Intersection
--- 交差
「好きなこと…そうね…マテリア回収、かしら」
ふと、何気ないティルの問いかけに、コウはそう答えた。
へぇー、とあっさりした反応を返しつつ、ティルは彼女の新たな一面に心を躍らせる。
「マテリアって、普通の奴?」
「伝説級のマテリアの方が回収し甲斐はあるけれど…そんなものには、滅多に出会えないわね」
伝説級と言われてもティルには想像もつかないが、コウ程の実力者ならば手にしたこともあるのだろう。
どんなものなのだろう?ティルの脳内は忙しく動く。
「あぁ、でも…マテリアだけじゃないから…トレジャーハントと言うのかもしれないわ」
「お宝探し?」
「簡単に言えば、そうね」
手元でナイフにより薄切りにしていた木の皮を彼に向って放り投げる。
とりあえず受け取ったティルは、それとコウを交互に見て、首を傾げた。
「噛んでおくと疲れが取れるわ」
「へぇ…豆知識」
そう呟いたティルに、コウは苦笑を浮かべる。
ソルジャーと言うのは、開発された土地ばかりに派遣されるのではない。
時には未開の地でマテリアを探して来いという任務を言い渡されることもある。
水道すら通っていない地に向かわされると知った時には、セフィロスと二人で社長暗殺計画を立てたものだ。
あれが実行に移されていたならば、神羅はその時点で間違いなく終わっていた。
「ティルの好きなことは?」
コウからの質問に、ティルはうーん、と頭を悩ませた。
嫌いなことならすぐに浮かんでくれるのだが、好きなこととなると難しい。
「まだ…探してる最中」
「そう。まぁ、あなたの人生はまだまだこれからだから…いずれ、見つかるわ」
そう言って、コウはぽんと彼の背を叩く。
「任務という鎖に囚われず、世界中を旅してまわるのも楽しそうね。セフィロスに追いついたら、誘ってみようかしら」
彼女は、セフィロスを疑っていない。
ただ…追っているだけ。
置いていかれてしまったから、その背中を追っている―――それだけなのだ。
世界を破滅に導こうとしているとか、クラウドの故郷を破壊しただとか…そんなものは、彼女には関係ない。
彼がそこにいる―――その事実だけが、彼女を突き動かしている。
「ティルは空を飛んだことはある?」
「………え?」
「飛空挺でも、ヘリコプターでも…何でもいいわ。空を飛んだ経験はある?」
「あぁ、そう言うことか…。ない、かな」
そう呟いて、夜空を仰ぐ。
木々の向こうに見える闇に浮かぶ星々が美しく瞬いた。
「とても気持ちがいいわよ。空を飛ぶと、自分のちっぽけさを知るわ。
小さなことに悩む自分が、とても馬鹿らしく思えてくる」
「そう…なんだ?」
「いつか、必ず飛んでみなさい。世界が変わるから」
彼女の言葉に、うん、と答えながらも、実感がわかなかった。
その時が来るまで、その一言すら忘れてしまっていたのだ。
あの会話から、どれくらいの時間が流れたのだろうか。
艦内放送のあと、身体がズンと重くなる。
徐々に高度を上げたそれは、やがて上昇を止めた。
前進を始めたのが身体に伝わり、ティルはシートベルトを外す。
そして、甲板へと繋がる階段を上り始めた。
ぐっと力をこめて重い扉を押し開く。
少しの隙間から、新鮮な空気が入り込んでくる。
自分が通れるだけ扉を開くと、そこから甲板へと身を滑らせた。
眼下に広がる光景に、ティルは言葉を失った。
―――世界が変わるから。
そう言ったコウの言葉が、今になってようやく理解できる。
「言葉に言い表せないでしょう?自分の生きている範囲が、いかに狭いのかを思い知る」
背後から聞こえた声に、振り向くことすらできなかった。
とん、と足音が隣に並ぶ。
「俺…世界を旅してみたい」
知らないのに、無理やりに知識として知っている。
そんな自分だからこそ、自分の目で確かめ、感じたいと思う。
「うん。いいと思うわよ。その眼で見たものは、本当の意味であなたのものになるだろうから」
手すりに腕を預け、コウはそう言って微笑んだ。
そんな彼女に、彼もまた、穏やかに笑う。
「こんな凄いものを見せてくれたお礼がしたいな。コウの好きなものか…欲しいものって何?」
「いいわよ、お礼なんて。それは、飛空挺を操縦しているシドに言うべきだわ」
「俺の自己満足!」
喜びが彼の精神年齢を、本来のそれへと近付けているようだ。
普段大人びているからこそ、喜び方が子供のようだと感じる。
コウは苦笑を浮かべ、首を振った。
「じゃあ…少しだけ、じっと動かないでいてくれる?」
「え?うん」
わかった、と身を固くする彼に、コウは「緊張しなくてもいい」と笑う。
そして、彼の背中から腕をまわし、その身体を抱きしめた。
ふわりと風に包まれるような、あたたかい感覚に、ティルは声を失う。
優しい腕に、涙が出そうになった。
「―――…ごめんね。ありがとう」
程なくして、彼女はスッと身を引いた。
離れていく体温に縋りつきそうになってしまう。
「あまり長居すると身体が冷えるから気をつけるのよ」
そう言って、コウは小さく笑みを浮かべて離れていく。
その表情はどこか切なくて、ティルは引き止めることが出来なかった。
彼女が何を思っているのかはわからない。
けれど、自分を通して誰かを見ているわけではなかった。
真っ直ぐに自分を見据え、あの哀しげな表情を浮かべている。
そんな表情をさせてしまったと言う事実に心が痛む。
しかし…。
「嬉しいんだから、どうしようもねぇよなぁ…俺」
誰にも聞こえない呟きが、風に溶け込んだ。
バタン、と扉を閉ざし、そこに凭れかかる。
それと同時に、コウは長い溜め息を吐き出した。
「…馬鹿みたいね…」
手の平を見下ろし、そう呟く。
認めない、と思っているのに…どうして、抱きしめてしまったんだろうか。
腕の中に包み込んでしまえたぬくもりが、愛しかった。
「後悔しているのに、嬉しいなんて…馬鹿げている」
ギュッと手を握り、階段を降り始める。
そんなコウの口元には、小さく笑みが浮かんでいた。
Request [ 四周年企画|流樹様 ]
08.07.01