迷子シリーズ Free ver.
「…姉貴…それどうしたんだよ?」
「私の子供」
にっこりと微笑んでそう答える。
そんなコウの膝の上には、まだ歩くのも儘ならないくらいの赤ん坊がいた。
その赤ん坊の薄い黒髪は誰かを連想させた。
「…………………兄貴?」
キルアがポツリと呟く。
赤ん坊をあやしていたコウがその声に反応して顔を上げた。
「黒髪の知り合いはイルミだけじゃないわよ?」
確かにクロロも黒髪である。
「まぁ、私の子供って言うのは冗談だけど…」
「当たり前だろ!」
「ただの仕事よ。ベビーシッターみたいなものって考えてくれればいいわ。っと、はいはい。どうしたのー?」
しきりに自分に向かって手を伸ばしてくる赤ん坊に微笑みかけるコウ。
その様子はかなり手馴れているようにも見える。
「じゃあ、行きましょうね」
微笑みかけながら赤ん坊を抱き上げると、コウはそのまま扉の方へと向かった。
その背中にキルアが声をかける。
「ど、どこいくんだよ」
「仕事」
肩越しに無理向いてそう答えると、赤ん坊を片腕に抱きなおして扉をくぐっていった。
バタンと言う音と共にそれが閉じて数秒後―――
「キルア!?コウって子供いたの!?」
ドアが壊れそうな勢いで飛び込んできたゴンの科白に、キルアは軽い頭痛を覚えた。
最愛の義姉は人をからかっていくのが好きなのだと、改めて理解させられる。
「コウは何て?」
「キルアが知ってるよ、って笑うだけで教えてくれなかった」
ゴンはそう言いながら頬を膨らませる。
そんなゴンに苦笑を浮かべるキルア。
「脹れんなって。ちゃんと教えてやるから」
「珍しいわね、全員集合なんて」
瓦礫に腰掛けてコウが口を開く。
だが、彼女の他に声を発する者はいない。
団員の視線は……言うまでもなくコウの腕の中に固定されている。
「…………………そんなに気になる?」
彼らの視線を受けて、コウは苦笑を浮かべた。
その声をきっかけに今度はクロロへと視線が移る。
どうやら皆考える事は同じらしい。
黒髪からクロロを連想したのだろう。
「………覚えはない」
溜め息混じりに言うクロロにコウはクスクスと笑いながら頷く。
「私も覚えはないわ」
自分の指を追って手を伸ばしてくる赤ん坊をあやすコウ。
いつも柔らかい表情を見せているコウだが、団員の中でもクロロと並ぶ実力の持ち主である。
仕事の時の冷たい眼も知っているが…
今の表情からは到底想像できるものではない。
柔らかいと言うよりは、優しい表情を見せている。
「で、この子どうしたの?仕事?」
やはり先に動けたのは女性陣であった。
マチがコウの隣に腰を降ろして赤ん坊に手を差し出す。
きょとんとした目を見せながらもしっかりとマチの指を握る赤ん坊に、彼女も微笑を見せた。
「当たり。ベビーシッターみたいなもの」
「でも…珍しいね。コウがそんな仕事を引き受けるなんて」
「んー…気紛れかな」
「抱いてもいい?」
パクノダがそう問うと、コウは頷いて彼女が抱きやすいように赤ん坊から少し身を離した。
危なげない動作でコウの腕からパクノダの腕へと移る。
「あ。あたしも」
パクノダからシズクへ、そしてマチへと赤ん坊が渡る。
機嫌はいいらしく、代わる代わる抱き上げられる赤ん坊は嬉しそうに笑っていた。
「まさかこんな所までこの子を連れてくることになるとはねー…」
腕の中で眠る赤ん坊に視線を落としながらコウが言う。
隣には髪を下ろしたクロロの姿があった。
「俺も、まさか団員の集合場所に赤ん坊を連れてくるとは思わなかったな…」
「別に止められてないし」
当たり前のように答えるコウに思わず苦笑が漏れる。
「何で尾行に私が一緒なの?」
「赤ん坊連れの方が怪しまれないから」
街中を二人で並んで歩く。
神経は遥か向こうに見える背中に向けられているが。
「っと、ここまでだな。次はマチとノブナガに交代だ」
「はーい。メールよろしく」
クロロと組んだ時はコウがメールを打つのだが、生憎と両手が塞がっている。
コウにとって片手を空けるのは造作もない事だが…クロロが頷いて次の二人にメールを送信していた。
「…慣れてるな」
「ん?」
「赤ん坊の抱き方」
「あぁ、それの事ね。慣れてると思うよ?今まで何度かこう言う仕事をしたから」
そう答えながらコウは道を歩く。
道の両側には露店が開かれていた。
「疲れないか?」
「大丈夫よ」
「無理はするなよ」
「ありがとう」
こんな会話を交わしながら進めば―――
「優しい旦那さんだね、奥さん!あんた性格も顔も男前だからこれをあげるよ!!」
「「…………………………」」
果物を紙袋に詰めて渡された(押し付けられたとも言う)
その時のクロロの表情は忘れられないだろうとコウは思う。
「だってさ」
「………じゃあ、無事に送り届けないとな」
「クスクス…よろしく、旦那様」
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05.03.01