Crimson memory
前でモンスターを攻めるティルの背中を見て、コウは言葉なく目を細める。
揺れる短い銀髪が、流れるような刀による攻撃が―――否応なしにセフィロスを思い出させた。
まだ余裕のない様子は、彼とのレベルの差なのだろう。
それを差し引いたとしても、ティルはセフィロスに似すぎていた。
「やはり、あなたは…」
小さく呟き、武器を握っていた手を下ろす。
すでに治っているはずの傷跡が、ズキンと痛むような気がした。
戦闘が終わり、エアリスは全員にケアルラを唱える。
傷が癒え、それぞれが歩き出した。
それを見送ったところで、彼女はふと、立ち止まったままのコウに気付く。
コウの視線は真っ直ぐにティルを見つめていた。
その眼差しはどこか寂しげに揺らめいている。
「コウ、さん?」
呟いた声が聞こえたのか、コウがエアリスの方を向いた。
そして、微笑む。
「どうしたの、エアリス」
先ほどの寂しげな表情を消し、ただ穏やかに微笑むのみ。
何も言えなくなったエアリスは、ううん、と首を振った。
「みんなに置いていかれるね」
「…そうね」
歩き出すエアリスに続き、コウは一行の最後尾を歩く。
今ここでならば、彼らと別行動を取ることはできるだろう。
彼らもセフィロスを追っている。
しかし、その理由は、コウとは正反対だ。
彼らと共に行くことは出来ないような気がする。
「―――…コウさん」
不意に、前を向いていたエアリスが振り向いた。
彼女は何かを決意した表情で、コウと向き合っている。
「もう少しでいいから…ティルと、一緒に居てあげてください」
「エアリス…」
「ティルは、今まで酷い実験をされていて、身体も成長させられて…」
そんな中で、彼が望み続けていた一筋の光。
母と呼ぶには、そのぬくもりも優しさも知らない。
けれど、ティルにとって、コウは希望にも似た存在だった。
「ティルは、あなたの…」
この続きは自分が言うべきことではないとわかっている。
けれど、彼女をこの場に繋ぎとめておけるならば、それでも構わないような気がした。
「エアリス」
エアリスの言葉は、コウの声により途絶える。
ハッと我に返って顔を上げれば、コウは苦笑にも似た表情で続けた。
「その続きは…言わないで」
もし聞くことがあるとするならば、本人の口から。
コウの思いが伝わったのか、エアリスはコクコクと頷いた。
彼女の反応を見たコウは、ニコリと微笑む。
「大きくなったわね―――お嬢さん?」
コウの言葉にエアリスの眼が大きく見開かれる。
これでもかと言うほどに開かれたそれは、ぽろん、と目を零してしまいそうだ。
そんな彼女の頭をそっと撫でるコウ。
「綺麗になった、そう言うべきなのかもしれないわね」
「コウ…さん…覚えて?」
「ええ。あなたにはずっと…聞きたいことがあった」
コウはゆっくりと歩き出しながらそう言う。
エアリスは聞きたいこと?と首を傾げた。
「ザックス…知っているわね?」
「!!知ってる!」
思わずそう声を上げたエアリスに、メンバーが何事かと振り向く。
しかし、彼女はそんな視線など気にならない様子だ。
まるで縋るような表情でコウとの距離をつめる。
「コウさん、彼を知っているんですか!?」
そう問いかけてくるエアリスを片手で制し、メンバーの方を向く。
「右の道を行ったところに、小さな池があるわ。水も綺麗だし、そこで少し休みましょうか。
私は…この子と話さないといけないことがあるみたいだから」
そう言って有無を言わさぬ様子でそちらへと歩かせる。
疑問符を浮かべつつも、何も問うべからずと言った様子のコウに、誰一人質問を投げかけることが出来なかった。
一行からは少し離れたところで、エアリスとコウが並んで腰を下ろしている。
そわそわと落ち着かない様子のエアリスに対し、コウは平然とした様子で水筒の水を口内に含んだ。
「ザックスから、あなたのことをよく聞いたわ。エアリスという名前が懐かしいと思ったのは、その所為ね」
言葉を見失っている様子のエアリスを見かねたコウが、そう告げた。
コウの脳裏に、数年前の記憶が甦る。
『笑うと可愛いんだぜ、あの子。すっげー自然に笑うんだ』
そう言って笑ったザックスを思い出す。
『ザックスにも春が来た?』
『そっ!そんなんじゃねぇって!ただ…何て言うか…』
あれが恋だったとは思わない。
けれど、その想いは小さな蕾をつけていた。
「ザックスは、生きてるの…?私、何度もツォンに手紙を渡したの。だけど…っ」
返事のない手紙を書き続ける事の辛さ―――コウは、それを思い、表情に影を落とした。
「生きているの―――か。私は、それに対する明確な答えを持っていないわ。ただ…一つだけ言えることは…」
コウは水筒を傍らに置き、エアリスの方を向いた。
「死んでいない」
何故、コウがそう断言するのかわからない。
しかし、その言葉には、強い力が秘められていた。
ポロリ、とエアリスの目から涙が零れ落ちる。
「ソルジャーとして誇りを持っていたのに、神羅によって闇に葬られようとしている。私は、それが許せない」
ソルジャーだって人間なのだ。
生きている彼らを、まるで道具のように扱うこと―――それだけは、許せなかった。
余談だが、コウがこのことを知っているのは、何度も神羅ビルに侵入したからである。
気付かれることなく成功しているのだから、その腕前は相当のものだ。
「エアリス。あなただけは、ちゃんと覚えておいて。神羅により、存在そのものを消されているあの子のことを」
コウの真剣な言葉に、彼女は何度も頷いた。
08.07.12