Crimson memory
夜、コウは火の番をしているその背中を見つけた。
離れすぎず、けれど互いを干渉しないギリギリの位置を陣取るメンバー達。
ティファとエアリスはそう思っていないのか、二人で寄り添うようにして目を閉じていた。
彼らを一瞥し、コウは火の前へと腰を下ろす。
先ほど見つめた背中の主が、こちらを向いた。
しかし、その視線はふい、と逸らされる。
「――――」
二人の間に、沈黙が下りた。
コウは口を閉じたまま、手に触れた薪を火の中に差し込む。
「―――隻眼のブランク」
「!」
「その反応だと、知っているようね」
びくりと肩を揺らした彼、バレットに、コウは僅かに微笑んだ。
彼は反応してしまったこと自体に舌を打ち、乱暴に薪を放り込む。
「私の…ボスだった人」
「レッドベルの一員だったのか!?」
「他の人が起きるわよ」
やや声を大きくしてしまったバレット。
コウは軽く眉を寄せてそう言った。
しまった、と言った表情を見せ、彼は口を噤む。
しかし、先ほどとは違い、ちらりちらりとこちらに視線を向けていた。
話の続きが気になるのだろう。
「レッドベル…打倒神羅に一番近く…最高と謳われたレジスタンス」
バレットが小さく呟くようにそう言う。
コウは、その言葉に頷いた。
「否定はしないわ。あの頃の私たちは、本当に強かった。
アバランチとは比べ物にならない規模で―――それでも私たちは一つだった」
自慢話ではない。
コウは、ただ淡々と事実を告げた。
バレットはそれに対して怒り出すこともなく、冷静に頷く。
レッドベルは、力があった。
打倒神羅を掲げつつも、自分たちとは違い、人々を巻き込まないだけの強さがあった。
魔晄炉の破壊により、多くの人を犠牲にした自分たちとは、格が違う。
バレットにとっては、雲の上の存在だった。
「でも、私たちは敗れた。たった一人の…ソルジャーによって」
あの殲滅に参加していたのは、一人ではない。
けれど、その一人さえいなければ、自分たちが敗れることはなかったと断言できる。
「死ぬんだと覚悟したわ。レッドベルと運命を共にする筈だった」
「命乞いでもしたのか?」
「…そうね。似たようなものかもしれないわ。死を逃れ、敵の中に入ることで生きながらえたのだから」
嘲笑を含んだバレットの言葉にも、コウは冷静さを失わなかった。
あの時のことを思い出すように、軽く目を細める。
あれから、何年経ったのだろうか。
レッドベルの夢を見たのは、一度や二度のことではない。
仲間だった彼らを裏切ったのだと言う想いは、コウの中に深く根付いていた。
敵の中に地位を築いている自分に吐き気がした。
けれど―――時が経ち、コウはセフィロスから離れられなくなってしまった。
当初の目的すら希薄になりかけた時すらある。
きっと、セフィロスはそれに気付いていただろう。
「私は、人々の期待を背負うことを止めた。その役目は…アバランチに任せるわ」
人のためではなく、自分のために生きたいと思うことは悪いことではないはずだ。
最高の、と噂されていた時には、何が何でも達成しなければと言う義務感に駆られていた。
「時代が動き出しているわ。あなたたちの革命が上手くいくといいわね」
「…止めねぇのかよ、ソルジャーさんよ」
「神羅の狗に成り下がったつもりはないわ。私は、自分の信念のままに生きる」
そう言うと、コウはその場から立ち上がる。
そして、マントの裾をばさりと翻し、火の傍を離れた。
静かな森の中を歩いていたティルは、ふと背後に人の気配を感じた。
しかし、警戒していない自分に気付き、彼はその気配の主を悟る。
「休まなくて大丈夫なの?」
優しい声がした。
「…眠れないんだ」
まるで子供のようだ、と思いつつも、そう答える、
すると、コウは苦笑を浮かべてまた一歩、彼に近づいた。
「野宿の時は、眠れなくても腰を落ち着けて目を閉じるものよ。そうすると、身体が休まるから」
「俺…あんまり、疲れない」
コウは、ティルが何かの研究に利用されていたことを知っている。
だからこそ、彼の言葉に眉を顰めた。
神羅の研究員が度を越えた研究を行うのは、今に始まったことではない。
「疲れないと思っているのならば、尚更ね」
そう言うと、コウはそこに生えていた太い木に背中を預けて腰を下ろす。
マントの裾で自身の身体をくるりと覆ってから、隣を叩いた。
「おいで。疲れると言うものがどう言う状況なのかがわからないなら、尚のこと身体を休めなさい。
気がついたときには、限界を超えている可能性だってありえるから」
人生の先輩として、彼女は厳しく言った。
ティルは素直に彼女の言葉に従う。
少しだけ距離を開けて腰を下ろし、同じように幹に背中を預けた。
「それ…」
不意に、ティルがコウの腕を指す。
コウは彼の視線の先をたどり、あぁ、と頷いた。
「レッドベルのメンバーは、全員彫っていたの。綺麗なタトゥーでしょう?」
二の腕の外側に彫られたタトゥーを指でなぞり、コウは小さく微笑んだ。
その名の通りに、赤いベルを主としたそれは、彼女の言う通り綺麗だと思えるものだ。
「初めて見た」
「あまり出さないようにしているから。それに、あなたと出会ったのは神羅の研究フロア。
流石に、そこでこのタトゥーを出しているわけにはいかないでしょう?」
反神羅組織の証であるタトゥーをつけて神羅の中を闊歩するわけには行かない。
ソルジャーになってからは高さのあるバンクルをつけるようにしていた。
ティルと出会ったときに、彼がこのタトゥーに気付いていなくてもおかしくはない。
「―――…コウは……レッドベルを殲滅したのに、憎くないの?」
「…救えなかったのは、私よ。セフィロスを憎いと思ったことはないわ。あえて言うならば…逃げた自分、ね」
「そっか…」
どこか肩を落とした彼の返答に、コウは苦笑を浮かべる。
「…ティルはセフィロスが苦手みたいね」
ティルは何も言えなかった。
08.06.24