Crimson memory
「チョコボ?」
柵の中で自由気ままに歩いている黄色く大きな鳥。
一人は優に乗せられるであろう大きさのそれを前に、ティルはそう呟く。
彼に興味を持ったのか、一羽が柵の方へと近づいてきた。
自分の顔と同じくらいの嘴が目の前に来て、少しばかり怯むティル。
大きくてくりんとした目が純粋な色を宿して彼を見つめた。
「ティル。見詰め合っている暇はないだろ」
視線を逸らすことを忘れてしまっている彼に、クラウドの呆れを含ませた言葉がかけられる。
我に返ったティルは、ふいっと視線を逸らして彼に続いた。
ちょこぼうと呼ばれるそこに入っていくクラウド。
中にはチョコボの世話をしている少年と少女がいた。
「あ、いらっしゃーい」
少女が先に気づき、そう声を上げる。
小さいのにしっかり手伝いをしているようだ。
その声に反応して、藁を運んでいた少年が振り向いた。
「いらっしゃ……セフィロスさん!?」
驚いたように目を見開く彼に、またか、と心中で溜め息を吐く。
どこにいっても、彼の影がジリジリとティルを追い詰める。
「あ、別人か…驚いた。……ごめんなさい。えっと…チョコボなら、左の建物で話を聞いてね」
「あぁ、わかった。…少し中を見せてもらってもいいか?」
「いいよ。でも怖がらせちゃ駄目だよ。お客さんから預かってる大事なチョコボたちだから」
少年はそう言うと、先ほど驚いた時に落としてしまった藁を拾い上げ、奥へと歩いていく。
左右に並んだそれを一つずつ覗いて行く。
興味深げに視線を返してくるチョコボもいれば、無視を決め込むチョコボもいる。
様々だな、と思いつつ、クラウドは奥へ奥へと歩いていく。
そして、その一番の奥の房へと辿り付いた。
そこには、他よりも広く、そして二羽のチョコボが仲良さそうに座り込んでいる。
他のチョコボとは羽根色が違うように見えた。
「いいチョコボでしょ?」
いつの間に来ていたのか、少年がクラウドの隣にいた。
そう声をかけてきた彼に、素直に頷く。
「この子達は一番のお得意様のチョコボなんだ。本人たちと同じように、チョコボも最高クラスだよ」
「そうなのか?」
「うん。滅多にお目にかかれないチョコボなんだよ」
「……持ち主は誰なんだ?」
クラウドの質問に、少年はうーん、と首を傾ける。
「これ、言っていいのかわからないから…気になるなら、向こうの建物の中で聞いてみてよ」
「…わかった」
「クラウド。そろそろ行こうぜ」
クラウドが頷いた頃になって、漸くティルが追いついてきた。
彼がそこを覗き込むと、座り込んでいたチョコボたちが一斉に彼の方を向く。
真っ直ぐな視線を向けられたティルは、突然のことに思わず身体を仰け反らせた。
「…何だ?」
二羽は藁の上から立ち上がり、彼の方へと歩いてきた。
そして、その胸元に擦り寄るように頭をこすり付けてくる。
ただでさえ大きな頭が二つも寄ってくれば、流石のティルとて押し負ける。
「何だよ、お前ら…っ」
慌てた様子で3歩後ろに下がれば、名残惜しそうに見つめてくる二羽。
何だか悪い事をした気分になってしまい、ティルは落ち着かない様子だ。
しかし、冷静になってみると、この二羽は自分を見ているのではないような気がする。
視線の先を辿ると、そこには青いペンダントがあった。
「……これか?」
そう呟きつつ、それだけを彼らの方へと近づけてみる。
途端に、嬉しそうに鼻を寄せてくる彼ら。
どうやら間違っていないようだ。
そんな様子を見て、クラウドが何かに気づく。
「…まさか、この二羽は…コウとセフィロスのチョコボか?」
「……うん。そうだよ」
少年はそう答え、ギザールの野菜が入った籠を抱えてくる。
そして、すぐそこにいる二羽にそれを与え始めた。
「この子達は、二人のチョコボなんだ」
「…今も世話をしているのか?」
「当然だよ。コウさんに、もし自分に何かあった時は育ててほしいって頼まれたから」
機嫌よく野菜を食べていくチョコボたち。
そんな彼らに、慣れた様子でそれを与え続ける少年。
「維持費がかかってくるだろ?」
「口座が尽きるまで預かってくれって。世話を始めて5年近くになるけど…まだ、1割にも満たないんだ」
そう告げ、空になった籠を元の位置に戻す。
それから、二羽の嘴の付け根を撫でた。
「この子達の身体能力なら、房を出て行くことだってできるんだ。でも…待ってるんだろうね」
いつだって、二人はここに迎えに来た。
押し倒さんばかりに突進されても、笑って「ごめんね」と迎えに来ていた。
移動手段としてではなく、家族としての想いがそこにあることを、少年は何度も感じていたのだ。
だからこそ…待っている二羽の気持ちがよく分かる。
ここにいれば二人が来てくれる―――彼らは、その日を待っているのだ。
「……こいつら、俺に引き取らせてくれないか?」
ティルが彼らを見つめながらそう声を上げた。
驚いたように軽く目を瞬かせたクラウドを横目に、少年は首を振る。
「駄目だよ。この子達が待ってるのは、代わりに可愛がってくれる人じゃない。あの二人なんだ」
はっきりとそう答えた少年に、ティルはそうか、と身を引いた。
無理に引き取っても仕方がない。
ここで平和に暮らしていけるならば、それも一つの道だろう。
「クラウド、先に行ってるからな」
ティルはそう言うとペンダントを引き寄せてちょこぼうの外へと歩き出した。
外の柵のところでは、他のメンバーがチョコボと戯れていた。
そうは言っても戯れているのは女性陣だけで、男性陣は遠巻きにその様子を眺めているだけだが。
「あ、ティル!」
今まさにそこから出てきたティルに気づいたエアリス。
彼女はおーい、と大きく手を振って彼を呼んだ。
しかし、ティルはそれを一瞥しただけで、そちらに向かって歩いていこうとはしない。
そして、無言のまま視線を逸らした彼は、ちょこぼうの裏手へと向かった。
「あの野郎、無視するのかよ」
ケッ、これだから…と、未だに彼との親睦を深められずにいるバレットがそう呟いた。
エアリスは首を傾げてゆっくりと手を下ろしていく。
「ティルどうしたのかしら」
愛想がいいとは言えないクールな性格だが、あんな風に無反応と言うことはない。
呆れるなり、肩を竦めるなり…まるでクラウドがもう一人いるみたいな反応を返してくれるのが常だ。
それが不思議だったのか、ティファも心中で首を傾げる。
「私、ちょっと行って来るね」
そう言うと、エアリスはそのまま足早にティルの後を追う。
それを見送っていると入れ替わるようにして、クラウドが出てきた。
すれ違ったエアリスがどこに行くのか分からず、彼は疑問符を頭の上に乗せる。
「エアリスはどうしたんだ?」
「ティルの様子がおかしいようだ。奴を追っていった」
クラウドの疑問に答えてくれたのは、一番近い位置にいたレッドXIIIだ。
彼の答えに、クラウドは、あぁ、と納得したように頷く。
そんなクラウドの反応に声を上げたのはティルの行動を不思議に思ったティファだ。
「クラウド、何か知ってるの?」
「……行く先々で面影が見つかるからな。心中複雑なんだろう」
そっか、と頷くと、ティファはエアリスの後姿を捜すかのようにそちらを見つめた。
壁に沿って置かれた木箱の上に座った彼は、ぼんやりと空を仰いでいた。
無言でポケットから煙草を取り出し、一本を唇に挟む。
「こーら。煙草は身体に悪いでしょ」
指先に発動した魔法で火をつけようとしたその時、聞こえた声と共に煙草が消える。
不満げなティルの視線にも動じることなく、エアリスはそれをポケットに押し込んだ。
彼はそれを見てこれ見よがしに溜め息を吐き出し、顔ごと彼女から視線を逸らしてしまう。
そんな彼を見つめ、それ以上は何も言わずにその隣に座った。
沈黙の時間が優しい。
それに身を委ねるようにして、ティルはそっと瞼を伏せた。
08.03.08