チューリップ

「知ってたよ」






試合が終わった鷹に、近付いても良いのだろうかと悩む。
それでも、彼との視線が絡み、その目が何を言わんとしているのかを察すると迷いは消えた。
軽くはない足取りで彼の元へと走り寄る。

「お疲れさま」

紅は泥門であり、帝黒を破った学校だ。
彼女は勝者であり、彼は敗者であった。
そして、そんな状況以上に、全てを知ってしまった彼に対しての言葉を探すことは難しい。
何を言えばいいのか、言葉を探すように沈黙した紅に、彼は言った。






「なに、を?」
「全部。紅が俺に隠れてアメフト部の助っ人をしていたのも、その理由も」
「…え?」
「紅のことなのに、俺が知らないと思った?」

穏やかな表情を見上げ、思わず大和を見る。
大和が何かを教えてしまったのだろうか―――大和にだけは、色々なことを伝えていたから。
すると、彼は少しだけ苦笑するように肩を持ち上げた。

「俺が何かを言わなくても、鷹は気付いてたよ。流石だね」
「そう…なの?じゃあ、知ってて…」

全てを知っていて、彼は何も言わずに黙ってくれていたのか。
驚いたように鷹へと視線を戻す。
いつもは変化の少ない表情が、今は少しだけわかり易い。

「怪我だけはすごく心配した。この前も足を庇ってたし…大丈夫だった?」
「うん、足はもう治ったよ。それに、花梨と同じように、避けるのだけは頑張ったから…大きな怪我はない」
「それなら、良かった」

そういうと、鷹は少しだけ唇を閉ざした。
最後の審判を待つように、ギュッと唇を噛み締めてその続きを待つ。
下された判決は、冷たい言葉でも悲しいまなざしでもなく―――優しい、手の平が頭を撫でた。

「ありがとう、紅。俺のために、ここまで来てくれて」

あたたかくて優しくて。
責めるような色はなく、自分を甘やかしてくれる時の、紅が大好きな鷹の声だ。

「…私の力じゃない…デビルバッツは、きっと私がいなくたってここまで辿り着いたよ」
「少しだけ、紅が認めた仲間だから、何かが変わるかもしれないって思ってた。だから、ありがとう」

鷹が、笑ってくれている。
この試合を、心底楽しんだと言う満足感と共に。
気が付いたら、涙で前が見えなくなってしまっていた。

「おめでとう…!」

ボロボロと大粒の涙をこぼす紅に、鷹は優しく微笑みながらその涙を拭う。

「敗けたのに?」
「それでも!鷹にとっては、おめでとう、でしょ?」
「うん、そうだね。ありがとう」

その言葉を最後に、堪え切れなくなった紅は、勢いよく彼の胸に飛び込んだ。

「プロテクター、痛くない?俺、汗だくだし」

女の子には酷だろうと思うけれど、フルフルと首を振ってより一層しがみ付いてくる紅。
そんな彼女に小さく笑い、その背中を抱きしめた。

「―――そう。じゃあ…しばらく、このままで」










「あれが噂の彼氏…」
「いや、想像以上で…」
「ある意味想像通りと言うか…」
「やー!超ラブラブ!」
「鈴音ちゃん…目が輝いてる」
「そう言うまも姉も!興味深々って感じ~?」
「それは…否定しないけど。もう、蛭魔くんは知ってたんでしょう?あんまり隠されるから、逆に気になってたわ」
「テメーらにばれたら芋蔓式に広がるだろうが」





「いつも笑っとる紅がボロボロ泣いとる」
「…何や、変な気分になるなぁ…あの泣き顔はあかんわ」
「えぇ!?変な気分て…あきませんって!」
「普段が元気で快活なだけに、ああいう女っぽい所を見せられると…何つーか………なぁ?」
「ははは!紅は元から可愛いよ。あんなに一生懸命な彼女、男冥利に尽きるじゃないか」
「や、大和くん…?」
「どうしたんだい、花梨。心配しなくても二人は大事な友人だよ」

花言葉:誠実な愛、恋する年頃

16.10.10