Black Cat
ハートの海賊団
新聞を読んでいたロビンが、あら、と呟いた。
海図の製作に掛かっていたナミがその声を聞き、顔を上げる。
「…手配書?」
「ええ」
ロビンの手元にあるそれが手配書であるとわかったナミは、ペンを置いて彼女のところへと歩く。
また何か迷惑な手配書が折り込まれているのだろうかと思ったが、どうやら違うらしい。
ロビンの後ろからそれを覗いたナミが、あ、と声を上げる。
「黒爪のコウ―――6000万ベリー。………“コウ”?」
どこかで聞いた名前だと思う。
どこだっただろうか。
「ルフィが話していた黒猫の彼女の事じゃないかしら」
「あ、そうよ!確か、コウって…じゃあ、まさか…この子が!?」
「わからない。世界は広いから…可能性はゼロではないけれど、確信は持てないわね」
「…どうしよう、ロビン。ルフィに話しておいた方が…?」
「確信を持ってからでも遅くはないと思うわ。彼、この子の事になるといつも以上に周りが見えなくなるから」
今までにも何度か偽りの噂に騙されてきた。
政府が発行する手配書だけに、他のものより可能性は高いけれど…政府の管轄ゆえに、迂闊な行動は良くない。
「…今度こそ、本人だったらいいのに」
「ええ、本当に」
シャボンディ諸島到着、二日前の話。
―――広すぎる。
コウは枝の上で賞金稼ぎをやり過ごし、そう呟いた。
すぐに見つかるだろうと思っていたし、船に戻るのも難しくはないと考えていた。
けれど、それが大きな間違いだったと悟る。
何度か船に戻ろうとした所為で、そこに何かあるのだろうと賞金稼ぎの包囲網が出来てしまっている。
突破は難しくないけれど、自ら船に案内する結果になってしまう。
随分と大きな賞金稼ぎのグループにぶつかってしまったものだ。
自身の不幸を少しばかり怨みながら、ふわりと浮き上がってきたシャボン玉をピンと弾く。
「あーあ…怒られそう」
誰に、とは言わない。
「そこの女の子ー!!」
不意に、下の方から声が聞こえた。
向こうの方を見つめていた視線を下に落とせば、人の良さが前面に出ている男性が一人。
その隣には同じ年頃の女性もいるところを見ると、カップルだろうか。
「さっきからずっとそこに居るけど、迷子かい?」
似たようなものだが迷子という言葉にやや引っかかりは覚えるところだ。
しかし、つまらない意地を張っていても仕方がない事はわかっている。
「もし迷子なら、仲間を探せるところに連れて行ってあげるよ!」
聞けば、そこには多くの人が集まり、多くのものが集まるのだと言う。
良い位置を確保すれば、コウの視力ならば仲間の一人も探せるかもしれない。
「―――わかった。一緒に行く」
少しの間男を見つめていたコウは、トンと枝から飛び降りた。
所変わって、21番GR。
「見つけたか?」
「いや、どこにも!」
「25番GRの方で賞金稼ぎの連中が走り回ってるらしい。もしかすると、追われてるのかもな」
木箱に腰掛けたローの元へと集まる仲間たち。
それぞれが分かれてコウを探しているのだが、依然として彼女の姿を見つける事は出来ていない。
猫の特性なのか、彼女は逃げるのが早く、そして上手い。
賞金稼ぎに捕まらないのはいい事だが、仲間ですら彼女を捕まえられない。
「ったく…どこまで逃げてるんだ、あいつは…」
溜め息と共に否定に指を当てるロー。
やや冷たい物言いではあるけれど、彼は仲間以上の広範囲で彼女を探している。
比べるものではないけれど、彼女を一番案じているのは彼なのだろう。
「キャプテン…これからどうする?」
「そろそろあいつもそれを考えてる頃だろうな」
コウは無鉄砲で考えなしに行動する事はあるけれど、頭は切れる。
いつまでも無意味に逃げ回る事はしないはずだ。
それならば、彼女が次の手として考えるのは何か。
「賞金稼ぎに捕まるってのは却下だよな」
「海軍に連れて行かれればコウは逃げられないだろうからなぁ」
仲間たちが次々と彼女が考えそうな手を思い浮かべていく。
「―――人間オークション」
ポツリと呟いたローの言葉に、仲間たちが沈黙した。
「人間が集まる場所なら、コウが見つけるだろうな」
「いや、でもキャプテン…流石にコウもそんな無茶は考えないんじゃ…」
彼女に値段がついて、誰かが金で彼女を買っていくところを想像すると、ゾッとする。
もしオークションに自分たちの姿がなかったら――――そんな無謀な事をするだろうか。
「商品としてかどうかはわからないが…コウは行くだろうな」
クッと口角を持ち上げたのは、そんな彼女が想像できたからなのだろうか。
言葉にする事により、その考えがしっかりと形になったようだ。
次の行動は決まった。
「とりあえず、メンバーの半分は引き続き諸島を巡ってコウを探すように言っとくぜ」
「あぁ」
話が一段落したところで、向こうで騒ぎが起こった。
ルーキーと呼ばれる面子が争っているらしい。
随分と派手にやっているな、と思いつつ、逃げる必要もないので傍観する。
だが、騒ぎはそう長くは続かなかった。
一人の男が邪魔をして、それを止めてしまったからだ。
喧嘩を止めた男がこちらに向かって歩いてくる。
彼がローの前を通り過ぎるその時、挑発するような口調で、ローが声を上げた。
「今いいとこだったのに………まぁ、いい。ドレーク屋、うちの黒猫を見なかったか?」
「猫…?」
「いや、見ていないならいい。呼び止めて悪かったな」
ひらひらと手を振って、行っていいと態度で示す。
ドレークは多少気にしている様子だったが、関わらない事にしたのかそのまま歩き出した。
ドレーク海賊団一行が去ると、ローが木箱から腰を上げた。
「…よし、行くか」
「了解、キャプテン!」
09.09.30