狐の嫁入り

「こんにちは。遅くなりました」

体育館に入り、シートの上で上履きを履き替えながら声をかける。
紅に気付いた部員たちから「ちわーす」と声が返ってくる。
見知った顔と見知らぬ顔と―――新年度の部活動初日らしい光景を予想していたのだが。

「…?」
「こんにちは、紅」
「こんにちは、潔子さん」
「これ、今預かってる分の入部届。今日は来てないけど」

そうして手渡された二枚の入部届に視線を落とす。
現在は仮入部期間であり、新入部員の部活動への参加は自由だ。
入部届に記された見覚えのない名前に、おや?と首を傾げる。

「これで全部ですか?」

いつの間にか清水の傍らにいた主将、澤村に向かって問いかける。

「あー…実はな、あと2人、入部予定の1年がいるんだが…」

苦笑いを浮かべながら紅がいなかった間の出来事をかいつまんで説明する。
その説明を聞き、なんだか笑いがこみあげてきてしまい、キュッと唇を噛みしめる。

「とりあえず、そういうことだから。週末までは新入部員はその二人ってことで」
「わかりました。あの…ご迷惑をおかけしてすみません」
「え?雪耶が謝ることじゃないだろ」
「いえ…しょ…日向は私の…後輩なので」
「あー…そうか、雪耶は雪ヶ丘だったか」

気にするな、と笑う彼に、小さく頭を下げる。
他の部員への指示に戻る澤村を見送り、紅もまた清水の元へと向かった。
いつもの練習風景を見ながら、この場にいない彼へと思いを馳せる。






そうして新入部員を欠いたまま迎えた金曜日。ようやく合流した例の2名の紹介を終え、部活動が始まる。
休憩に合わせてマネージャー業に勤しんでいた紅は、ふと近くにいた月島に視線を向けた。
始めこそ違うところを見ていた彼だが、その視線を感じたのか、ちらりと紅に視線を返す。

「………何ですか?」
「あ、ごめん。近くに立つと…高いね。190ある?データ見てなくて」
「…188です」
「将来的には190超えそうね。山口は180くらい?」

自分と月島の身長を比較し、丁度あいだくらいか、と目算で問う。
179です、との答えになるほど、と脳内のデータに記す。

「休憩中にごめんね、ありがとう」

そうしてマネージャー業に戻っていく紅の背中を見送る2人。

「はー…緊張した!」
「ただの雑談じゃん」
「清水さんとまた違う雰囲気の美人でしょ!?」
「どっちも同じような感じじゃない?」
「表情変化が乏しいって点ではそうかも」

2024.05.02