飾られた言葉でもなくて

「ねぇ、一護」
「あんだよ?」
「私達、ずっと一緒に居られるよね?」

不安が胸を駆り立て、ガラじゃない言葉だってわかりながらも、そう問いかけた。
彼は驚いたように私を見つめ、次には呆れた様な溜め息。
もちろん、この後彼が紡ぐ言葉もわかっている。

「当たり前だろ?」

ほら、ね?
『好き』だとか『愛してる』だとか…そう言う言葉は要らなかった。
ただ、その人らしい言葉が好き。
ただ、あなたらしい行動が好き。
不器用ながらもそれをちゃんと伝えてくれる人が…好きだった。
















「ずっと好きでした!僕と付き合ってください!!」
お約束、と言う名で縛られた告白に、私は彼にわからぬよう肩を竦める。
真剣そう…と形容するよりは酷く照れていると言った方が正しい。
私の言葉を待つ彼にとっては、この一秒すらも果てしなく長い時に感じられるだろう。

「…ごめんなさい」

それ以外の言葉を彼に告げることは出来ない。
ただ「聞いてくれてありがとうございました」と去る彼の背中を見送り、私は静かに溜め息を漏らした。
自分を好きだと言ってくれた彼の言葉が偽りだとは思わない。
ただ、私が好きなのはそんな言葉じゃないから。

「サボるな」
「…今回は不可抗力です」

背後から聞こえてきた声に、それでも平然を保って答える。
記憶に違わぬ容姿を持ち、彼は私の視界まで躍り出た。

「趣味悪いですよ、覗きなんて」
「んなわけねーだろ。偶々だ」
「…では、隊長は偶然こんな時間にこんな瀞霊廷の端っこの建物の裏の物置の前までやってきたわけですね」
「………………………」

沈黙する冬獅郎を見て、私は心の内でクスクスと笑う。
いつもより眉間の皺が三割り増しになっている。
まるでどこぞのオレンジ髪の誰かさんのようだ。

「別にいいよ。見られて困るものでもないし、況してや減るものでもないし」

ヒラヒラと手を振ってそう言えば、彼の眉間の皺はいつもの量に戻った。
うん、実に正直だと思う。

「なぁ、一つ聞いてもいいか?」
「内容による」

冬獅郎の問いかけに私はそう即答を返す。
内容がわからない事には聞いていい物かどうかすら判断できない。
彼は溜め息を一つ落とすと共に、静かにその口を開いた。

「もし、俺がお前に「好きだ」と言ったら…どうする?」

その真剣なまでの目を見て、私は静かに笑んだ。
そして、ありのままの自分の意思を彼に伝える。

「私の答えは「ごめんなさい」よ」

そう、これが私の答え。
誰であろうと…例え私がどんな想いをその人に抱いていようと。
伝えられる言葉がそれならば、私の答えはNO。
受け入れることはない。私の言葉に彼は歩みを止める。
そのまま放置していくわけにも行かず、私は彼を振り向いた。

「お前は誰も受け入れないのか?」
「……違うわ。愛した人の言葉なら、ちゃんと受け止める。そして、私もその想いを返す」

愛しいと思ってくれるなら、わかって欲しい。
私が望む言葉を、行動を。
形式染みた愛を語れば許される関係など何処がいいのだろうか。
少なくとも、私が望むのはそれじゃない。

「難しいヤツ…」
「ふふ…ごめんね。でも、これが私の生き方だから」

彼に向かって微笑めば、観念した、と言う風に彼は片手を持ち上げた。
再び歩き出す冬獅郎の背を追って、私も同じく廊下を進みだした。
痛んだ床の木が時折悲鳴を上げる。

「あいつなら、どうなんだ?」
「…あいつ、ね…」

知っているはずの名を紡がないのは小さな嫉妬からだろうか。
そんな自惚れにも似た思いを抱き、私は答えた。

「きっと、YESよ」

“あいつ”…一護はきっとわかってくれているから。
誰よりも私を理解してくれていたから。

「何も言わないのよ、彼は。ただ、傍に居てくれるの」

理由を問わない冬獅郎だが、それでもそれを問いたい事くらいはわかる。
彼が口を開く前に私が先に切り出した。
そのまま冬獅郎の先を歩き、私は両腕を背後で組んで続ける。

「でもね、私が聞いた時にだけ…答えてくれるのよ。
飾られた言葉でも、形式染みた愛でもなくて……ただ、彼の想うままに」

想うままに、と言うのはおかしいのかもしれない。
彼は酷く不器用で…自分の想いを伝える事を苦手とする人だったから。
もちろん、それはきっと今でも変わっていないのだろう。

「一護の言葉はね。凄く彼らしいの。
他の人ならきっと言うんだろうな、って思うような事は一つも言ってくれない。それでも、彼らしいの」

私はそれが好き。
他人の真似をして、先行者の真似をして。
同じ道を歩む事は酷く簡単。
けれども、自分らしくあると言うのはとても難しいことだから。

「不器用でもいいから…あなたの言葉で伝えて?そうしたら、或いはYESと言えるかもしれない」

振り返らずに、私は彼にそう告げた。
冬獅郎に対して抱いている想いも、確かにある。
けれど、一護と比べるとまだそれは小さくて…。
過ごした時が短い分、伝わらない事がある。

「…覚悟してろよ」

小さく紡がれた言葉はそれでも確かに私の耳に届いた。
喉で笑うようにして声を隠し、私は彼の隣に並ぶ。
まだ少し距離はあるけれど―――縮まらない距離じゃない。











「ねぇ、一護」
「何だよ?」
「嘘でもいいからさ」

私が真面目に言えば、彼は不思議に思ったのか首を傾けた。
そんな彼を前に、私は言いたかった事を唇に乗せる。

「嘘でもいいから…好きだって言って?」

彼の目が僅かに見開かれる。しかし、一護は私の頼みを聞いてくれなかった。

「……言わねえ」

ふいっと私から顔を逸らしてそう答える彼。
きっと知らないんだろうな…私が心の中でそれを喜んでたって事。

「嘘でいいのかよ?」
「…嘘じゃ嫌です」
「なら言うなって。俺が言わねぇ事くらいわかんだろ?」
「わかってたけどね…再確認」

そう言って微笑めば、彼は「はぁ?」と更に首を傾げる。
そんな彼がおかしくて、私は声を上げて笑った。
それが、型にはまらない彼が…一護がどうしようもなく好きだって思った瞬間。

愛の囁きはいらない。
二番煎じはいらない。
私が欲しいのは、あなたしか持っていない……あなたらしさ。

05.06.27