Black Cat
ハートの海賊団
モモンガには、黒猫がコウであると言う確信があった。
しかし、勘以上の証拠はなく、七武海のハンコックを言及する事のリスクを考え、引く事を選ぶ。
彼は、コウ一人がこの戦争に参戦しようと、何も変わらないと踏んだ。
中将、大将、その他大勢の海軍が集う場所で、力で以って彼女を潰せばいいと。
彼は自分がコウではなく、大きな影響力を持つ一人を見落としていた事に気付いていなかった。
インペルダウンに入り、そこから先はハンコックに頼る事はできなくなった。
「コウはハンコックと一緒に行くか?」
「え?」
「こっから先は危ないからな。どっちでもいいぞ」
いざ別行動と言うところで、ルフィはコウに向かってそう言った。
目の前に用意された選択肢に、彼女は少し悩む。
「ううん、一緒に行く」
「そうか―――じゃあ、行くか!」
「でも、ルフィは先に行って。すぐに合流するから」
コウがそう言うと、ルフィは何でだ?と首を傾げた。
「私が消えたらハンコックさんが疑われると思う。猫って気紛れだし…遊びに行くような感じで抜け出すよ」
「わらわの事まで案じるか…良い娘じゃ」
ハンコックの手がコウの頬を撫でる。
女性に優しくされた経験の少ないコウは、その手に目を細めた。
「よし、じゃあ先に行くぞ」
そう言ってルフィが天井に張り付いた。
それを見届け、ハンコックは自身の能力を解く。
石化が解け、副看守長ドミノが彼女の手に海楼石の手錠を嵌めた。
「モモンガ中将より猫にも海楼石の首輪を嵌めるよう言われております」
「…止むを得ぬか…」
心底不愉快そうに呟きながらもコウを差し出す。
コウも抵抗ひとつせず、大人しく海楼石の首輪を嵌められた。
ボディチェックが終わり、個室のドアが開かれる。
ルフィが抜け出すのを見届け、コウはハンコックの腕から降りた。
そして、トトト、と走り出す。
「あ!ハンコック殿の猫が!!」
「構わぬ。好きにさせよ。どこにいてもわらわの元へ帰る頭の良い猫じゃ」
慌てるハンニャバルを他所に、ハンコックが淡々と答える。
彼はちらりとモモンガを見た。
「…海楼石の首輪を嵌めている以上、ただの猫だ。好きにさせて構わん」
「まだ疑うか…不愉快な男じゃ」
モモンガを一睨みし、ハンコックは案内されるままにリフトへと向かう。
走り出したコウは、一行から見えぬ影へと身を滑らせた。
示し合わせたように降りてきたルフィが彼女の首から海楼石を外す。
それを受け取ったコウは、首輪から海楼石の部分を切り取った。
そして、再びそれを首に嵌める。
「よし、行くぞ!」
差し出された手を走り、彼の肩に乗る。
肉球に伝わる感触の違いに、コウは驚いた。
もちろん、ルフィが嫌と言うわけではない。
ただ、どうしてもぬぐう事のできない違和感がそこにあった。
地下を目指して進むルフィ。
「…ルフィ、あっちに風が流れてる。出入り口があるよ」
「そうか!コウの鼻は便利だな!」
「でも、あんまり期待しないで。下に行くに連れて血の臭いが濃くて鼻が利かなくなってきた」
血の臭いだけではなく、空気そのものが淀んでいる。
ずっといれば身体がおかしくなってきそうだと思った。
「何か近付いてくる」
コウがルフィの肩から飛び降りて、人間の姿に戻りながらそう呟いた。
彼女が見つめる先から、喧騒が近付いてくる。
「………ピエロ?」
「逃げるぞ、コウ!暴れないって約束したからな!」
通路の向こうに目を凝らす彼女の腕を引き、ルフィが走り出す。
血気盛んなルフィだが、ハンコックとの約束を忘れてはいない。
エースを助け出すためには、何としても彼が幽閉されているフロアに辿り着かなければならないのだ。
鍵を開けてくれと檻の中から手を伸ばしてくる囚人に目を向けず、通路を走る。
スタートダッシュが遅かったのか、迫り来る声が二人に追いついてきた。
「こんな時に脱獄!?タイミング悪い!!」
追われている人間が囚人服だということに気付き、コウがそう悪態をついた。
そうしている間にルフィとその人が言葉を交わす。
まるでコントのようなやり取りは、初対面の人間には見えなかった。
「ルフィ、これ誰?」
「バギーだ!シャンクスを知ってる!」
「おいおい、麦わら!!一人前に女連れか!」
「コウは幼馴染だ!」
この間も、三人は得体の知れない何かに追いかけられたままだ。
「幼馴染ィ?前は見なかった顔だな!」
「私はルフィとは違う船に乗ってるもの。シャンクスを知ってるって事はこいつも海賊?」
「テメェ、この道化のバギーを知らないっていうのか!?」
「知らない」
きっぱりと答えたコウに、重苦しい空気を背負うバギー。
それでも速度を落とさないあたり、彼も追いつかれないように必死なのだ。
「こんな所で囚人服を着て逃げ回ってるんだから、海賊に決まってるか」
今更の事実に気付くコウ。
それがなければ海賊だと気付かなかった、と言う彼女の言葉に、彼はより一層落ち込んだ。
「これ逃げなきゃ駄目なのか!?」
「あ、そう言えばそうだよね。こいつらを撒いてる時間が勿体無い」
それはそうだと納得するコウに、奴らの怖さを理解しているバギーが声を上げる。
彼曰く、連中は血も涙もない奴らで、捕まったが最後地獄の拷問が待っているらしい。
しかしそれも、捕まらなければ済むだけの話。
振り向いた彼らの拳が奴らに向かって炸裂する。
「うわ、バラバラだ。ローさんの能力みたい」
タンッと床を蹴ったコウは、初めて見るバギーの能力にローのそれを思い出した。
思い出すと寂しくなってしまって、それを振り切るように自分に向かってきたそれと対峙する。
人間なのか動物なのかはわからないけれど、手を抜ける相手ではない事は確かだ。
「手加減しないよ」
最小限の動きでその背後を取ったコウは、その大きな背中を両手の爪で引き裂く。
幾重にも交差した傷はその肌まで達していた。
痛覚はあるらしく逆上したそれが彼女へと向かってくる。
だが、所詮は手負いの動き。
軽く足払いをした彼女、その両足に爪を立てた。
アキレス腱と思しき場所を切れば、もう立ち上がることは出来ない。
それでももがくその行動に終止符を打つように、後頭部に強烈な踵落しを食らわせる。
「よし!」
他にもいたはずだと振り向いたコウの視界に映ったのは、3匹目のそれを倒したルフィの姿。
「手助けはいらないみたいだね」
さすが、3億の賞金首。
口元に笑みを浮かべ、風圧に靡いたリボンをピンと背中に弾いた。
10.03.22