Crimson memory

無音のまま過ぎた悠久のような時間。
どちらともなく腕を緩め、そっと身を離して近い距離で視線を交わす。
もう、何の言葉も必要ではなかった。

「エアリス」
「は、い…!」

涙が止まらない中、突然呼ばれた自分の名前に応えようとするけれど、唇がすっかり渇いてしまっている。
詰まらせながらもグイッと涙を拭い、コウを見つめるエアリス。

「エアリス、どうか…白マテリアを」
「―――ぐっ…」
「!セフィロス!?」

突如として低いうめき声をあげるセフィロスに、コウが言葉を止めて彼の肩を支える。
ギリ、と音が聞こえそうなほどに強く歯を食いしばる彼の様子に、只ならぬ異変を見た。

「白…マテリア…!」

ギィン、と刀と剣が悲鳴を上げる。
呻くように紡がれた言葉、異質な眼光を目の当たりにし、コウは咄嗟にエアリスと彼との間に身を滑らせた。
いつの間にか抜刀された刀を自らの剣で止める。

「コウさん!セフィロス、どうして!!」
「エアリス、下がりなさい!!」

ギギギギと不快な音を響かせる剣。
真正面からセフィロスを見つめるコウの目は鋭い。

「………っなるほど、そう言うことね…っ」

忌々しくそう呟いたコウは、このまま力比べをしていればいずれは押し負けると理解していた。
今目の前に対峙しているのは、セフィロスなのだから。
打開策を探り始めたところで、バタバタとかけてくる足音がコウの耳に届いた。

「エアリス!コウ!!」

そう声を上げるのは、追いついてきてしまったらしいクラウドたち。
一瞬とは言えセフィロスの注意がそちらに向けられた今となっては、その存在もありがたい。
その隙を見逃すことなく身を引き、姿勢を崩した彼の脇をくるりと回るようにしてその背を取る。
そして、迷いなく横一線に薙いだ剣で、彼を斬った。

「!?!?」

コウがそうするとは思わなかったのか、その場の誰もが言葉を失う。
膝から崩れ落ちたセフィロスを追うようにして、彼女がその傍らに膝を付く。
投げ出された手をギュッと握りしめる。
その目から、先ほどの狂気が消え去っていることには気付いていた。

「―――、―――」
「えぇ、わかったわ。待っていて―――」

コウの言葉は届いただろうか―――彼の身体がザァ、と崩れ落ちた。











「…倒した、のか…セフィロスを…?」

呆然と呟くクラウド。
コウは彼の消えた床を見つめ、ゆるりと立ち上がった。

「今のは彼であって、彼じゃない―――」
「セフィロスじゃない…?」
「途中で、その意志がはっきりと切り替わったから」

抜き身だった剣を腰の鞘へと納め、コウは彼らを振り向いた。

「私は行くわ。セフィロスが待っているから」
「ちょっと待ってくれ!セフィロスを追うなら―――」
「あなたたちが追うべきセフィロスと、私の求めるセフィロスは違う。
さっきのセフィロスはジェノバが彼のコピーを乗っ取っていた」
「ジェノバが…?」
「ええ、そのセフィロスコピーこそ、あなたたちが追うべきセフィロスよ」

薄々感じていたことではあるけれど、セフィロスの意思を感じていたから判断しかねていた。
しかし、今回ばかりははっきりと理解した―――今までのセフィロスは彼であって、彼ではない。
そして、そのコピーの意思はセフィロス自身の意思を持ちつつも、その中にはジェノバも存在している。

「―――コウさん、どこに行くんですか?」
「…私は…私のセフィロスを迎えに」

穏やかに微笑んでそう答えると、コウは白マテリアを握るエアリスの手を包み込む。

「彼はきっと、黒マテリアを使わない。けれど、ジェノバは違う」
「………はい」
「あなたの力を、信じているわ」

その言葉にエアリスは強く頷いた。
それを見届け、コウはエアリスの隣にいたティルへと視線を向けた。
ゆっくりと彼の元へと足を進め、その前へと立つ。

「あなたはクラウドと共に。私は―――」
「…決めたんだな、あなたは」

何を言われなくても、その目を見て気が付いた。
ここに来るまでに見た彼女のどの眼差しとも違う。
はっきりとした意思を持つその目を見れば、彼女の決意は何となく理解できた。

「あなたを選べない私を、許してほしいとは言わない。けれど、これだけは覚えていて」

じっと見つめてくる彼の頬を撫でる。
このぬくもりが奇跡なのだと、他の誰が知らなくても、コウ自身が知っているからこそ。

「―――私たちは、あなたを愛している」

優しく、愛しみの眼差しで紡がれるその言葉を、どうして疑うことができるだろう。
ティルは何も言えずとも、静かに目を細めてその言葉を受け止めた。










「ごはんだよ―――って、あれ?」

順番にギザールの野菜を与えていて辿り着いた、奥の房。
いつもならば寄り添っている2頭が、その房から姿を消していた。

「カストル、ポルックス…」

夜の間に、2頭は出て行ってしまったらしい。
何故か逃げ出したとは思えなかったのは、彼らのチョコボたちだからだろうか。

「お迎えが来たんだ…良かったね」

ちょこんと入口に置かれていた小さいとは言えない包みの差出人は誰なのか。
居なくなった彼らと、その包みを思って、彼は小さく笑った。

16.08.13