼。
「式は挙げねぇが…周知は必要だからな」
「XANXUS様…」
「アイツらがお前には隠せと言っていたから、何も言わなかったが―――お前にはこの程度、何でもないだろ」
打ち合わせも心の準備も何もなく、主役として立たされている状況。
それに怯むような性格だったならば、彼女がこの場にいる未来はなかっただろう。
それを認められた気がして、コウは自然と笑顔を見せた。
「付いて来い」
「…はいっ」
今、この場にたくさんの人がいてくれてよかったと思う。
誰もいない、二人だけの空間だったなら―――きっと、溢れる涙を止められなかっただろうから。
喜びからの涙を笑顔に変えて、コウはXANXUSの隣にいた。
「あらー、いい笑顔だわ」
「ルッスーリア撮りすぎ」
「あんな二人を撮らずに何を撮るって言うのよ!ボスの貴重な笑顔よ!
って言うか、コウが可愛いわ!あんな嬉しそうなコウがいたら、ボスがメロメロでも無理ないわね」
「ボスがメロメロって無理すぎ。写真、後で焼き増しして」
「ベルって実はコウが好きよね」
「ベルは元々コウを気に入ってるよ。もちろん、僕もね」
「父さん、あんな表情出来るんだね。あの人の笑顔は嘲笑だけだと思ってたけど」
「お前…仮にも父親にそれはねぇぞ…」
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11.07.24