Crimson memory

「コウ…」

声に反応して、彼女が振り向いた。
その目に驚きが浮かび、そして次には柔らかな弧を描く。

「クラウド、久しいわね」

記憶の中の声、表情、空気。
すべてが彼女だ。
心が、懐かしいと叫ぶ。
セフィロスと言う尊敬していた目標を見失ったクラウドにとって、彼女は最後の砦。

「幽霊でも見たような顔ね」
「…死んだと…聞いたから」

躊躇いながら紡がれた彼の言葉に、コウが目を見開いた。
そして、どこか困ったような笑みへと表情を変える。

「私は…あなたたちが心配だった。……死んだと思っていたわ」

お互い様ね、と呟く。
あなたたち、と言う複数に向けられた言葉には、自分とセフィロスが含まれているのだと思った。

「でも、生きてる」
「…あぁ。ソルジャーのクラス1stの名は伊達じゃない」
「え…?」

コウは言うならば、怪訝そうな表情を見せる。
クラウドは、その時の彼女の表情の意味を理解できなかった。

「クラス1st…?」

小さく呟かれた彼女の声は、クラウドには届かない。

「とにかく、場所を移そう。こんなところではゆっくりと話も出来ない」

そういったクラウドは、仲間の待つ宿に行こうと提案した。
しかし、コウは首を横に振る。

「時間が惜しいの。ゆっくりとしている暇はないわ」
「…待ってくれ!俺はまだ、話したいことが沢山あるんだ!」

そう叫んだのは、ティルだった。
コウは彼の声に悲しげに目を細める。

「私もあなたの話を聞きたいわ。そんなにも成長した理由も、ね」
「それなら…!」
「でも、セフィロスを追っているの。見失ってしまう前に、彼に追いつきたい。―――時間がないの」

ティルはその時の彼女の目を見て、気付いてしまった。
彼女は自分を見ていない。
見ているのは、セフィロスだけだ。
他の人間と違い、彼とセフィロスを重ねているわけではない。
彼女は、セフィロス以外を見ていない、と言った方が正しい。

「なら、連れて行ってくれ!」
「…ティル…」
「ちゃんと戦える!コウほど強くないけど、邪魔はしないから!」

必死の彼に、コウは即座にそれを拒むことが出来なかった。


何故だろう。
この子を見ていると、言葉に出来ない感情が胸を締め付ける。
セフィロスに似ているからだろうか。
どうしても、他の人間と同じように扱うことが出来ない。
悲しげな表情をされてしまえば、手を差し伸べたくなってしまう。
コウは、自身の感情を持て余していた。
いや…もしかすると、心の奥ではその意味を理解しているのかもしれない。
それを認めてしまうことを許さないのは「まさか」と言う否定的な自分自身。

ありえないのだ。
それは…少なくとも、自分とセフィロスの間には、存在してはならない。
思い込むことで、その可能性を消し去ろうとしていた。















夜が明け、コウは彼らと共に岩肌の目立つ道を歩いていた。
足場の悪さを物ともせぬ足取りに、神羅最高のソルジャーと言う名も頷ける。
どんなモンスターが来ようとも十分に対応できる。
そんな自信の溢れた歩みに、一行の足も自然と軽くなる。
コウはそのことに気付き、人知れず溜め息を吐き出した。
自分の存在が下の者の油断を招くと言うことは、彼女自身よく理解している。
この人がいるから大丈夫。
そんな安心感が、油断を招くのだ。
一瞬の遅れが死を意味すると言う環境の中で、その油断は命取り以外の何者でもない。
自分がいい影響を与えていないことは、明らかだった。

「……クラウド。あの日、ニブルヘイムで何があったの?」

あの日のニブルヘイムでの出来事を語りだしたクラウドの声を聞きながら、彼女はそんなことを考えていた。




クラウドの話が終わると、コウは少しの余韻を持たせてから、ありがとう、と告げる。
彼女は彼の話の中の矛盾を整理しようとしていた。
一つ目の矛盾は、コウの知るクラウドはソルジャークラス1stではなかったと言うこと。
それに該当するのは、ザックスだ。
そして、それが二つ目の矛盾でもある。
彼の話の中には、ザックスの存在がなくなってしまっているのだ。
まるで、彼の行動を自分のものとしてしまっているように聞こえた。
わざとそうすることに理由はないだろう。
コウは、ザックスを知っているのだ。
そんな虚勢は無駄と言うもの。
わざとではないならば―――何らかの理由により、彼の記憶が酷く曖昧になっているのだ。
自分の行動と、ザックスの行動の境界線があやふやになり、その二つが混濁してしまっている。
コウには、その原因が分からなかった。

「クラウドは…セフィロスをどう思った?」
「え?」
「あの人は、もう止められない?」

驚いたように振り向いているのを感じた。
痛いほどの視線を頬で感じつつ、視線を合わせない。

「…故郷を奪われた苦しさは、奪われた者にしかわからない。あの時の無力感を、俺は忘れない」
「私にはわからないだろうというの?」

クスリと笑う。

「私は生き残りよ。アバランチと同じ、レジスタンスの…ね」

誰にも語ったことのない昔話だ。
クラウドだけではなく、一行全員が声を失った。
反神羅組織だったと言うならば、何故ソルジャーのトップに上り詰めたと言うのか。
一番それを問いただしたいのは、バレットのようだ。

「私たちの殲滅作戦に参加していたのが、セフィロスだった。私は…彼によって生かされた」

あの時、あの場所に来たのがセフィロス以外だったならば。
自分の人生はあそこで終わっていただろうか。
いや…セフィロスが一番に来なくても、彼以外のソルジャーには負けたりしなかった。
それを考えれば、彼があの殲滅に参加していた時点で、二人の出会いは必然だったのだろう。

「何でレジスタンスがソルジャーなんだよ!」
「バレット、駄目!」
「相手は神羅だぞ!結局、最強のソルジャーさんも金に傾いたってか!?」

必死になって止めようとするティファの声も聞こえていないようだ。
その巨体を押さえ込もうとする方が不可能。
コウは、そんなバレットに目を向ける。

「神羅に反抗していたのは、彼らが民衆の生活を脅かしていたからよ。そんな組織に属する者が金で傾くとでも?」
「ケッ!口ではどうとでも言えるだろうが。
現に、ソルジャーっつったって、金で反抗勢力に手を貸す奴が居るんだからな」

明らかにクラウドを見ながら告げられた言葉に、彼が軽く眉を寄せる。

「元、だ。今は違う」
「…とにかく、先を急ぎましょう」

こんなところで問答している時間がもったいない、とそう言って歩き出すコウ。


「バレット…私、コウさんはお金でソルジャーになったわけじゃないと思う」
「…チッ!」

控えめに声を上げるエアリスに、バレットは盛大な舌打ちを返した。
同じレジスタンスの一員だった者が、ソルジャーに寝返った。
その事実は、彼にとっては許せないものだった。

「胸糞悪いぜ…」

そう呟き、バレットは前を歩くコウの背を睨み付ける。
沈黙していたティルは冷めた目で彼を一瞥し、そして足早にコウの後を追った。

08.06.14