Black Cat
ハートの海賊団

ローにとって、人間オークションは茶番でしかない。
奴隷として売られる人間にも、奴隷を買う人間にも興味はないのだ。
そんな彼がここにいる目的は一つ。
黒髪の彼女の出番はまだ先らしい。




既にオークションが始まっている会場内に、数人の男女が姿を見せた。
何の気なしにそちらに視線を向けたローが軽く目を見開く。

「…船長、あの面子、麦わらの一味だよな」

確認するように声をかけてきた仲間の一人に、頷く事で返事を返す。
額の違いはあれど、全員が賞金首となっている一味だ。
ルーキーの中でも有名で、その顔ぶれは覚えている。
ローがそれを記憶しているのは、コウが探している麦わらのルフィ率いる一味だからなのかもしれないが。
一瞥した中に、船長の姿はない。

「可能性は高いと思っていたが…本当に出くわすとはな」

広すぎる海原の島で、探していた人物と再会する。
この幸運は彼女が引っ張ってきたのだろうか。
会場の裏に居るであろう彼女はどんな反応を見せるのだろう。
そんな事を考えている間に、今回最大の目玉商品が壇上へと運び込まれた。
水中最速の生き物である人魚は、とても高額で取引される。
例に漏れることなく5億と言う破格の値段が付いた事により、全ては始まった。
いや、この人魚が捕まった時から、既に始まっていたのかもしれない。

「あれが麦わらのルフィか…」

魚人に対して、この島の住人のような偏見の目はない。
仲間ではないのだから、進んでかかわりを持つ必要も感じては居なかった。
しかし、ルフィにとっては違っていたらしい。
まさか、目の前で天竜人が殴られるのを見る日が来るとは思わなかった。

―――面白い、と思う。

「ベポ。この騒ぎのついでにコウを連れて来い」
「アイアイ!」

ぴょんと軽やかに席を飛び越えたベポが舞台袖から裏へと消える。
彼ならば間違いなくコウを探してくるだろう。







新たに麦わらの一味の仲間が合流し、会場内は更なる混乱を招く。
そんな中、壇上の背景を破るようにして現れた巨人と、一人の男。
男の一睨みで、場内の多くが気を失った。
まるで、妖術でも使われたかのような不可思議な状況の中、彼女は姿を見せた。
袖から壇上へと走りこんだ彼女は会場内を一瞥し、ローの存在に気付く。
そして、迷いなく床を蹴ってしなやかな跳躍を見せた。
タンッと軽い足音と共に着地した彼女が、迷いなく彼の元へと駆けて来る。

「ローさん!!」

仲間の目がある時には“ロー船長”と呼ぶようにしている彼女が、そう呼んだ。
本能のままに上げた声だったのかもしれない。
離れていた期間は三日とは言え、心配しなかったはずもなく。
傷一つ見られない彼女の様子に、小さく安堵する。

「三日ぶりだな、コウ」

喉を鳴らしそうな彼女から事情を聞いて、大物に気に入られた彼女に驚きつつ、礼を述べて。
そうしてもまだ、彼女は気付いていないらしい。
向こうは思わぬ登場に、言葉を失っていると言うのに。
心中で苦笑を浮かべてから彼女を放し、視線を合わせる。

「ところで、コウ」
「うん?」
「落ち着け。で、ゆっくり周りを見ろ」

そうすれば、気付くはずだ。
声には出さずそう告げれば、彼女は不思議そうな表情でローから視線を外す。
あ、と声を上げた反応は予想していたよりもあまりに軽い。
彼女にとってはこの程度だったのか?と思ったが、どうやら見つけた相手が違うようだ。
キッドと言葉を交わす様子に、呆れたような溜め息が零れた。

―――この三日間で思わぬところに知り合いを作ってきたらしい。

そう言えば、この間の島でも住民と仲良くなって、船出の時に一抱えほどの果物を貰っていた。
そんな事を考えていると、ふと彼女の空気が緊張したのを感じる。
視線を落としてみれば、服の裾を掴む彼女が、麦わらの方を見ていた。
漸く、気付いたようだ。

09.10.04