向日葵
「ところでさ、セナ。セナって泥門だったよな?」
6年ぶりの再会を喜ぶ中、思い出したようにそう問いかけた陸。
そうだよ、と答えた瀬那に、陸は何かを探すようにきょろきょろと周囲を見回した。
「じゃあ、紅も一緒なんだろ?」
どこにいるか知ってるか?
やはり周囲を探したまま問いかける彼に、戸惑いつつも答える瀬那。
「確か、さっき西部がどうとか言って―――って、陸、紅先輩と知り合い?」
先ほどは瀬那に浴びせられた質問を、自分が口にしている。
何とも不思議な感覚だった。
「ああ。知り合いっつーか…」
「陸?」
彼の声を遮る別の声。
それは今まさに話題になっていた紅のものだ。
振り向く陸に一度笑みを浮かべた彼女は、次に呆れのそれへと表情を変える。
「また寝坊したんだって?」
「いや、だってさ…寝たの朝方なんだよ」
「もう…だから電話で起こそうかって聞いたのに。大事な試合だったんじゃないの?」
「まぁ…でも、先輩たちが勝ってくれたみたいだし、次は絶対遅れないって!」
顔を合わせた途端に弾む会話。
その内容を聞いていれば、どう見てもただの知り合いには見えない。
もしかして、と言う考えは、誰の頭にも浮かんだだろう。
しかし、彼らの知る紅は、告白されてもその場で断り、実は男嫌いなのでは、と噂された事もある。
おいセナ、聞いてみろよ。え、僕が!?目と目の会話が成立した。
「り、陸!」
勇気を出して邪魔しにくい空気の中に、一声上げる。
途切れることなく言葉を交わしていた二人は、気にした様子もなく振り向いた。
「陸と、先輩って…?」
「ああ…」
そう言えば、途中だったな。
そんな呟きの後、陸は隣の紅を見た。
無言の二人の間で、こちらもまた、目と目の会話が終了。
「俺の彼女」
迷いもなくあっさりと、陸はそう答えた。
その隣では紅が変わらぬ笑顔を浮かべている。
数秒遅れ、泥門メンバーが多種多様な驚きの声を上げ、その場にいた人々から注目を浴びた。
「紅先輩が、陸と!?」
「いつから!?」
「じゃあ、告白を断ってたのは陸っくんがいたからなのね!」
「年下と付き合ってたんだー、意外かも!」
興奮冷めやらぬ様子のメンバーに、紅はにこにこと…いや、楽しげな笑顔を浮かべている。
悪戯が成功したような表情だ。
「いやー、こんなに驚いてもらえると、隠していた甲斐があったわ」
「隠してたんだ?」
「うん。折角だから、盛大に驚いてもらえたらと思って」
成功よね、と笑う彼女に、小さく苦笑する。
彼女らしいと言うか、何と言うか。
そう肩を竦めたところで、向こうから西部のメンバーが歩いてくるのが見えた。
「じゃあ、俺西部と合流するから」
「うん。あ、あとから私もそっちに合流するね」
「わかった。伝えとく」
「大丈夫だよ、もう伝えてあるから」
後でね、と告げる彼女に見送られながら、陸は仲間に合流した。
当然、残った紅はメンバーの質問攻めを食らう。
「ていうか、何で陸なんですか?」
「何でって言われても…好きだから。それ以外に付き合う理由ってある?」
紅は瀬那の質問に、当たり前のように答える。
少なくとも、紅は好いてもいない相手と交際するような軽い人間ではない。
真面目で純粋に、付き合っているのだ。
照れるわけでもなく、答えた紅に、逆に聞いた本人、他数名が照れた。
同時に、臆する事もなく当然の事を当然と言える彼女が格好良いと思う。
「やー!カッコいい!!」
キラキラと目を輝かせるのは乙女代表、鈴音だ。
何が何でも、一から十まで根掘り葉掘りと聞き出しそうな勢いである。
それに気付いた紅は、捕まる前にと逃げる準備をした。
「じゃあ、私は陸と一緒に帰るから。お先!」
お疲れ様、とその場から早足で立ち去る。
残念そうな鈴音の声は暫く聞こえていて、明日には引いているだろうかと不安になる。
たぶん、無理だろう。
「へぇ…紅が陸っくんとねぇ…ちょっと意外だわ」
紅とは同じクラスで仲が良い。
彼女の性格を知っていると思うからこそ、まもりには意外だった。
「紅が付き合うなら、年上の人だと思っていたから」
「わかるわかる!」
同意するように手を挙げる鈴音。
二人が会話を弾ませる脇で、瀬那も考えてみた。
確かに、自分の知る紅は年上とでもうまく付き合う気がする。
でも―――
「陸は…カッコいいよ」
走り方の師匠だからと言うわけではなく、そう思う。
少なくとも弱い者いじめをするような人間じゃなかったし、寧ろ弱い者を守るような性格だ。
精神的な部分を考えれば、自分よりも遥かに大人だと思う。
「まぁ、紅先輩の事は驚いたけど…それよりも、大事なのは次の試合だ」
瀬那はそう頭を切り替えた。
「おう、雪耶!遅かったな」
「ちょっと仲間と話し込んでいて遅れました」
慣れたように西部の監督と挨拶を交わす。
何度か顔を出しているうちに、監督をはじめ、メンバーとも随分と仲良くなっていた。
次の試合が西部との試合になってしまったのは残念だが、ある意味では楽しみでもある。
どちらも強いと知っているからこそ、楽しみなのだ。
「次は大事な試合だからな!雪耶、陸を頼んだぞ!」
ばしばしと背中を叩き、歩いていく監督。
「…頼んだぞって言われても…朝、迎えにでも行く?」
「いや、そこまでは流石に。でもま、モーニングコールくらいは頼むよ」
入れ替わるように隣にやってきたキッドはそう笑う。
その向こうでは、遅れた陸が先輩たちにからかわれているのが見えた。
「そう言えば、明日は体育祭だって?うちの監督が見に行くって張り切ってたよ」
「…あ」
今日の試合の方が重要で、学校行事の事なんて頭になかった。
他校の人間に言われて初めて思い出すなんて、そうそうある事ではない。
「ていうか、来るんだ?体育祭程度でわかるものじゃないと思うけど」
「ま、それはそうなんだけどね」
「あの人は一度言い出したら聞かないわよね。ご愁傷様」
振り回されるキッドの気苦労が見えた気がして、励ましを兼ねて彼の肩を叩く。
そして、漸く解放されたらしい陸に向けて、小さく手を振った。
花言葉:私の目はあなただけを見つめる。
11.06.25