Memorial piece Crimson memory ver.
コスモス達の姿が消え、また知らない場所に放り出された。
彼女達が消えたと言うよりは、コウが別の場所に移動したと言う方が正しい。
状況を理解しようと周囲を見回していた彼女は、いくつかの気配が近付いてきているのを感じた。
振り向いた先にいたのは、イミテーションではなく、肉体を持つ人間。
その中の一人を捉えたコウの目が、軽く見開かれる。
「クラウド…」
自然と零れ落ちた声が相手に届く。
驚いたように見開かれる碧い眼。
「コウ…!」
今まで忘れていたことが不思議だった。
けれど、その顔を見た瞬間に、彼と言う人間を思い出す。
同時に、触発されるように誰かを思い出しかけたのだが、闇に引きずり込まれるように消えてしまった。
「まさか、コウもここに来ているとは思わなかった」
「ええ、私も」
驚いているわ、と呟く。
クラウドと言う名は思い出した。
そして、彼とは親しい間柄だったと言う事も。
けれど、それ以上の記憶には、鍵がかかったままだ。
それはクラウドにも言える事で、二人はその歯痒さに奥歯を噛む。
「なぁ。あんた、クラウドの知り合いなのか?」
「ええ。コウよ」
振り向いた先に、クラウドよりいくらか年の若い青年。
明るい金髪とその笑顔が、この世界では見る事ができない太陽を思い出させた。
「俺はティーダ!よろしくッス!」
「フリオニールだ」
「僕はセシル。君も、戦士なのか?見たところ、とても戦いに慣れているようには見えないけれど…」
「よろしく。残念だけど、見た目で判断するのは危険よ」
ねぇ?と同意を求めるようにクラウドを見る。
彼ら三人の視線を受け、クラウドは頷いた。
「コウは強い。俺よりも―――ずっと。彼女は俺の目標だ」
「クラウドにそこまで言わせるのか…すまない。疑ったわけじゃないんだが」
「気にしていないわ」
黙って立っていれば、戦いを知っているようには見えないと理解しているのだろう。
言葉の通り、全く気にした様子はない。
そうして互いの自己紹介が終わり、話が一段落した所で、クラウドが徐に口を開く。
「コウは…コスモスの戦士、なのか?」
「クラウド、何を言っているんだ?ここに居るんだから、そうなんだろう?」
クラウドの問いかけは、本来別の人間がすべき事だ。
フリオニールが、知り合いなんだろう?と首を傾げる。
見知っているからと言って、味方とは限らないこの世界。
クラウドが冷静に話しているからこそ、コスモスの戦士である事を疑わなかったのだ。
それなのに、何を今更―――それが、三人の想いだろう。
「そうね。クリスタルを集めろと言われているわ。どうして?」
「…一緒じゃないのか?」
更に質問を重ねる彼。
コウは怪訝そうに目を細め、誰と、と問う。
そんな彼女に、クラウドは驚きを露わにした。
「まさか、記憶がないのか?」
「あぁ…そう言う事ね。不快な事に、自分の過去も曖昧よ。あなたの事だって、顔を合わせて漸く思い出したわ」
そう答えたコウの言葉に偽りはなく、クラウドは神妙な顔で口を噤んだ。
忘れている事は、自分にもある。
けれど、彼女にとって最も大切であろう記憶が欠けている事は、彼にとっては信じがたいものだ。
他の何を忘れたとしても、“彼”の事だけは覚えていると―――何の確証もなく、そう思っていた。
自分の持つ記憶を伝えるべきなのか、伝えるべきではないのか。
クラウドは悩んでいた。
「…コウ、一緒に行かないか?」
悩んだ末、クラウドはそう提案した。
馴れ合いを好まない彼だが、コウは別、と言う事なのだろう。
元の世界の知人とあれば、拒む理由はない。
他の三人もまた、それがいいと頷いた。
「…そうね…いいわよ。行動を共にする間はフォローするわ。団体行動は苦手じゃないから」
そう、コウは団体行動が苦手ではなかった。
単独行動が嫌いな彼と仲間の間を取り持つのが常で―――
ふと過ぎる、記憶。
映りの悪いテレビのように、肝心な所は見えていない。
けれど、進む先に答えがあると確信させるには十分だ。
「必ず…思い出すわ」
私の、“世界”を。
記憶の中で、銀色が揺らめいた。
11.03.07