Crimson memory

ふと、酒を飲んでいたタークスの右隣に、席を二つ空けてその人物が座った。
カタン、とカウンターの椅子を鳴らし、そこに腰掛ける人物。
口元を殆ど覆い隠してしまうようなマントは上半身を隠してしまっている。
その下から伸びる脚線美は、それが女性であることを教えてくれていた。
チラリ、と横目でその人を見たタークス…レノは、軽く3秒は静止する。
思い出したように視線を前の棚へと戻し、その口角を持ち上げた。






「どうぞ」

暫くして、注文したウイスキーが空になった頃。
その女性の前に、マスターからの声がかかり、グラスが置かれる。

「…頼んでいないわ」
「あちらのお客様からです」

そう告げられ、彼女は視線をそちらへと動かす。
そこに座っていた赤髪の男がひらりと手を振った。
そして、そう間をおかずに彼は席を立つ。
店を出るのかと思いきや、彼は一つの空席を越えて女性の隣へと腰を下ろした。
横目でそれを確認したようだが、彼女は何も言わない。

「マスター、俺も同じの」

はい、と言う返事がして、暫くしてから女性の前に置かれているのと同じグラスが差し出された。
それを一口喉に通してから、彼はふぅ、と息を吐き出す。

「久しぶりだぞ、と」
「……………覚えていたのね」
「あんたみたいなイイ女はそうそう忘れられるもんじゃねぇな」
「あっちは放っておいていいの?」

一緒に飲みにきたんでしょう、と言いながら彼に奢ってもらったグラスに手を伸ばす。

「男と飲むよりも女と飲む方が酒も進むぞ、と」
「…変わらないわね。レノ」

クスリと笑い声が聞こえた。
恐らく、隠れた口元には笑みが浮かんでいるのだろう。

「あんたも変わってないぞ、と。…死んだのかと思ってた」

静かにそう告げるレノに、彼女はそう、とどこか人事のように頷く。
それから、カランとグラスの中の氷を揺らした。

「今はどうしてるんだ?」
「彼を探しているの。本社のビルに姿を見せたと聞いたから。社長は…彼に殺されたんでしょう?」
「あいつの事は伏せてたはずだけどな、と」
「私を侮らないでほしいわ」

そう答え、彼女はグラスを離す。
既に殆ど空になっているそれを見て、レノが追加を注文しようとした。
しかし、片腕を上げてそれを止める。

「あんたを見つけたら捕らえるよう指令が出てる」
「捕まえる?」
「…今は休憩中だぞ、と」

彼はそう言って一気に酒の残りを飲む。
そんな彼に、彼女は「感謝するわ」と呟いた。

「セフィロスに殺されたって聞いてたぞ」
「まさか。何でそんな話になっているのかがわからないわね」
「監視カメラに映ってた。あいつの刀があんたを貫く光景が」
「あぁ…そう言うことね」

彼女はそれ以上何も言わなかった。
語られることのない真相に、レノは軽く口を尖らせる。
彼の反応を見た彼女は静かに笑みを浮かべた。
そして、カタンと椅子を動かして立ち上がる。

「行くのか?」
「ええ」
「怪我すんなよ」
「優しいのね」
「次、仕事中に出会ったら捕まえるぞ、と」
「捕まえられるものなら、どうぞご自由に」

金を取り出そうとした彼女の手を制する。
そしてポケットから札束を取り出して彼女のグラスの隣においてしまった。

「…ありがとう」

そう言って微笑むと、彼女は彼の方に手を載せた。
そして、その頬にそっと唇を触れさせる。
一瞬の感触にその身を固めるレノを置いて、彼女は彼の連れの方へと歩いた。
彼のところで何かをささやいた後、そのまま振り向くこともなく店を出て行く。
暫くして金縛りから解放されたレノは、グラスをそのままに連れの元へと戻る。

「何話してたんだ?」
「…例のアバランチがここに来ている可能性があるらしい」
「………休憩中だぞ、と」





地下からの階段を上がり終え、夕日に染まる空を仰ぐ。
人の通りが多いことを確認し、彼女は口元をマントで隠した。
これだけで分からない者にはわからなくなってしまうのだ。
まさか、こんなところに。
そんな先入観は、彼女に味方してくれる。
簡単に神羅兵の脇をすり抜けた彼女は、マントの中で口角を持ち上げた。
そして、細い路地へとその姿を消す。

















彼女が消えて十数分後、入れ違うようにしてとある集団が店へ続く階段を下りた。
レノは数人分の足音を耳にし、自然と胸ポケットのロッドを意識する。
一般人の足音に、極限まで音を消したそれが混ざっていたからだ
タークスと言う仕事をしている以上、警戒心は人並み以上。
ただし、それを表に出すことはない。
隣のルードも同じことに気づいたのか、先ほどまでの緩んだ空気が消えている。
表情の変化に乏しい彼のそれに気づいたのは長年の付き合いのお蔭だ。
程なくして、階段を下りてきた一団。
それがクラウド達だと気づいたが、彼らは動かない。

「タークス…」

クラウドがポツリとそう呟く。
自分たちは仕事熱心ではないから構わないが、他のメンバーだったらここで乱闘だ。
迂闊な奴だ…と思いつつ、上半身ごと彼らを振り向く。
自然にそちらに視線を向けたレノは、クラウドと一緒にいる男に目を見開いた。
すぐに別人だと気づいたが、あまりに目立つその銀髪。
そして、先ほどの彼女と同じ色、同じ強さを持つその眼差し。
以前クラウドたちに会った時にはいなかった男だ。
別行動を取っていたのか、それともまだ行動を共にしていなかったのか。
レノにそれを判断することは出来ない。

「あんたもセフィロスを知ってる口か」

慣れているのか、男は面倒くさそうに溜め息を吐き出した。
どうやら、セフィロスと係わり合いがあると見て間違いはないようだ。
相手からの反応があったことにより、レノは気にすることなく上から下まで彼を見る。
不躾な視線に軽く眉を寄せるその表情に、いつかのセフィロスが重なった。
あの男もまた、よくこんな表情を見せていたものだ。

「お前、名前は?」
「…ティル」
「………どこかで聞いた名前だな…。まぁ、いい。俺はレノ。こっちはルードだぞ、と」

敵であることなどお構い無しに自己紹介をする彼ら。
呆れたような、馬鹿にされているのだろうかと不服そうな、そんなクラウドたちの視線。
ティルはそれに気づくことなく、一歩前へと足を踏み出す。

「女がここに来なかったか?」
「……女なら後ろで飲んでるんじゃないか?」

そう言って、レノはくいっとカウンターの後ろのテーブル席の方を顎で指す。
確かに数人の女性が飲んでいるようだが、自分の探す女性はどこにも居なかった。

「…悪かったな」

クルリと踵を返し、階段を上がっていこうとするティル。
そんな彼に、レノは今度こそ身体ごと振り向き、口を開いた。

「セフィロス」

ピタリとティルの足が止まる。
その反応に、彼とセフィロスの間には確かな関係があることを確信する。

「お前、あいつによく似てるな、と」
「…聞き飽きた台詞だな」

そう言い残し、ティルは先に行くとクラウドに伝えて去ってしまう。
彼を見送ったレノは、ククッと喉で笑った。
彼が誰を探しているのか―――何となく気付いていたのに、あえて教えないレノ。
そんな相棒の様子に、ルードは心中で溜め息を吐き出す。
ティルも余計な奴に目を付けられたものだ。

08.03.20