Crimson memory

ティルたちの元を離れたコウは、森の中で一人、息を吐き出した。

―――知ってるなら…気付いてるなら、置いていかないでくれ…!!母さん!!

こうなる事は、わかっていたはずだ。
いつ死んでしまうかわからないから、子供を生んではいけないと思った。
それだけが理由ならば、ソルジャーを辞めればよかったのだ。
そうしなかったのは、子供を最優先にすることが出来ないとわかっていたから。
コウにとって唯一で絶対なのはセフィロスただ一人。
たとえ彼との間に出来た子供であろうとも、その順位を覆す事は出来ない。
わかっていたはずなのに―――

「馬鹿ね…」

ティルの中に自分とセフィロスの面影を見て、涙が出そうだった。
悲しかったのではない、嬉しかったのだ。
彼の存在は、自分たちの心が確かに寄り添っていた証だから。
あの日々が偽りではなかったのだと―――。
喜ぶ権利など自分にはないと言うのに。







コウは考えるのをやめて、そこにあった木に凭れかかる。
はぁ、と吐き出した息は、疲労の色を見せている。

「…間に合ってよかった…」

そう呟いた声は弱い。
彼女をここまで追い詰めている原因は、自分でも理解できない衝動だ。
ティルは愛しい。
そこに存在してくれた事を、素直に喜んでいる。
それなのに、同時に―――あの子が刀を振るうのを見ると、脳内に警鐘が鳴り響くのだ。
ティルの姿にセフィロスが重なる時、コウの身体が自らの意思からは離れた行動を起こそうとした。
破壊の衝動―――そう呼ぶに相応しいものが、彼女を支配しようとするのだ。

―――殺せ。

考えてもいない言葉が頭の中に聞こえてくる。
様々な修羅場をくぐってきたコウだから、表情一つ変えずにそれを抑え込んで来た。
しかし、それももう限界だった。
あれ以上一緒に行動していれば、いつかコウはティルに武器を向けただろう。
それが自分の意思ではないとしても、自分の行動である事に変わりはない。

「神羅…どこまでも、私の邪魔をすると言うのね…」

何が原因なのかは、はっきりとわかっている。
神羅が、コウの身体に何かを施したのだ。
それをするだけの時間は十分にあった。
憎しみをこめて、神羅の名を口の中で噛み締める。
















セフィロスの足取りを追い、古代種の神殿へとたどり着いた。
彼は、神殿の奥深くに眠る黒マテリアを求めているのだ。
黒マテリア―――究極の黒魔法、メテオを発動させるマテリア。
彼がそれを求める理由は何なのだろうか。
あっさりと神殿の中を進みながら、コウはぼんやりとその事を考えていた。
メテオは宇宙に浮かぶ星を呼び寄せ、この星に落とす魔法。
この星を破壊するだけの力を持った危険すぎる魔法だ。
何故、彼はそのような事を考えるのか。


行く先々である程度の情報を集めているクラウドらに対し、コウは寄り道一つなくここにたどり着いた。
セフィロスが、コウには彼らとは別の手がかりを残しているから。
道標に小石を落とすのと同じように、それとわかる物を残していく彼。
真っ直ぐにセフィロスを追っているが故に、彼女は彼の真実に近付いていない。





「コウ…?」

後ろからかけられた声。
振り向いたそこに居たのは、クラウド、エアリス、そして…ティル。
声をかけたのはクラウドで、ティルは驚きに言葉を失っていた。

―――大丈夫。この子は…“彼”じゃない。

「再会の時は思ったよりも早かったようね」
「コウも、セフィロスを追ってここにたどり着いたのね?」
「ええ」
「そっか…彼らが教えてくれた“あの人”はコウのことだったんだ」

呟くようなエアリスの声に、コウがあの人?と問いかける。
彼女は考え込むように沈黙したまま、何も答えなかった。

「この先にセフィロスが居る。行く先が同じなら、別行動を取る意味はないと思う」
「…そうね。タイミングをずらしたところで、向かう先が一つなら意味はないわ」
「なら、一緒に行こう。…ティル、構わないか?」

クラウドが案じるようにティルに尋ねた。
彼の表情には戸惑いが浮かんでいる。
無理もない―――彼は、母親であるコウに見捨てられたも同然なのだ。
こんな所であっさりと再会してしまって、どう反応すれば良いのかわからないのだろう。

「俺なら…気にしなくていい」

ぎゅっと拳を握って俯く姿が、その心中を如実に表しているようだった。
申し訳ないと思いつつ、コウはクラウドの提案を呑む。
彼女にとって、クラウドが一緒の方が都合が良かった。









エアリスが、足場が悪い事を理由にティルの手を借りる。
自然とエアリスの歩調に合わせたティルは、クラウドとコウから少しだけ遅れた。
複雑な心境を抱えるティルの事を考えた、彼女なりの優しさだったのだろう。

「クラウド」

コウは隣を歩くクラウドに呼びかけた。
彼女の方を見るけれど、視線が絡む事はない。

「もし私が我を失うようなことがあれば…迷わず止めてくれる?斬り伏せてくれて構わないから」
「コウ?」
「…もし、の話よ」

彼のほう向いてそう言って笑ったコウは、どこか寂しげな表情だった。

「…わかった」

何のことなのかわからない。
けれど、コウが望んでいるのは、クラウドが頷く事だけ。
納得できないと思う心を飲み込んで、彼は小さく頷いた。
ありがとう、と礼を告げる声が聞こえる。

クラウドが彼女の言葉の意味を知るのは、それからすぐの事だった。

09.12.11