狐の嫁入り
「影山!自主練やるぞ!」
「おう!とりあえずあの速攻の完成度を上げるぞ」
部活の時間が終わり、即座に自主練の準備に入る1年生コンビ。
他の1年生二人はよくやるよ…という視線を向けつつ部室へと向かって歩き出す。
「私、こっちでボール拾いやろうかな」
「雪耶さんってブロック飛べますか?」
「いや、流石に君たちほどの跳躍力はないから。相手になるほどのブロックは無理。レシーブなら出来るけど…あの速攻は無理かなぁ」
「わかりました。居てくれるだけでいいんで、拾えそうならレシーブお願いします!」
「はい、任されました」
マネージャー業の間は羽織っていたジャージは邪魔になるだろうと早々にコート脇に畳んでおく。
軽く腕を回して準備運動をしながら、日向・影山とは逆サイドのコートへと入った。
そこから始まる自主練に、何となく居残って様子を見守る上級生たち。
日向が飛び、影山のトスがその手に吸い込まれる―――が、手の平ど真ん中ではなく、ボールはその指先をかすめた。
何とかネットは越えるも、やや勢いのないスパイクはあっさりと紅によって拾われる。
「もう一本!」
ポーンと山なりにネットを越え、アタックライン手前に居る影山の元へと飛んだ。
「きれーなAパスだな」
「相手コートからだけどな」
トスが上がり、今度は手の平ど真ん中でスパイクが打ち出された。
紅が咄嗟に左腕を伸ばすも、手首に当たってコートの外へと飛んでいく。
「よく反応すんなぁ」
「雪耶さんってあんまり運動得意ってイメージなかったけど」
「体育はそこそこってイメージですよね」
外野がそんな風に感想を述べ合う間にも、自主練を続けていく。
澤村がちらりと壁掛けの時計を見た。
「自主練は程々にな!雪耶もバスがなくなる前に切り上げろよ」
はい、と三人から返事が聞こえた。
そこで思い出したように紅が澤村を呼ぶ。
「あ、澤村さん。私今日から自転車通学になりました」
「は?自転車って……もしかして日向と一緒か?」
「いや、普通に無理じゃね?確か山越えだよな?日向のスタミナならまだしも」
飛んできたスパイクミスのボールをレシーブしながら、紅はふふ、と笑う。
「中学校は同じように一緒に登校してたんですよ、これでも。なのに、先生たちもなかなか信じてくれなくて…結局、通学経路変更できたのが昨日なんです。さすがに独りで山越えは危ないってことで家族と翔陽に猛反対されて、去年はバス通学でした。1年のブランクが心配ですけど…たぶん大丈夫!」
その表情から、それが過信ではないと悟る。
「…なるほど、どおりで俺たちのロードワークに普通に付いてこられるわけだ」
2024.05.12