猫にまたたび

「研磨の指ってほんとすごいよねぇ…」

カチャカチャとコントローラーを操作する手と画面を交互に見ながらぽつり。

「やる?」
「武器を構えられなくてモンスター突っ込む未来が見えるからやめとく」
「…ふふ、そうだね」

こちらに視線を向けることなく小さく笑った彼の膝にコトンと頭を預ける。
画面は今、大型と呼ばれるモンスターを狩り、討伐が完了したところだ。
彼の操作するキャラクターが素材をはぎ取る様子を眺めていると、サラリ、と頭を撫でられた。

「次どこ行く?」
「タマちゃん見たい」
「じゃあ天鱗集めよ」
「確率低いねぇ」
「紅が居れば落ちる。あ、あとでガチャ回してほしい」
「私の運はぜーんぶ研磨に持っていかれてる気がする…まわすけど。外れても知らないよ?」

ベッドに座る彼を見上げると、彼はゆるりと口角を持ち上げてもう一度、私の頭を撫でた。
ゲームをしているのと同じくらい長くボールに触れるその手は決して柔らかくはないけれど。
優しい手の平の感触は大好きだ。






「………ほんっと、お前らの距離感って―――お二人さん、俺のこと見えてます?」

研磨を挟んで反対側から声が聞こえた。
ちらり、と視線を向けると、拗ねたような、呆れたような視線が返ってくる。

「鉄朗みたいな大きい人、視界に入れない方が難しいよ」
「いや、そういうことじゃなくてね?紅ちゃん、わかってて言ってますよね」
「鉄朗に紅ちゃんって呼ばれるのって慣れないなぁ…正直、気持ち悪い」
「正直に言いすぎ!」

既に研磨のキャラクターは動き出しており、鉄朗の言葉への反応はない。
聞こえているけれど、私が答えたから自分が答える必要性を感じていないのだろう。

「クロ、それ持って帰っていいよ。もう読んであるから」

移動の合間、研磨がちらりと鉄朗を見た。
視線を受けた鉄朗が肩を竦め、読んでいた雑誌を片手に立ち上がる。

「はいはい。邪魔者は退散しますかね」
「あ、鉄朗。夕飯にご飯だけ炊いておいてくれる?おかずは帰ってから作るから」
「あいよ」
「ありがとー、てつ兄ちゃん」
「懐かしいな、それ。じゃあな、研磨!また明日な」
「またね」

部屋の主からの見送りの視線がないのはいつものことだ。
私に向かってひらりと手を振った鉄朗が帰って行った。













「お前らってさ」
「ん?」
「付き合わねぇの?」
「別に付き合わなくても一緒に居られるし…彼氏彼女にならないといけない理由がない」
「付き合うとか付き合わないとか、そういうの面倒」
「あー…お前らはそんな感じだよな…」
「大人になっても変わらず過ごして、いきなり結婚しそうだよな」
「「……………」」
「どうした、見つめ合って」
「まぁ、将来結婚するとしたら…紅とだろうね」
「うん、私もそうなんだろうなぁ…研磨以外とって想像できない」
「…年取ったお前らが縁側で一緒にお茶してる光景なら簡単に想像できるわ、俺」
「わかるわかる!猫とか飼ってのんびり暮らしそうだよな!」







雪耶 紅
黒尾鉄朗の従妹で元々祖父母と暮らしていたところに鉄朗たちが越してきた形。
研磨と同級生。研磨とは物心ついたときからの幼馴染。ゲームはボタン操作が覚えられないので見る専門。
祖父母に育てられたので年上、主に年配から可愛がられるタイプ。家事が好きで得意。
バレー部マネージャーだが家事の一部を担っているので自主練への参加率はほどほど。
時々告白される。断り文句は「研磨がいるので」。なお、研磨と交際はしていない。



孤爪 研磨
ゲームは好きなのにできないのを知っているのでいつも見せてあげている。
RPGなどストーリー性のあるゲームの一周目は紅がいるときにしか進めない。
研磨がベッドに座り紅がベッドに凭れて座るが定位置。ゲームの合間によく頭を撫でる。手入れの行き届いた柔らかい髪質がお気に入り。部屋に紅専用のクッションとラグがある。
紅が残るときは時々自主練も参加。ゲームをして待つ日もあり五分五分。紅が自主練に参加しない日は一緒に帰る。
高校2年の春高以降に注目度が上がる未来がありそう。告白への断り文句は「紅じゃないから無理」。



黒尾 鉄朗
元々仲の良い従妹とは兄妹のような関係。はじめは年下の紅が家事をしてくれることに負い目を感じていたが本人が好きでしていると気付いてからは感謝を伝えつつ任せている。できるところは手伝う。
自分が主将になってから1年生の練習時間確保のために紅をバレー部に勧誘した。
初めからこの距離感の二人を見てきているので耐性あり。それが普通だと思っていて、情緒の成長と共に普通じゃないと気付いたけど、この二人だからな、という所に落ち着いた。

2024.05.26