チューリップ
「あ、大阪なら紅に案内してもらえばいいじゃん!紅―!!」
名案とばかりにテンション高く紅を呼ぶ鈴音。
その声が届いたのか、別の所にいた紅が三人の元へと歩いてきた。
「呼んだ?」
「うん!今から帝黒学園の視察に行こうって!紅は大阪詳しいんでしょ?帝黒学園の場所ってわかる?」
「――――」
帝黒学園―――その言葉に、紅が息を飲んだ。
その視線がモン太を一瞥したけれど、彼は瀬那との話に夢中になっており、気付いていないようだった。
「…うん、よく知ってる。いいよ―――案内してあげる」
そこで、彼は自分が知らなかった真実を知ることになるだろう。
けれど、遅かれ早かれ、クリスマスボウルまでには知ることになるのだ。
今が潮時―――紅は静かに頷いた。
「紅?ごめん、都合悪かった…?」
「ううん。大丈夫。急に行って会えるかなぁって考えてただけ!」
楽しみだな、なんて笑顔を浮かべれば、先ほどの空気は瞬く間に消え去る。
笑う事だけは得意だ―――そうしてずっと、飲み込んできた言葉が沢山あるから。
夜のうちに新幹線で大阪へと移動した後は、ネットカフェで一夜を過ごす。
そうして4人は紅の案内の元、帝黒学園へと向かっていた。
「ほら、あそこに見えるのが帝黒の校門だよ」
「ほー!でっけーなー!!」
まだ少し離れているのに感じるその存在感。
始めてその姿を目の当たりにした三人は興奮気味に賑わいだ。
「あら…紅ちゃん?」
「はい?」
我先にと足取り軽く足を進める三人を追って最後尾を歩いていた紅にかけられた声。
振り向いた先は紅の知り合いがいた。
「ひばりさん!わー、お久しぶりです!」
「本当、久しぶりね。元気にしていた?」
「はい!あ、ちょっと待っててくださいね」
紅は鷹の姉であるひばりにそう言い残すと、声に反応して足を止めていた三人の元へと駆け寄る。
「私、ちょっと話をしていくから、先に行ってて!」
「え、紅…一緒に行ってくれないの!?」
「帝黒なら大丈夫!生徒の誰かに声をかければ案内してもらえると思うから!」
帝黒の事情など一つも知らない三人には何が大丈夫なのかわからない。
しかし、引き止めようにも彼女はもうすでにその場から離れてしまって、雑談に花を咲かせていた。
大丈夫と言うからには大丈夫なのだろう。
そう信じることにして、三人は帝黒の校門へと向かった。
一頻りひばりとの雑談を楽しんだ後、紅は慣れた様子で帝黒学園のアメフト部の部室へと向かっていた。
もう何度、この道を歩いたかわからない。
「たぶん、昨日の今日だから…ミーティングだよね」
スケジュールまで把握しているわけではないけれど、恐らくと当たりをつけて大評議会場へと足を向ける。
「あ―――鷹!」
丁度そこから出てくるその姿を見間違えるはずもなく。
ミーティングには顔を出すようにと大和に言われている彼だから、ここに来れば会えるとわかっていた。
けれど、やはりちゃんと顔を合わせられれば安心するし、嬉しくて足取りは軽くなる。
「すごいタイミングだね」
「姉さんからメールが来た」
手に持っていた携帯の画面を開き、紅へと差し出す。
そこには、校門前で紅と出会ったことが書かれたメールが画像付きで届いていた。
先ほど、二人で顔を寄せて撮ったばかりの新しい画像だ。
「さすがひばりさん…仕事が早い」
「どうしたの?学校は?」
二人が会えるのは、何か理由がなければ月に一度。
そう決めてしまわなければ毎日だって会いたいと思ってしまって、無理をする。
紅は自分でそう決めたルールは、必ず守ってきた。
それを知っているからこそ、その日ではない今日、彼女がこの場に居ることが不思議だった。
「んーと…あれ?来てない?」
偵察に来た彼らと顔を合わせていれば、予想は付くだろうと思っていたのだが。
あれ?と首を傾げる紅の視界、鷹の向こう側に息を切らせて来るその姿が見えた。
「一目見て、直観MAXだったぜ…」
ああ…と納得する。
やはり、彼は知ってしまったようだ。
「本庄鷹。史上最強の野手、本庄選手の一人息子だ……!」
繋がってしまった事実に、紅は瞼を伏せた。
混乱、失望…複雑な感情をぶつけられて尚、鷹の冷めた目はモン太を映さない。
「…紅」
「…ん?」
「さっきの答え、わかったよ。偵察の案内?紅は泥門だったね」
「…うん」
まるで、何事もなかったかのようだ。
戸惑う空気は別として、二人の親しみのある会話には気付いたようだ。
「鷹…ああ、そうか―――そういう事かよ…」
奥歯を噛み締め、呻くようにそう呟くその声に、紅が顔を俯かせた。
そんな彼女の変化に気付き、鷹が気遣うようにその肩に手を添える。
そうして、半歩分だけ鋭い視線を向けるモン太を振り向いた。
先ほどまでは背中でその声を聞いていた彼の態度の変化―――気付くなと言う方が、無理がある。
「よーくわかったぜ…変だと思ってたんだよ。いつもは明るい癖に、何か一線引いたところがあるって―――」
「モン太…」
「知ってたんだろ!?俺が!ずっと―――くそっ!」
走り去るモン太の背中を、悲しげに目を細めて見送った。
「…大丈夫?」
「うん。自業自得。鷹がそうだって、言えなくて」
「………」
「あ、違うんだよ!鷹が彼氏だって隠したくて言わなかったんじゃないの!」
「わかってるよ」
だから、大丈夫。ちゃんとわかってる。
言葉はないけれど、ぽんぽんと優しく頭を撫でる大きな手。
噛み締める様にその手を受け入れ、やがてパッと顔を上げた。
「さて、と!偵察ももうすぐ終わるだろうし、帰るね!少しだったけど、会えて嬉しかった!」
「…うん、俺も」
「クリスマスボウルの時は東京で会えるね。…楽しみにしてる」
頑張って、と言う言葉は飲み込み、笑顔を浮かべた。
花言葉:誠実な愛、恋する年頃
16.04.03