Black Cat
ハートの海賊団

「コウ。昔の約束、覚えてるか?」

唐突なルフィの問いかけに、コウは少しだけ間をおいた。
そして、ゆっくりと頷く。

「―――覚えてる」

まだ自分たちが子供だった頃―――シャンクスの船を見送りながら、交わした二人だけの約束。

―――いつか、俺は海に出る!シャンクスみたいな仲間を見つけて、旅をするんだ!
―――うん。
―――その時はコウも一緒だぞ!一緒に、海に出るんだ!!


きっと楽しくなる、と笑った彼の顔は、シャンクスとの別れによる涙でぐちゃぐちゃだった。

―――うん!いつか一緒に…シャンクスと会おう!

小さな手同士を握り、麦わらと赤いリボンに誓った、あの日の約束。
忘れるわけがない。

「…覚えてるよ、ルフィ」
「…そうか」

言葉はそれで十分だったのかもしれない。
お互いに言いたい事、言わなければならないことがある。
だが、それを口にしてしまう事を恐れているようにも見えた。
二人を繋いでいたものが途切れてしまうような、そんな不安がある。
それでも―――

「ローさん。少しだけ…二人だけに、してくれないかな?」

振り向いたコウの目に映る覚悟。
ローは静かに彼女を見つめ、やがて仲間に指示を出す。
一人ずつ、店の扉をくぐっていく。
そして、ローを最後に扉が閉ざされた。
その場に残ったのはコウとルフィだけ。

「―――コウ。一緒に行こう」

オークション会場でも、同じ言葉を聞いた。
けれど、その時とは異なる、彼の目。
その目を見て、理解した。

―――あぁ、そうか。ルフィも…ちゃんと、わかっている。

それならば、安心して答える事ができる。

「ルフィ。私…ローさんの事が、好きなの。ルフィも好きだけど、それとは違う。
生きていて欲しいだけじゃなくて…一緒に、生きていきたいと思う」

ルフィの手配書を見たとき、とても安心した。
彼が無事だと言う事、昔と変わらない太陽のような笑顔で、この海を生きていると言う事。
全てが、コウを安心させた。
会いたいと思っていた事は事実。
けれど、一緒に生きていきたいと思う人は…ルフィではなくなっていた。

「ごめんね。あの日の約束、守れそうにない。私はハートの海賊団。ルフィの船には乗れない」

この言葉は、切欠だ。
二人が違う道を歩き続けるために必要不可欠な、切欠。
沈黙するコウとルフィの間を風が通り抜けていく。

「コウ。新しく約束しよう」
「約束?」
「また、会おう!!今度の約束は、絶対だからな!!」

笑顔。
あの時のような涙は見えないけれど、あの時と同じ笑顔がそこにある。

「…うん…うん!」

ルフィはルフィの、コウはコウの仲間と共に、己の道を進む。
進む道は違うけれど、新たな約束が二人を繋ぐ。













「初めまして。コウです」

ぺこりと頭を下げたコウに、麦わらの一味の視線が集まる。
既にローを初めとするメンバーは紹介を終えていたようだ。

「あんたみたいな女の子が6000万の賞金首ねー…」
「見た目は関係ないと思う。海軍にとっての基準は、見た目に左右されないから。ね?」

同意を求めるように首を傾げたコウが見ているのは、ロビン。
彼女は幼くして高額の賞金首として手配された人間だ。
そうね、と頷く彼女は、既に過去を乗り越えているのだろう。
本で読んだ彼女の生い立ちには、それ以上触れない事にした。

「私はハートの海賊団の一員。皆とは…ライバルって事になるけど…」

胸を張って言えた言葉に、コウは笑顔を浮かべた。

「ルフィをよろしく」

返ってきた答えは、彼女を満足させるには十分なものだった。
挨拶も早々に店を立ち去ったハートの一味を見送った麦わらの一味。
最後にルフィがローを引きとめ、何かを話していた。
迷いなく「約束な!」と彼女を送り出したルフィに、少なからず安堵している。

「あいつが“コウ”か…普通の女だな」

一番初めにルフィの仲間になったゾロは静かにそう呟いた。
ルフィが彼女を探す姿を、誰よりも長く見てきている。
良くも悪くも、彼女は普通だった。

「あぁ。ルフィの幼馴染っつーから、もっとこう…すげー奴を想像してたぜ」
「まぁ、予想外に可愛い女の子だった事は確かだな」

ゾロの言葉に続いたウソップと、勿体無い、と不満げな様子のサンジ。

「それだけじゃないわよ。あの子…いきなり6000万の賞金がついたの」

ロビンには劣るけれど、それでも高額である事は確かだ。

「コウは強いっつーよりも、速いんだ。銃も避けるぞ!」

この中で唯一コウの戦闘スタイルを知るルフィが、笑いながらそう言った。
何気なく紡がれた一言だが、驚くべき事である。

「弾いたりするんじゃなくて避けるのか!?凄いぞ、それ!!」
「人は見かけによりませんねぇ、本当に」
「そう言えば、コウは何で裏から出てきたんだ?」

今更コウがオークション会場の裏から出てきたことを思い出したらしいルフィ。
あぁ、と説明を始めたのは、ナミだ。

「あの子、人攫いに捕まったらしいわよ」
「…って事は?」
「売られるところだったって事だ」
「売る!?コウは売りもんじゃねーぞ!!」

いきり立つルフィに、まぁまぁ、と他のメンバーが彼を宥める。
今頃声を荒らげてどうなるものでもない。

「だから彼らがあそこに居たのよ。私たちと同じね」

ケイミーを救い出そうとあの場に居た自分たちと、椅子に座ってオークションを見ていたローたち。
考えていた事は、同じなのだ。

「…そっか。じゃあ、コウは安心だな!」

捕まった時に助けてくれる仲間が居る。
その役目が自分ではないと言う事は少しだけ寂しいけれど…コウにはコウの仲間がいるのだ。
頼れる仲間がいるという事に、安心した。

「次に会える時が楽しみだ!」

今度は、もう少し落ち着いて話せる時に、約束が果たされることを願うばかりだ。

09.10.07