幼い心 -初恋の思い出-
確かに歳はかなり離れてる。
離れてるけど……さ。
「姉貴!」
キルアが、自分の部屋のベランダから身体を乗り出して、中庭にいるコウを呼んだ。
コウはその声に気づくと、キルアの方を振り返ってにっこりと微笑む。
「どうしたの?」
「今からそっちに行くから待っててくれよな!」
それだけ言うとキルアは部屋の中へと引っ込んでいった。
おそらく今頃は廊下を走っているのだろう。
「お待たせ!」
「いいよ。たいして待ってないから」
コウはそう言いながら微笑んだ。
中庭のベンチに座って読書中だったコウ。
それに気づいたキルアが本に視線を送った。
「本…読んでるとこだった?」
「ん?ああ…」
コウもキルアの視線の先を追ってそれを見た。
そして、パタンと本を閉じる。
「読まないの?」
「キルアが一緒にいるのに読む必要なんてないでしょ?」
その言葉にキルアが嬉しそうに笑った。
まだ幼さの残る笑顔に、コウは自然と表情が柔らかくなっていた。
コウがゾルディック家にやってきてもう3年が過ぎようとしている。
初めてキルアがコウに会ったのはキルアがまだ6歳の時だった。
その当時14歳だったコウ。
誰も友達のいなかったキルアの初めての友達とも言えるのがコウだった。
それも手伝って、キルアは酷くコウに懐いている。
「なぁ、姉貴って兄貴の婚約者なのか?」
「んーどうだろうね?一応、がつくかな。別にはっきりと婚約してるわけじゃないよ」
「じゃあさ、兄貴と結婚しない?」
「それはどうかわからないわね。先の事だし。あ、でもね。キルアたちは本当の家族だと思ってるよ?」
思えば淡い初恋だったのかもしれない。
ほら、子供の時ってよく母親の存在にすごく甘えるだろ?
俺にはそれがなかったからさ…。
だから……姉貴の存在がすごく嬉しかった。
遊んでくれて、話も聞いてくれて、修行だって一緒にしてくれた。
俺が頼めば他の事を置いて何でも。
でも、駄目な事とかした時にはちゃんと怒ってくれて。
優しかった。
「姉貴のさ…」
「うん?」
「名前……教えてくれよ」
「…名前ねぇ……」
初めて会ったときから“姉”だと紹介された。
だから俺もずっとそう呼び続けてたんだ。
だけど………無性に知りたくなった。
「キルアが私以外の友達を見つけたら、教えてあげる」
「姉貴以外の…?」
「そう。だから……頑張ってよ?」
「うん!約束だからな!」
友達を見つける事に、新しい意味を見つけた。
姉貴の名前が聞ける。
それだけで嬉しかったんだ。
「キルアー?起きた?」
「ん?」
ゴンがキルアを覗き込んだ。
クジラ島のゴンの家。
ベッドに横になったまま夢を見ていたらしい。
「はは…昔の夢なんか久しぶりに見たな…」
「昔の事?」
「コウの事ー」
「コウかーもうしばらく会ってないね。元気かな?」
「元気だって!昔っから元気ないところなんか見た事ねぇし」
「そうなんだ。ねぇ、コウの事聞かせてよ」
ゴンの言葉を境に、キルアはコウとの話を夜が更けるまで続けていた。
「あ…メール着てる…」
―――――――
From:コウ
ゴンの実家に帰ってるんだってね。クジラ島ってのどかなところでしょ?
8月の末までお世話になるのよね?しっかり自然を楽しんできなよ。
私の方は仕事に追われてそっちには行けそうにないわ。ごめんね、誘ってくれたのに。
じゃあ、ゴンにもよろしく。
―――――――
「几帳面だよなーコウって」
打ち込んでいるコウの姿を思い浮かべながら、キルアは画面を見詰めていた。
メールを最後まで読んで、最後の文章でキルアの頬が緩む。
そして、小さく呟いた。
「もう少し早く生まれてれば…絶対諦めなかったのになぁ」
―――――――
Ps.友達できてよかったでしょ?
―――――――
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