Black Cat
ハートの海賊団

「コウは何でこんなところにいるんだ?あいつらはどうした?」
「わからないの。バーソロミュー・くまと出会った所までしか記憶がなくて…」
「!!お前も飛ばされたんだな!?ローは知ってんのか!?あいつらも飛ばされたのか?」
「…最後に声が聞こえたから、たぶん。皆とは離れていたから…無事、だと思う」

最後の方が小さく尻すぼみになってしまう。
大丈夫だと思いたいけれど、日暮れ前の攻防を思い出すと、どうしても不安になってしまうのだ。
肩を落とした彼女を元気付けるように、ルフィは自分の今までの状況を賑やかに話してくれた。
彼の仲間もまた、くまによって散り散りになってしまったらしい。
でも、ビブルカードのおかげでまた集まることが出来る、とルフィは手の平に乗る小さな紙を見せてくれた。

「どうしよう…私、ローさんのところに戻れるのかな…」

コウにはビブルカードはない。
再び落ち込んでしまった彼女の首元で、チリン、と寂しげな音を鳴らす鈴。
二人の会話を聞いていたハンコックがその音に気付いた。

「コウ、そなたの鈴を見せてみよ」
「え?でも…」
「盗ったりはせぬ。確かめたいことがある」

そういうと、彼女はコウがそれを外す前に席を立ち、ドアの外に桶に水を汲んでくるよう命じた。
不思議に思いながらもリボンを外して鈴を抜き取ったコウ。
水の入った桶が届くと、ハンコックはそれを机の上に乗せ、手を差し出した。
コウは少しだけ躊躇ってから彼女の手の上に鈴を乗せる。
それを受け取ったハンコックが、水の上に鈴を落とした。
水面に浮かんだそれがくるりと動く。

「―――やはりそうか」
「?」
「これは“繋ぎの鈴”じゃ」
「繋ぎの鈴…」
「必ず一対で存在し、水に浮かべればこの突起が向かい合うように動く」

水面の波に揺られながらも、鈴自体の向きが変わらない。
常に北を指すコンパスのように、くるりと回っては同じ場所を指すのだ。

「コウ、男は同じ鈴を持っておらぬか?」
「………そう言えば、刀についていたかも…。鳴らないし、別物だと思ってた」

記憶を搾り出し、刀の柄に付けられた鈴が揺れる絵を思い出す。
一度も鳴っているのを聞いていなかったから、それが鈴だと認識していなかった。
ハンコックは水から鈴を拾い上げ、コウへと差し出す。

「これを失くしさえしなければ仲間と再会できるじゃろう」

濡れた鈴はいつもの綺麗な音を響かせない。
数分もすれば水が乾き、またあの音を聞くことが出来るのだろう。
コウは手の平に転がったそれを見下ろし、きゅっと握り締める。
どこかに行ってしまいそうになったら、音で気付く。
そのための鈴だと思っていたのに―――まさか、こんな秘密が隠れていたなんて。

「良かったな、コウ!」
「…うん!」

また会える。
この広い海原の上で、けれど確実に。

その事実がコウを勇気付けた。













「どうしよう。無茶をするなって言われてるのに…怒られそう」

黒猫が部屋の片隅に向かってぶつぶつと呟く様は異常としか言いようがない。
怒られる、と言うレベルの話ではないことをしでかそうとしているのだ。
すでにハンコック、ルフィと共に海軍の船に乗り込んでしまっている。
生きて帰れる保証もないのに、やはり見て見ぬ振りなんて出来そうになかった。

「コウは何ぶつぶつ言ってんだ?」
「事の大きさに不安なのじゃろう。無理はない。それが普通じゃ」

賞金のかかった海賊がインペルダウンに乗り込むなど、正気の沙汰ではない。
相変わらず食事を続けるルフィの傍らで、ハンコックは肩を竦めた。
その時、コンコンと部屋をノックする音が聞こえる。
ハンコックが目配せすると、ルフィは部屋の隅の箱に身を隠した。

「ハンコック、話がある」
「…入れ」

ルフィが隠れたことを確認し、ハンコックがドアに向かってそう答えた。
首を振り向かせたコウは、彼女の指が自分を呼んでいることに気付いて駆け寄る。
彼女は足元に寄ってきたコウを抱き上げ、その膝の上に乗せた。
プライドの高い彼女がそうしたことに驚くコウ。
だが、ハンコックの飼い猫として乗船した設定のためなのだと思い出す。
コウもまた、猫らしくその膝の上でくるんと丸くなった。
やがて、開かれたドアから姿を見せたモモンガは、ハンコックとコウを見る。

「クルーの中にその猫に見覚えのある者がいて、調べさせた」
「…ほぅ…見覚え、とな」
「黒爪のコウ。その猫と容姿が酷似している」
「コウ?聞かぬ名じゃ。一介の海賊風情をわらわが飼うとでも?」

のぅ、と顎を指先でくすぐられる。
半ば条件反射でぐるぐると喉を鳴らしてしまったコウは、まるで本当の猫じゃないかと心中で酷く落ち込んだ。
その様子を見て、モモンガは暫し沈黙する。

「…黒爪はシャボンディ諸島で目撃情報がある。他人の空似か」
「不愉快じゃ。納得できたならさっさと消えよ」

強い眼を向ける彼女とにらみ合うこと数秒、邪魔をした、と言ってモモンガが部屋を出て行った。
足音が遠ざかると、コウはそっとハンコックの膝から降りる。

「ありがとうございます、ハンコックさん」
「構わぬ」

そう言って、先ほどとはまったく違う優しい笑顔を向けられる。
純粋に「やっぱり美人だなぁ」とその笑顔に見惚れるコウ。
多少思い込みが激しいところもあるけれど、補って余りある美しさだと思う。

「大丈夫そうか?」

ガタン、と音をさせてルフィが箱から出てきた。

「シャボンディ諸島で目撃情報があったのが幸いしたようじゃ」
「そうか。良かった」
「ルフィは見つかっちゃ駄目だよ。猫になれないんだから」

我が物顔で椅子に座り、食事の続きを始めるルフィにコウは呆れたようにそう言った。
すでに食事に意識を奪われている彼の耳には届かない。
溜め息を吐き出してから、コウはテーブルの片隅に置いてあった猫用に用意された鰹の皿を引き寄せた。

10.01.17