Azure memory

私がセフィロスと初めて出会った時の事を話すには、どうして神羅に入ったかを話さなければならない。
セフィロスと私―――二人は、敵同士だった。




「コウさん!南から神羅兵です!!」
「負傷者に手を貸して、東へ逃げな!ここは私が食い止めるから!」

額に包帯を巻いた男がコウを呼んだ。
硝煙の立ち込めるその場は酷く荒れている。
その時、コウは小さな義賊の一角を担っていた。

「コウ!頭がやられた!」
「な…!ブランクが…」

頭と言えば、コウよりも高い戦闘能力を持った一団のトップだ。
彼がやられたとなれば、今まで送り込まれてきた雑魚とは訳が違う。

「…ソルジャーが出てきたのかもしれない」
「そう見て間違いないだろうな。全員バラけろ!!」

そう指示を出したのは、コウと同じ地位に属する男だ。
どちらも数名の部下を抱えている。
各自に伝わるようにと声を荒らげつつ、彼女は周囲に意識を配っていた。
どこからアジトの情報が漏れたのかは分からないが、ここはもう駄目だ。
ここだけではなく、一団そのものがもう限界だろう。

「ここまでか…」

世界を牛耳っているといっても過言ではない神羅を相手に、よく頑張った方だと思う。
始まりがどんな風だったのかは覚えていない。
ただ…いつの間にか、彼らと一緒になって、神羅に対抗していた。
アバランチなんていう組織もあるらしいが、そちらはまだまだ水面下の動きしか見せていない。
だが、自分達がここで潰れれば、数年後にはそれに成り代わって水面に出てくるだろう。

「神羅が変わらなければ…いくら潰したとしても、抵抗勢力がなくなる事はない」

銃声と悲鳴と―――耳や目を塞ぎたくなるような光景を見ながら、コウはそう呟いた。
―――キン。
小さな音がして、コウは咄嗟に右へと飛んだ。
そのまま空中で身体を反転させ、地面へと着地するのにあわせて腰の剣を抜く。
先ほどまで自分が立っていた場所が、長すぎるのではと思うような長刀によって抉られていた。

「…避けるとは思わなかった」

その長い得物の持ち主は、長身の男だ。
よほど長いものが好きなのか、と思うほどに、髪もコートも長い。
ついでに言うならば四肢だって長く均整が取れているのだが、それはどうでもいい事だ。

「女性の背後から斬りかかって来るなんて…随分と無粋な事をするのね、ソルジャーって」
「…手配書で見た顔だな」
「あら、そう?随分と有名になったものね、私も」

そんな軽口を叩きながらも、隙のないソルジャーに心中で舌を打つ。
恐らく、この男が一団の頭を討ったのだろう。
そうならば、コウよりも実力は上、と言う事になる。
逃げるだけならば出来るだろうか―――男を前に、コウの脳内は忙しく動き回る。
だが、そんな風に無駄な時間を許してくれる筈もなく、男は地面を蹴ってグンッと近づいてきた。
刀と剣がぶつかり合い、火花を散らす。

「コウ!!」

自分の部下を逃がして戻ってきたのだろう。
先ほどの彼が、驚いた様子で彼女の名を呼んだ。

「先に行って!!」
「だが…!」
「早くっ!!」

コウの声に押され、彼は苦渋の表情を見せながらもその場から駆け出した。
死ぬなよ、と言う言葉を残して。

「…無駄だ」
「…何が無駄だって言うの?」
「アジトからの逃げ道にはソルジャー・クラス2ndが各10人待機している。蟻一匹逃れられん」

やはり、神羅は徹底的に潰すつもりだ。
今までとは比べ物にならない人数を使い、最後の一人まで片をつけるつもりらしい。

「あなたたち神羅の所為で…どれほどの人が苦しめられているか…。
魔晄炉の所為で土地を奪われ、ミッドガルのスラムには今も空がない!
あなたはそれを知っているの!?」
「…俺には関係のない話だ」

彼の返答に、コウはカァッと頭に血を上らせた。
だが、無理やりに言葉を飲み込み、彼を睨みつける。

「あなたに何を言っても無駄ね。でも…これだけは言っておくわ。私達を潰しても、新たな勢力が芽吹く」

神羅と言う組織が負けるか…変わるまでは、何度でも。
ギギギ…と剣が嫌な音を立てる中、コウはそう言った。

「他人のためによくそこまで動く気になるな」
「当然よ。私はこの世界が好きだもの。モンスターとか危ないものも居るけれど…人々が居て、自然があって…。
神羅がそれを壊そうとしているのなら、私は何が何でもそれを止めるわ」

強い眼差しだ。
その意思を固めたような目に、男は目を奪われた。
何かを美しいと思ったのは、これが初めてではないだろうか。
自分の目を奪った目の前の女に、興味が湧いてくる。
力を抜いていた手にそれを込めれば、彼女の剣はあっさりと折れてしまう。
拮抗を失った彼の刀は、彼女の身体を斬り裂こうと迫る。
だが、彼女はそれから逃れようとはしなかった。
その肌に触れる直前でピタリと静止する白銀の刀。

「…死ぬ気か?」
「殺そうとした人の言う事じゃないわ。尤も…殺される事を受け入れた私の台詞でもないけれど」

コウは折れた剣を放り出して肩を竦めた。
得物があるならまだしも、丸腰で敵うとは思っていない。
諦めにも似たことを思い浮かべつつ、苦笑を零した。
その時、突然彼のコートから電子音が響いた。
無言のままにそれを開き、耳へと押し当てる彼。
隙…と言えば隙なのだが、恐らく逃がしてはくれないだろう。
最早、無駄な足掻きはしない。
通話が終わるまでの間彼が発した言葉と言えば「ああ」と「わかった」の二言だけ。
話が終わったのか、彼は無言で携帯をポケットに戻す。
それから、コウの方へと向き直った。

「殲滅は完了した」
「………そう。なら、私で最後ね」

下手な希望を抱いてしまわない分よかったのかもしれない。
自嘲めいた笑みを浮かべ、瞼を伏せる。
しかし、いくら待っても焼け付くような痛みはなく、不思議に思った頃、変化は起きた。
突然の浮遊感に思わず目を開くと、そこに見えたのは美しい銀。
それが彼の髪だと悟るのにそう時間は必要ない。

「ちょ…!何のつも―――」
「…俺だ。社長を出せ」

電話しているのだと気付くと、どうにも声を上げることができなくなってしまった。
肩に担がれた状態のまま口を噤んだコウは、心中で髪を毟ってやろうかと考える。

「…そうか。なら、伝えろ。今回の任務の報酬はいらん。代わりのものを貰う」

それだけを伝えると、彼は携帯を斬った。
そう、電源を切るだけではなく、文字通り刀で斬ったのだ。
真っ二つに切断されて沈黙するそれを見てから、コウは彼を見る。

「よくそんな勝手な行動が出来るものね」
「それが出来るだけの位置に居る」
「…あぁ、そう」
「変化を待っているなど無駄以外の何物でもない。変わらないものは、変えればいい」

彼が歩き出した所為で、コウはその不安定さから彼に掴まらざるを得なくなった。

「内側から変えろって事?そんなの…出来るわけがない」
「出来るか出来ないか…お前次第だ」

出来るとは言わない彼の言葉は、何故かすんなりと受け入れる事ができた。
コウは、走馬灯のように浮かんでは消える記憶の中から、自分の結論を探す。

「あなたみたいに我侭が通る位置まで行けば…何か変わるかしら」
「結論が早いな。敵に寝返る事になるんだぞ」
「生憎、うじうじと悩むのは好きじゃないの」

コウの答えに、男は「そうか」とだけ答えた。







「コウ?」
「うん?」
「どうかしたのか。上の空だな」
「…出会ったときの事を思い出していたわ」

頬を撫でる手に自分のそれを重ねる。
いつの間に彼が近くに来ていたのかは知らないけれど、いつもの事なので気にしない。

「結局、上まで登り詰めても神羅を変える事は出来そうにない…。無力ね」
「…そうだな」
「手の届く範囲しか守れないし救えない。私は自分の力を驕っていたんでしょうね」

望みはあまりに高すぎた。
ソルジャーになった事で、より強く感じたのは、神羅と言う組織の大きさ。
自分の相手にしているものの強大さだ。

「後悔しているか?」
「…していないわよ。あなたと会えたから。それに…まだ諦めたわけじゃないもの」

ニッと口角を持ち上げてそういった彼女に、セフィロスもその口元に笑みを浮かべる。
この強い目に惹かれたのだ。



「ねぇ、あなたの名前は?」
「セフィロスだ」
「そう。セフィロス…ね。私はコウよ」


出会ったその瞬間から、二人は惹かれ合っていたのかもしれない。

08.02.08