暗号解読シリーズ

ヨークシンシティには市が出ていて、町はちょっとしたお祭りモードだ。
飛行場からここまでの道のりでその空気を感じたコウは、ほぅ、と目を輝かせた。
狭い世界を生きるコウにとっては、目に映るすべてが真新しい。

「―――ねぇ、イルミさん」

左の露店を見ながら彼の腕を引こうとして、スカッと空振りする指先。
振り向いたそこに、イルミの姿はない。

「…あら」

さっきもはぐれたというのに、何という注意力のなさ。
これが初めてではないことから、コウは割と冷静に状況を分析していた。
ちなみに、彼の姿が消えたのはこれが二度目である。

「じっとしていたら見つけてくれるかな」

こちらがイルミを見つけるのは難易度が高い。
それもこれも、ゾルディックの人間は日ごろから気配が薄すぎる所為だ、と責任を転嫁し、左の露店に歩み寄った。

「綺麗」
「美味しいよ、一つ味見するかい?」

並べられたお菓子は、マカロンのようだ。
四等分に切られた一つを差し出され、指先で受け取りながら礼を言う。
口の中に含めば軽い口当たりで溶けるように消えてしまった。

「美味しいですね。じゃあ―――」
「3つ包んでくれ」

コウの声に重ねるようにして、後ろからかけられた声に、店主がまいどあり、と声を上げる。
マカロンのようなお洒落なお菓子を売るには、少し威勢が良すぎる。
そんなことを考えながら、後ろから姿を見せた声の主にその場を譲った。
コウの横に並んだのは、それなりにガタイの良い男性で、顔もそこそこに整っている。
紙袋に入れられたそれを受け取った彼はぴったりのお金を支払った。

「ほら」

私はどうしようかな、と数を考えていたコウの手が掬われ、手の平に紙袋が乗せられた。
きょとんと瞬きをするコウに、彼はクッと口角を持ち上げる。
あぁ、笑うと割と男前なのかもしれない。

「え、あの…」
「俺は甘いものは苦手なんでな」
「…?(じゃあ、なんで買う?)」

意味が分からない、と首を傾げるコウに、男は楽しげに笑う。
そして、紙袋を乗せたままの彼女の手首を取り、そのまま歩き出そうとした。

「ちょっと…っ」
「せっかくだから、一緒に回らないか?連れを探すのも協力するし」
「いえ、大丈夫です」

寧ろ、一緒にいた方が穏便に済まないことは間違いない。
離して、と口を開いたところで、コウが何かに気付く。

「あー!!!」
「コウ!!!」

その場の人が振り向く程度には大きな声だった。
コウと男もまた例外ではなく、声の主たちを振り向く。

「久しぶりだね、コウ!!」
「こんなところで何やってんだよ」

近付いてくるなりズイッとコウと男の間に割り込むキルアは、状況を正しく理解しているのだろう。
コウの手が解放されたのをいいことに、流れるように紙袋を奪って男に押し付ける器用さである。
ついでに、僅かばかりの殺気を乗せて睨むことも忘れない。

「久しぶりね、キルア、ゴン。二人とも観光?」
「似たようなものかな。ここでレオリオやクラピカとも合流するんだ」
「へぇ、そうなの。楽しそうね」

ゴンと仲良く話すコウの呑気さに、キルアが深々と溜め息を吐く。
そして、すごすごと尻尾を巻いて逃げた男の背中がどこかの路地裏に消えるのを見届けた。

「コウも来る?」
「やめとけって。…一緒に来てんだろ?」

漸く二人の会話の中に入ったキルアの言葉は確信を持ったものだった。
うん、と頷くコウに、やっぱりな、と納得する。
先ほど、男が消えた理由が理解できた。

「兄貴がこんな時期のこんな場所に、一人で来させるわけねぇし」
「流石、イルミさんの考えがよくわかってるのね」
「べ、別にフツーだっての!」

頬を赤くしながら否定するキルアに、天邪鬼だなぁと思うけれど、口には出さない。
出してしまえば彼が拗ねてしまうことはわかりきっている。

「じゃあ、イルミと一緒なんだね。はぐれたの?迷子?」
「…、はっきり言うわね、君は」
「その年で迷子になるなよなー…ったく。兄貴も、目を離すなよ。こいつ、危なっかしい」
「そうするよ」

新たな声の主がコウの背後から現れた。
驚きに肩を揺らして振り向き、パッと表情を明るくするコウ。

「イルミさん!」
「目を離してごめん。行くよ」
「えぇ、もう!?ちょ…ごめんね、二人とも!ありがとう!」

またね!と腰を取られて促されるコウと、彼女をエスコートして歩くイルミ。
数歩を歩いたところで、イルミが首だけを振り向かせた。
相変わらず人形のように表情の読めない顔が突然振り向いたことに、びくりと肩を揺らすゴンとキルア。

「さっきはありがとうね。助かったよ」

そういうが早いか、二人は雑踏の中に消えた。

「…イルミって、ああいうこと言う人だったんだね」
「…言う人じゃねーよ。誰だよ、あいつ」
「じゃあ、コウの効果かー…やっぱりすごいね、コウは」





「コウ」
「う…ごめんなさい。もう余所見しないように気を付けます…」
「これ。つけてて」
「………これ、って」
「無防備すぎる」
「そんなつもりは………」
「…………」
「いえ、はい…すみません…」
「反省してるなら、つけてて」
「…はい。………って、この指につけるんですか?(左の薬指って…)」
「その指以外のサイズには合わせてない」
「あ、そうなんですね…」
「無理に外したら指が飛ぶよ」
「呪いの指輪ですか!?」
「…冗談だけど」
「(この真顔で冗談…!判断付かないです!!)」
「どこにいても居場所がわかる」
「………それも冗談ですか?」

17.06.27