Memorial piece  Crimson memory ver.

最後の記憶がなんだったのか。
それすらもわからないような曖昧な状況に目覚めた。
気が付けば見知らぬ空間に一人。
私の名は―――コウ・スフィリア。
それは思い出せる。
けれど、それ以上の事は何も、思い出せなかった。
“わからない”ではなく、“思い出せない”。
つまり、思い出すべき知識があると言う事。
漠然とした感覚が、私の中に不快感を残す。





その時―――不意に、背後に気配を感じ、反射的に剣を抜いた。
右に剣、左に銃。
遠近どちらにも対応できるよう構え、振り向いた先には不思議なモノ。
生きているのか、それとも生物ではない“何か”なのか。
それは、とても―――似ていた。
そう、私自身に。









優しい光に導かれるようにして、コウはそこへと辿り着いた。
不思議な力に満たされたその場の中心部に、一人の女性がいる。
その傍らに、まるで騎士のように傅く戦士がいた。
パシャン、と足元の水が音を立て、その戦士がこちらを振り向く。
その表情には、いくらかの驚きが含まれていた。
女性もまた、コウを見る。
彼女は今にも倒れそうに身体を傾けながら、そっと瞼を伏せた。

「私はカオスに敗れました」

女性―――コスモスの話は、異世界から召喚された彼らには受け入れがたいものだった。
けれど、受け入れなければ前に進めない。
前に進まなければ、元の世界へ帰ることが出来ない。
彼らの前には、受け入れる以外の道など、初めから存在していなかったのだ。

「コウ…」

コスモスが彼女を呼ぶ。
コウが振り向くと、コスモスは哀しげな表情を浮かべた。

「どうか、迷わないで…。カオスの手から世界を救うために」
「…迷う?あなたは何を知っているの?」

戦う事に迷う理由を知っている口ぶりに、コウは眉を顰める。
ただでさえ突然巻き込まれて、戦う事を強要されているのだ。
それに加えて、彼女が知っていて自分が知らない何かがある…しかも、自分について。
不快感は拭えなかった。

「クリスタルを手に入れてください」
「…私には、世界なんて関係ないわ」

非難めいた視線が、戦士から向けられた。
コウはそれに怯む事無く、コスモスを見据えて言う。

「世界なんて、大きなものは私の腕では包めない。私の手は、忘れてしまった“もの”だけで、いっぱいだもの」

とても大切な何かがあった。
守りたい何かがあった。
忘れてしまっているけれど、それが全てだった。
守りたいものは、自分の手に収まる、身近な存在なのだ。

「クリスタルは探すわ。世界を守る事が、大切なものを守る事に繋がるから」

いつだって、目の前のものを守るために戦ってきた。
記憶はないけれど、そう断言できる。
世界なんて大きなものを守ろうなんて、自分の身丈に似合わない事を目指すよりも、ずっと現実的だ。




いかにも戦士と呼ぶに相応しい風貌の彼、ウォーリア・オブ・ライト。
彼が、コウの隣に立った。
それに気付くと彼女は挑発的な笑みを浮かべて彼を見る。

「私の事、嫌いなんじゃなかったの?今にも剣を抜きそうな目だと思ったけれど」

ウォーリアはコウの言葉に、首を振る。

「…世界を放り出すのかと思った」
「間違った認識じゃないわね。今でも優先順位は高くないわ」
「いや、君の考えはよくわかっている。そして、理想を語る実力を持っている事も」

正義感の塊のような彼には、受け入れられないと思ったけれど、そうでもないようだ。
しかし、そんな事よりも気になる内容があった。

「…あなたが私の何を知っているの?」

彼は初めて顔を合わせた他人だ。
そんな人に、考えや実力をわかっていると言われても…正直、鼻で笑いたくなる。

「…君の目は守る事を覚悟している。そんな目を持つ者が道を違える筈がないと確信した」
「大層な評価をしてもらって悪いけれど、天秤がどう傾くかは乗るもの次第よ?」

信用しない方が良いわ、と彼女はウォーリアの言葉に先回りをした。
正直、味方と意識されても困る。
しかし、彼はコウの返事に小さく笑みを浮かべた。
同じ事を言うんだな、と言う呟きは、彼女の耳には届かない。

「その時は私が止めよう」
「それは―――…いいえ、何でもないわ」

それは、無理よ。
思わず零れそうになる本音を飲み込む。
これ以上の問答は無意味と感じたからだ。

「コウ」

沈黙を保っていたコスモスが、彼女を呼んだ。
差し出された力ない手を見つめていたコウは、静かにその手を取る。

「どうか、今度こそ―――」

コスモスの言葉を最後まで聞かない内に、視界が揺れる。
一瞬のうちに、コウの姿は消えた。

「…コウは前の戦いの記憶を失ったのか」
「………彼女を世界にとどめる事が、限界でした」

コスモスは静かに視線を落とし、そして光と共に消えた。

11.03.05