Crystal memory
「ライトさん!」
戦闘が終わって、コウが駆けてくる。
彼女はにこにこと微笑み「はい、どうぞ」とそれを差し出した。
「…これは…どうしたんだ?」
先程相手にしたモンスターが落とすアイテムだが、とてもレアな物だ。
初見で拾えるような代物ではなく、ライトニングが驚いたように彼女を見た。
コウはその視線にぐっと親指を立てる。
「ちょろまかしてきました」
悪戯が成功した子供のように舌を出して笑う彼女。
年相応の笑顔に流されそうになったライトニングが、ハッと我に返る。
「どう言う意味だ?」
彼女はライトニングの質問に笑顔を返した。
そして、しっと唇の前で人差し指を立ててから、少し前を歩くスノウに駆け寄っていく。
「ねー、スノウ。あっちに綺麗な花が咲いてたんだよ」
「へぇ、そうなのか」
「…スノウってそう言う感受性が乏しそうだよね。花の綺麗さとか、わからないっぽいよね」
「な…!?俺だってわかるぞ!?」
「ムキになる所がねぇ…。女の子って綺麗な物とか可愛い物とか好きだからさ、少しは勉強した方が良いよ」
奥さんのために、と肩を叩けば、彼はまんざらではない様子でそうだな、と頬を掻く。
単純だなぁと思う傍らで、どこまでもまっすぐ愛される彼女が少し羨ましい。
「頑張ってね。今度色々教えてあげようか」
「おう、頼む」
任せてと拳を握ってから、コウはライトニングの元へと戻ってきた。
彼女は握ったままだった手をぱらりと広げて見せる。
「手先が器用なんですよ」
彼女の手には先程スノウが装備したはずのアクセサリーがあった。
表情少なく呆気に取られるライトニング。
「…盗みが得意なのか?」
「その言い方は身も蓋もないなぁ…。人相手に実践した事はありませんよ」
これが初めて、とアクセサリーを真上に放り投げるコウ。
それを危なげなくキャッチして、彼女はライトニングを見た。
「皆さんの役に立てないかなと思って。モンスターって色々良い物持ってますからね」
そう言ってから、コウは口元に手を添えてスノウを呼ぶ。
振り向いた彼に向って思い切りアクセサリーを投げた。
危うく取り落としそうになる彼だが、何とか落とさずにそれを受け止める事に成功した。
「え?あ…落としてたか?」
「ううん。ちょっと借りた。ありがとうね」
悪びれた様子もなく言うものだから、盗られたと認識しなかったようだ。
そうか、と納得してしまった彼に、隣からライトニングの溜め息が聞こえた。
「そうだな。モンスター相手にだけ発揮してくれるなら、役に立つ能力だ。頑張ってくれ」
「はい!」
屈託なく笑ったコウに、ライトニングも小さく微笑んだ。
「コウってそんな特技があったんだ?」
皆に話しておいた方が良いと言われ、コウは簡単に自分の特技について話した。
要はモンスター相手に盗みが得意ですと言うだけの話。
当然のことながら、そりゃ便利だなと言う反応で、特に反対されるわけでもなくアイテム集めを任せられる。
それから何度目かの戦闘後、ホープがコウに近付いてきて、そう言った。
「うん。手先が器用だから」
「それは知ってる」
「だよね。あと、注意を逸らすのも得意」
「誤魔化すのも、だろ?」
人生の半分以上を一緒に過ごしているから、彼はコウをよく知っている。
まさか盗みの特技があるなんて思ってもみなかったけれど。
もちろん、こんな時でなければ生かされることのない特技だったのだろうと思う。
「人相手でも通用しそうだよね」
「んー…出来るよ。スノウとか、サッズとか…ヴァニラも簡単だね、きっと。ファングとライトさんは難しいかも」
後者の二人も出来ないわけではない。
だが、後の事を考えると面倒なのでしたいと思わないだけだ。
「そんな顔しないでよ。犯罪はしてないから大丈夫だって」
確かに盗みが特技なんて褒められる事ではない。
寧ろ盗みと言うよりはトレジャーハントとでも言ってほしい。
言い方を変えているだけでやっている事は同じだけれど。
「お、ウリディシムの群れ発見」
日差しを避けるように庇を作りながら見つめた先に、群れで移動していくモンスターを見つける。
コウは隣を歩くホープの手を取り、走り出した。
「いざアイテム集め!」
「ぅわ!引っ張ると危ないって!!」
「あ、サッズも行こ!」
「ご指名されちゃーしょうがねーなー」
「うんうん。囮は一人でも多い方がいいし!」
「囮かよ!?」
のんびりと進む、アルカキルティ大平原。
10.02.03