真綿で包むように、

「隼人くん、とても楽しんでいるみたいです」

まるで自分のことのように喜んでいるらしいコウは、ニコニコと笑顔で手紙を折りたたんだ。
折り目通りに畳まれたそれは、日本にいる獄寺からの近況報告。
彼が日本に渡る際に、学校や住むところに関して手続きをしたのはコウだ。
未成年の彼が異国で一人暮らしをするにあたって、彼女が決めた約束事の一つが、これである。

「そうか、良かったな」

玄関先まで届けられた手紙を自室まで運んできたディーノ。
彼もまた、コウが喜ぶ姿をまるで自分のことのように受け止め、笑顔を浮かべる。
惜しみなく笑顔を振りまき、室内の空気をほのぼのさせる二人。
そんな二人を見て、ドアの所にいた部下も和む。
キャバッローネの本部は、今日も平和だった。

「コウ。ほら、約束だろ」
「はーい」

ふと、思い出したように言うディーノだが、“約束”を守らせるために手紙を読み終わるのを待っていたのだ。
封筒と手紙をコウから受け取り、彼女を促す。
少し残念そうにしながらも、彼女は大人しくベッドに横たわる。
隠すまでもないことだが―――コウは今、風邪を引いていた。
ディーノはコウから受け取った手紙を、彼女がいつも手紙を片付けている箱の中へと片付ける。
そして、再び彼女の元へと―――戻る前に、ドアの所の部下を見た。

「もう下がってていいぞ。暫くコウについてるからな」

そう言って部下二人を下がらせる。
閉じられたドアを見届けることもなく、大股で彼女の元へと戻った。

「ディーノくんは明日、日本に行くんですよね」

良いなぁ、と呟く彼女に苦笑を返した。
その話は昨日の時点で決着がついた筈なのだが…弟のこととなると、少しばかり我侭になる彼女だ。
いつもは聞き訳が良すぎるくらいだから、この程度の我侭は可愛いもの。

「ボンゴレの10代目をこの目で見てこねーとな。リボーンにも呼ばれてるし」
「そう、ですよね…」
「リボーンも残念がってたぞ。相変わらず気に入られてるよな」
「私も会いたかったです…残念」

電話越しに、リボーンの声が気落ちしたのを聞いて、思わず苦笑が零れたものだ。
リボーンがコウを気に入っているのは昔からで、逆もまた然りなのだが…少し、妬ける。
もちろん、心配はしていないけれど。

「今の時期の風邪は拗らせると厄介だからな、我慢してくれよ」

クッションの良いベッドに浅く腰掛け、彼女の頭を撫でる。
手触りの良いウェーブを手の平が滑った。
そして、その手が当然のように彼女の額に触れる。
顔には出ていないけれど、まだ少し熱は残っているようだ。

「辛くないか?」
「大丈夫ですよ。熱も、殆ど残っていませんから」

本人は大丈夫と言うけれど、割と体調を崩しやすい彼女だから、ディーノの心配は消えない。
案じるような視線に気付いた彼女は、苦笑を浮かべた。
そして、頬を撫でる彼の手に、自身のそれを重ねる。

「本当に、大丈夫です。お医者様にも聞いているでしょう?」
「ああ…そうなんだけど、な」
「ディーノくんは心配し過ぎですよ」

クスクスと笑う彼女の表情に、二日前に見た辛さは見当たらない。
どうやら今回の“大丈夫”は、信じても良さそうだ。
ディーノの緊張が僅かに解けたのに気付くと、コウは話題を変えるように身体を彼の方へと向けた。

「帰ってきたら、隼人くんの様子を聞かせてくださいね」
「コウは本当にあいつが好きだなぁ」
「可愛い弟ですから。ディーノくんにとっては可愛くないですか?」
「いや、可愛いことは可愛いんだが…」

たぶん、本人にそう伝えたらダイナマイトが飛んでくる。
口に出さず、そう思う。
世界は広いけれど、獄寺に対して可愛いと発言し、彼を怒らせないのはコウくらいだ。
ビアンキも彼を可愛がっているけれど、彼女に対しては反抗心が大きい。
かく言う自分も決して、嫌われているわけではないのだが、好かれているかと言ったら即答できそうにない。
自分より年上は敵だと言う宣言を耳にしたことがあるからだろうか。

「あ、隼人くんには風邪だって言わないでくださいね」
「あー…そうだな」

コウもかなりの弟妹大好きな人間だが、それは決して一方通行ではない。
彼女が風邪で寝込んだと告げれば、周りが驚くほどには心配するだろう。
そして、その心配は次に、ディーノへの不満へと変わる。
何でコウに風邪を引かせるんだ、と。

「理由は…どうしましょうか…」
「恒例の“マダムの会”でいいんじゃねーか?」
「そうですね。じゃあ、隼人くんへの返事にはそう書いておきますから、話を合わせてくださいね」
「ああ、わかった」

ちなみにマダムの会とは、ご近所のご婦人を集めて開くお茶会のことだ。
コウがお菓子を作って持て成すのだが、それがお店以上に美味いと評判は上々。
料理を作るのが好きと言う趣味は共通している姉妹だが、二人を知る者の間では味の方は真逆と有名だ。









何気ない会話で、穏やかな時間を過ごしていた二人。
その時、不意に、コウがコホン、と小さく咳をする。
もちろん、ディーノがそれを聞き逃すはずもなく。

「そろそろ休んだ方が良いな」

ほら、と水差しと一緒に置かれていた薬袋を差し出す彼。
コウがそれを受け取って薬を取り出している間に、水差しからグラスへと水を注いだ。
「起こすぞ」と一声かけ、シーツと彼女の背中の間に腕を差し込み、ふわりと上半身を起き上がらせる。
傍から見れば過ぎるほどに献身的な夫だが、二人にとってはこれが普通なので気にしない。
錠剤の薬を喉の奥に流し、静かに息を吐く。
そして、ベッドに戻そうとするディーノの服を指先で引っ張った。

「…もう少しだけ」

甘えるように胸元に頬を寄せる彼女を拒むことなどできるはずがないし、するつもりもない。
彼女が楽なようにと姿勢を変え、その腕の中へと抱きしめる。

「なぁ」
「何ですか?」
「今日、ここで寝るのは…駄目か?」
「………でも」
「もう殆ど治ってるなら、移ったりしねーって」

だろ?と同意を求められ、少し悩んだ末に頷くコウ。

「よし!じゃあ、アイツらに話してから戻ってくるからな」

イイ子にしてろよ、と言う言葉と共に額に落ちてくる優しいキス。
行ってらっしゃいと告げると、彼は嬉しそうに破顔した。

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11.06.28