向日葵

クリスマスボウルも終わり、年が明けた。
相変わらず休日返上で部活に参加している陸を訪ねてきた紅は、目当ての彼を見つけて手を振る。
丁度休憩中だったのか、紅に気付いた彼が仲間に一声かけ、ついでにからかわれてから駆け寄ってきた。

「紅!」
「お疲れ様。暇だったから来ちゃった」
「別にいいけど…連絡してくれればいいのに」
「連絡しなくたって、ここに居る事がわかってるんだからいいじゃない」

自宅に突撃したわけじゃないんだから、と言う彼女に、それもそうか、と思う。
部活に参加する事は伝えていたのだから、彼女が学校に来るならば擦れ違う事はまずありえない。

「練習はどう?」
「いつも通り」
「そっか。あ、これ差し入れなんだけど…良かったら、皆さんで」

何がいいかと悩んだ結果、王道だがレモンのはちみつ漬けを作ってきた。
受け取った陸は、それを見下ろして唖然とする。

「す、凄い量だな…」
「部員、多いでしょ。あんなに大量のレモンを買い込んだのは初めてよ」

恥ずかしかった、と語る彼女。
確かに部員全員に渡るであろうこの量を作ろうと思うと、レモンの数も半端ではなかっただろう。
その時の光景がありありと想像できてしまって、思わず苦笑いを浮かべる陸。
これだけ頑張ってくれたのだから、美味しいから部員に食べさせるのは勿体無い、などとは言っていられない。

「ありがと。皆、喜ぶよ」
「ごめんね、一人当たりの量は少ないかもしれないけど…財布的にも調理的にも、それが限界だったの」
「あ、そっか!ごめん、俺も出すよ。今すぐは無理だけど、帰りに!」

この量のレモンを購入するとなれば、たかがレモンとは言え金額も馬鹿にならないだろう。
今気付いたと慌てた陸に、紅は首を振った。

「大丈夫よ。昨日こき使われた分のバイト代をもぎ取ってきたから、私の財布は無事なの」

にこりと笑う彼女。
そう言えば、昨日は彼女も朝から晩まで忙しかったと言っていた。
何となく、金の出所を理解する。






会話が自然に切れたところで、部室から出てくるキッドを見つける。
彼もまた、こちらに気付いたようだ。
紅が手を振ると、少しだけ悩んでから二人の元へと歩いてくる彼。
悩んだのは、二人のじかんを邪魔する事に対する遠慮だろう。

「精が出るわね、キッド」
「お宅の所に影響された輩が多くてね」
「あ、キッドさん。これ、紅からの差し入れです」

陸が手渡したそれは、大きな紙袋に入っている。
透明のタッパーの蓋からその中身を確認したキッドは、困ったような笑みを返した。

「大変だったでしょ、これ作んの」
「寝る前3時間使ったわ」

どうよ、とばかりに胸を張る彼女は、謝罪がほしいわけではない。
ありがとうね、と礼を述べれば、彼女は嬉しそうに微笑んだ。











監督の許可を得て、キッドから部員へと差し入れが回される。
受け取ったはずの陸が配らなかったのは、皆の配慮があったからだ。
お蔭で休憩の間、紅と話をする事ができた。
そうして、間もなく休憩も終わろうかと言う頃―――別の訪問者がグラウンドを踏んだ。
それに気付いたのは、偶然にもそちらに目を向けていた紅だ。

「あ」

零れ落ちた声を拾った陸が振り向いた。
どうした、と問いかけようとした口は、訪問者を見つけて別の言葉を紡ぎだす。

「セナ?」

あまり他所の学校を訪問したりしない所為だろうか。
今、グラウンドに居るのはアメフト部だけなのだが、何だか挙動不審だ。
仕方ないなぁ、と苦笑を浮かべる紅。

「ちょっと、行って来るわ。誰かに用があるんでしょうし」

そう言って陸の元を離れた紅が近付いていくと、瀬那たちも漸く彼女の存在に気付いたようだ。

「紅先輩!」
「こんにちは、二人揃って何してるの?」

駆け寄ってきた瀬那とモン太に問いかけると、二人が交互に状況を説明してくれた。

「高校アメフトワールドカップの日本選抜ねぇ…」

意味ありげにそう呟いた彼女に、二人はあれ、と首を傾げる。
彼女ならば、驚くなり陸達を推すなり、何らかの反応をくれると思ったのだが。

「…道理でヒル魔が動いているわけだわ」

昨日色々と根回しをさせられたのは、それが原因だったのか。
何となく事情は察していたけれど、面と向かってはっきりと告げられれば状況は違う。

「それで、陸達を誘いに来たのね」
「う、うん。…何か、良くなかったですか?」
「え?あぁ…違うのよ。日本選抜ともなれば、メンバーの個性が濃くなって面倒だな、って思っただけ」

気にしないで、と微笑んだ彼女に、漸く緊張が解ける二人。

「もうすぐ休憩が終わるから、急いだ方がいいわ。一応、監督には伝えておいてあげるから、行ってらっしゃい」
「ありがとうございます!」

二人の声が重なった。
ふと、そのまま走っていこうとした二人を思い出したように呼び止める紅。
振り向いた彼らに、紅は笑顔を向けた。

「日本代表、おめでとう」

返ってきたのは今日一番の笑顔だった。






「日本代表おめでとう、陸」

日も暮れかけた帰り道。
陸の隣を歩きながら、紅がそう話を切り出した。

「あー…うん。ありがと」
「嬉しくない?」
「いや、嬉しいんだけどさ…急に世界が近くなったから、驚いてる?」
「や、聞かれても困るでしょ」

そう言ってクスクスと笑った彼女は、肩に引っ掛けた鞄を持ち直す。

「個性的なメンバーが集まるから、泥門以上にサポートが大変そう。相手も相手だし」
「確かに、そうだよな」
「でもまぁ…陸の試合が見られるなら、それはそれで満足かな」

春の大会まで見られないと思っていたから、余計に嬉しいと思う。
もちろんアメフト自体も好きだが、やはり彼が出ている試合を見るのが一番だ。
少しだけ照れながらもそう言った彼女に、陸も笑顔を見せる。

「楽しみね」
「あぁ」

花言葉:私の目はあなただけを見つめる。

09.08.30