Black Cat
赤髪海賊団
今のコウの身体は、悪魔の実の天敵である“海色の覇気”を宿している。
それは生まれ持ったものなのだから、どうしようもない。
覚醒してしまったその時から始まった命のカウントダウン。
覇気を使おうが使うまいが、コウの身体はいずれそう遠くない未来に、限界を迎えていたのだ。
相反する二つは、彼女の身体の内側で反発を繰り返し、蝕んでいく。
妊娠する事により、腹に宿った子供が、悪魔の実の能力の逃げ場所となるのだ。
そうして、コウは生まれながらにして悪魔の実の能力を宿していた。
―――能力を欲して実を食べたのに、能力は腹の子に宿り、それを理由にコウを捨てた。
そんな母親だと聞かされたのは、いつの事だっただろう。
それは、ある意味では母に希望を残さないようにと言う優しさだったのかもしれない。
結果としては同じでも、きっと、そこにあった想いは違う。
オルガが自分を捨てた理由はわからないけれど、疎ましかったからではないと…何となく、そう感じた。
能力が子供に引き継がれるのかどうかは、その時にならなければわからない。
まだ仮定の段階だが、赤髪海賊団きっての頭脳派たちは、その可能性は高いと頷いた。
コウと言う存在が、それを物語っていたからだ。
「私が生んだ子は―――“海色の覇気”を受け継いでしまうんだね」
自分が抱いた不安。
いつの日か、それを子供にも味わわせることになる。
コウはその事実に気付き、肩を落とした。
彼女の反応に気付いたシャンクスは、ギュッとその身体を抱きしめる。
大丈夫だと、言葉なく語る腕に、縋るように自身の手を絡めた。
彼女の背中を撫でながら、シャンクスは穏やかに唇を開く。
「…今、ある人を探して、その島を目指してる」
「…島?」
「世界一の織師」
織師…つまりは、何かを織る人なのだろう。
それが今、何の関係があるのか。
「初めて会った時に渡したリボンを覚えてるか?」
コウの首筋をなぞるシャンクスの手が、そこに巻かれたリボンを絡め取った。
二代目となったこのリボンは、それなりに上等なものではあるけれど、以前のそれとは比べ物にならない。
コクリと頷くコウの頭を撫で、彼は続けた。
「あれは、オルガに渡されたものだ。お前に渡すようにってな。悪かったな、今まで話さなくて」
「…ううん、いいよ。でも、どうして?」
「さぁな。そこまではまだわからねぇんだが…オルガが、その織師に作らせたリボンだって所までは突き止めた」
「作らせたって事は…」
「恐らく、“海色の覇気”と悪魔の実と…何か、関係があるだろうな」
そう言った彼が、背中からコウの肩に顔を埋める。
「シャンクス」
「うん?」
「ごめんね。航路…中々、先に進めなくて」
それに付き合ってくれる仲間も、誰一人文句を言わないのだ。
コウ一人のために、全員が動いてくれている。
嬉しいと思うけれど、同時に寄り道ばかりで申し訳ないと思っていた。
「そう思うなら、笑ってろ。皆、お前には“ここで”笑っていてほしいだけなんだよ」
幼かったコウは知らないだろう。
赤髪海賊団は、それなりと言わずに名の知れた海賊だ。
船を港につけただけでも怖がられることだってあったし、町を歩けば子供を隠す親もいた。
略奪を繰り返すだけの連中とは違うけれど、一般の人々からすればどちらも同じ“海賊”でしかない。
他の人と変わりなく接してくるコウが、どれほど可愛かったか。
向けられる太陽のような笑顔に、どれほど救われただろうか。
囚われていたコウを見て、憤慨したのはシャンクスだけではなかったのだ。
「謝罪も礼も要らない。だから、笑っていてくれ」
シャンクスからの願いに、コウはうん、と微笑んだ。
それから、数日後。
船は名もなき島へと辿り着いた。
地図に載らない島。
そう大きくないその島には、中心部分に大きな木が一本。
ここが本当にそうなのか―――確証はどこにもない。
「小さい島だな」
「………そう、だね」
コウの返事が何かおかしい。
シャンクスはすぐに彼女を見つめ、他に異常はないかと確かめる。
そんな彼の視線に気付き、苦笑を浮かべながら首を振る彼女。
「大丈夫。身体が辛いわけじゃなくて…寧ろ、逆なの」
「逆?」
「身体が…楽。理由はわからないけれど」
「…そうか。じゃあ、お前も行くか?」
その問いかけに、小さく頷く。
この所、皆に心配をかけてはいけないからと、あまり出歩かないようにしていた。
それだけに、何があるかもわからない島だけれど、少しだけ楽しみに思えてくる。
コウの表情の変化に、シャンクスもまた、嬉しそうな表情を浮かべた。
活発的な彼女が自分たちに遠慮して大人しくしていた事に、気付いていた。
けれど、どうしても拭えない不安が、行っていいんだぞ、と言う言葉を喉の奥へと引きずり込んでいたのだ。
「じゃあ、行くか」
錨をおろし、居残りメンバーを確認する。
そして、一行は島へと上陸した。
11.04.23